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 後日。


 何かがあったらしい比和子ちゃんに会う為に、香本さんと正武家様のお屋敷を訪ねた。

 比和子ちゃんが居た部屋にはお布団が二組並んでいて、ギョッとした。

 だってお布団が二組って。

 比和子ちゃんが重ねて二枚使う訳じゃないだろうし、しかも玉様の部屋だって言うし、そういうことなんだろう。


 あの玉様とこの比和子ちゃんが!

 うちの妄想では二人が抱きしめ合い、下半身はお花で埋まっていた。


 それから南天様に案内されて庭でお茶をしていれば、既に後藤さんは正武家様のお屋敷から出て行ったそうで、うちのテンションは上がりまくった。

 もう、もう、比和子ちゃん大好き!

 溢れる気持ちが押さえられずに抱き付けば、よしよしと頭を撫でてくれる。

 レモンの良い匂いがするからずっと抱き付いていられるとうちは思った。


 比和子ちゃんは学校の終業式が終わってからすぐに電車とバスに乗って村へ来たらしい。

 本当は大学とか卒業してから数年後に村へと来るはずだったんだけれど、玉様の鈴が鳴らなくなって心配になったそうだ。

 で、お屋敷で後藤さんと遭遇して驚いたと笑ってた。

 けど。今は笑えるけど、実際に会った時にはきっと悲しい気持ちになったと思うんよね。

 だって自分の許嫁が知らないところで言い寄られて、押し切られる形でも一つ屋根の下で生活してたって聞かされたら、絶対に良い気はしないもんね。

 うちだって御門森くんが誰かと一緒に住んでるって聞かされたら、卒倒する。

 まぁ、うん。許嫁でも彼氏でもないけど。


 それから三人で学校の事とか話をしていれば、どうやら比和子ちゃんは色々あって夏休みの間は村に居るそうで、お祭りへ行く約束とかをした。

 なんていうか、比和子ちゃんがいる夏休みはいつも良いこと尽くし。

 それから夕方になって、後から合流した御門森くんと須藤くんも帰ることになって、四人で山道を下る。


「じゃあ、香本送って帰るから」


 いつも空気を読んでくれる須藤くんが香本さんを連れて歩き出す。

 うちは立ち止まっている御門森くんを見上げる。袴姿でカッコよさは二割り増し。


 うちの家は正武家様のお屋敷から近い。だからわざわざ送ってもらう必要はない。

 なんで家が近いん!? とご先祖様を恨んでいると、石段前まで歩いて、そのまま真っ直ぐ行くはずの御門森くんが自転車を押しながら、うちと一緒に右に曲がった。

 お家とは方向が違うのに。


 数百メートルの距離でも、無言でも。

 並んで歩けることに涙が浮かんだ。


 小学生の頃からずっと好きで、小中高とフラれ続け、それでも避けられることなく何となくお友達の関係は維持している。

 同級生の人数が少ないから避けることは出来ないだけかもしれんけどね。

 高校に入学してからは、頭の出来の違いからクラスは別だし、部活も別だし、接点は全然ない。

 時折校内で見かけても、制服の腕にある青い線が家政科のうちを拒否している様に見えて話しかける事なんか出来なかった。

 進学特化クラスの生徒は、自分たちのクラス以外の生徒とはつるまない。

 これはお父さんやお母さんの時代でもそうだったらしい。

 彼らは将来、五村を背負って立つ人たちだからそういうグループの集まりなんよ。

 だから一般人のうちらとは先生の扱いも違う。

 しかも玉様と御門森くんと須藤くんは超超別格で、玉様は正武家様の惣領息子様だし、御門森くんと須藤くんは稀人様なのだ。

 時々お仕事で学校を休んでも単位には響かないという好待遇。

 でもって、三人とも入学当初から女子にモテモテで、比和子ちゃんという許嫁がいるにも係わらず、玉様を始めとする男子の鈴白男子ファンクラブが立ち上がった。もちろん非公認だ。


 うちは迷わず入会した。

 誰が会長とかそういうのは無かったけど、ファンクラブ会員は抜け駆けせず、三人を見て愛でるだけの集まりという暗黙の了解があり、自分から三人に下心アリのアピールさえしなければ色んな情報が入ってくる。

 今日は登校しているか、から始まって移動教室が何時間目にあるから休み時間に三階の階段に居れば見られる、とかそんな感じだ。

 中にはどこのクラスの誰かが三人の誰かに告白したとかの重要情報もあった。

 でも、成功したという情報は一つも無かった。

 同じ学校だけど、話すこともあんまりなくて、須藤くんはうちと相変わらず玄関で会うと挨拶はしてくれるけど、朝練があるので滅多に会うことは無かった。

 テスト期間とかだけちょこっと話をする。

 玉様とはほとんど接触はなかったけど、たまに擦れ違って視線が合うと、「息災か」と声は掛けてくれる。

 その他大勢ではなく、人間その一を維持できている。

 御門森くんに至っては完全スルーだった……。


 だからこうやって無言でも一緒に並んで歩いてるってことは、うちにとって奇跡に近い。

 近いけど、家まで送ってくれるという事実に胸が痛い。


 神様! どうかもっと時間を! うちの家をあと十キロほど向こうへ遠ざけてください!




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