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 春。


 長い長いゴールデンウィーク中に比和子ちゃんが玉様と夫婦喧嘩をして家出したり、正武家様のお役目関係で村に変な人たちが来ていたけれど、うちの周辺はそんなに慌ただしくはなかった。


 結婚してからも村役場で働いて、実家に帰って、同居する豹馬くんがお父さんと晩酌していたりするとうちは脱衣所で小躍りしながら服を脱いだ。

 不定期のお休みの豹馬くんは、御門森のお屋敷にうちが住むと気を遣うだろうから、実家に住むことに賛成してくれている。

 二人の希望としては家を借りたりして新婚生活を過ごしたいんだけども、お父さんとお母さんがお金が勿体無いと反対したので、同居。

 いずれこの家は二人の家になるんだから、と言われてしまえばそうよねとも思う。

 無駄なお金は使わずに質素な生活でも、全然うちは満足だ。


 でも最近。

 人間欲を出せばいくらでも出せるもので、お仕事が忙しいとはわかっているけれど、豹馬くんとの時間がもっと欲しくなってしまったうちは、ぼそりと家庭を顧みない男と呟いて、二度見されてしまった。

 頭ではわかってるんだけども、どうしても無駄に両親が二人揃ってる姿を見ると、無性に腹が立つ。


 そんなある日。


 豹馬くんが珍しく二日間のお休みを貰って帰って来た。

 前の日は日中に五村外へ出ていて夕方には帰る予定だったのに、結局帰って来たのは次の日の朝で、死んだように寝てたので、実質の休みは一日みたいなもんだった。

 でもうちはここぞとばかりに役場を休んで、ずっと一緒にいた。

 こんな機会を逃すわけにはいかんのよー。


「あと一日お休みあれば、どっか泊りに行けたかもねー」


「そうだなー。でも、どうせだったら二泊はしたいよな」


「でも三日のお休みなんて貰えないじゃないん?」


「とりあえず多門の腕がくっつかないと、無理だなー」


「多門くん、怪我したん!?」


 二人でベッドに寝そべっていたけど、うちはガバッと起き上がった。


 腕がくっつくってなんなん!?

 もげたの!? もげた腕ってくっつくん!?


 うちのアホな想像を見透かして目を細めた豹馬くんは、折れただけ、といった。


「折れただけって! 大変じゃないん!? 重傷!」


「腕なんかすぐに治るさ。問題なのは……」


「問題?」


「過去のトラウマがちょっと出たくらい」


「えええっ。大丈夫なん?」


「こればっかりは玉様にもオレにもどうにも出来ねぇな。上守ならワンチャンあるかもだけど、下手したら上守のトラウマにも触れる」


「うちに出来ることとかないん?」


「ないな」


「そうですか……」


 まぁ、解かっているんよ。

 正武家様のお役目で一般人のうちに出来ることと言ったら、外出禁止令を守ることくらい。


「しかも今回は上守には役目の詳しい内容は伏せるようにって澄彦様からも玉様からも言われてるから」


「そんなに酷い内容だったん?」


「それもあるけど。ちょっと耳貸せ」


 腕を引っ張られて倒れ込めば、耳に豹馬くんの吐息が掛かる。


「実は上守が懐妊した。精神的な不安は母体に影響するからっていうのが理由だ」


「えええええええっっっっっ!? 比和子ちゃんがーーーーー!?」


「声がデカい!」


「えーどうしよどうしよ。お祝い、いつ行けばいいん!?」


「正式に正武家から発表があったあとだろうな。トップシークレットだから誰にも言うなよ?」


「うんうん!」


 お母さんのトップシークレットとは違って、豹馬くんのは本物だった。




            了



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