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 毎年夏休みは家の畑仕事がルーティンワークだ。

 ここでがっぽりお小遣いを貯めて、潤った夏休みを送るのが目標なんよ。

 高校生になってからは色々と必要な物が多くて、中学生の頃と比べて畑仕事を多めにしているのになぜか貧乏なんよねー。

 那奈ちんとか他の女子と纏めて通販で買い込んで、少しでも送料を浮かす作戦もしてるけど、もっと他に節約できる方法があれば良いんだけど。

 村から出て買いに行くことも出来るけど、交通費が痛くて出来んし、お母さんに車を出してもらおうとしてもお小言付きだから頼みたくない。

 髪の毛は近所の美容室の子の実験台になることで浮かしてるけど、ある程度伸びてからじゃないと出来ないのがネックなんよねー。


 とりあえず夏休み初日は、学校の疲れを癒すってことで畑仕事はしないので、うちは朝から二度寝を楽しんでいた。

 お父さんもお母さんも仕事でいないし、好きなだけ寝られる今日はすんばらしい日だ。


 部屋の窓を開けっぱなしで寝ていたら、ピンポンが鳴ってうちは無視した。

 朝から来るのは近所のおばちゃんの誰かだと決まってるん。

 回覧板か何かだろうと思って寝ていたら、何度かピンポンが鳴る。

 これは出るまで諦めないパターンの小林さんかもしれん。

 そしてうちが出なかったら、お母さんにちくられるパターンだ。

 休みの日で家に居るのに留守番も出来ないの? と嫌味たっぷりに言われる。


「小林さんめ……」


 うちはぼっさぼさの頭で二年もののパジャマのまま、階段を降りて、玄関を裸足で歩いてドアを開けて固まった。


「おはよー、亜由美ちゃん」


 おおうぅっ!?


「はうあっ!? 比和子ちゃん!?」


 ほっそい! 可愛い! 頭ちっちゃ! 髪なっが!

 ドアの向こうには神々しいばかりの比和子ちゃんと、その後ろに上機嫌の美しい玉様が居た。




 そんなこんなで今、うちは全速力で、商店街に向かって自転車を漕いでいる。

 比和子ちゃんと玉様が後で家に遊びに来る。

 ここは出来る限りのおもてなしをしなきゃいかん!

 自転車をかっ飛ばしていると、午前中から弓道部の部活へ行く御門森くんと須藤くんに出会った。

 二人はうちを見て自転車を停めたけれど、こっちはそれどころじゃないんよ。


「あ、あああああああ、あとでメールするぅぅぅーーーー」


 擦れ違いざまにうちがそう言えば、須藤くんは驚きつつも頷いたのが見えた。

 でも商店街でジュースを買う時にうちは思った。

 二人は玉様の稀人様になったから、比和子ちゃんが村に来てることは既に知ってるのかもしれんって。

 あの、とんでもなく別嬪さんになった比和子ちゃんともう会ってるのかもって。

 だから自転車を停めてうちに教えてくれようとしたのかも。


 家に帰って一息ついてから、須藤くんにメールをすると返事はメールじゃなくて電話だった。

 ちなみに御門森くんにメールをする勇気はない。メールをしても最小限の返事しか来ないことをうちは知っている。

 連絡事項についてなら返事は来るけれど、世間話になると返事を期待しちゃいかんのよ。


「もしもし!? 比和子ちゃんと玉様がうちに来たんよ!」


『本当!? 豹馬! 上守さん来たんだって!』


 須藤くんの声が少しだけ遠くなり、小さく御門森くんの寝ぼけてたんじゃね? という返事が聴こえる。

 失礼な、と思いつつ、確かに夢だったのかもとか思うけど、絶対間違いなく居たもん。

 だから毎朝三人で部活へ行くのに玉様が居なかったのに。

 うちはそれから須藤くんにどれだけ比和子ちゃんが変わったか熱弁をして電話を切った。

 そしてすぐに那奈ちんにも掛けた。

 比和子ちゃんが来てくれて、そしてあの玉様の様子を見れば、後藤さんが言ってたことは全部全部妄想の嘘なんだとうちにも解った。

 あの玉様がニコニコして手まで繋いで、車じゃなくて比和子ちゃんと歩いてるのを見れば、誰が一番なのか一目瞭然だ。

 これで後藤さんの独裁政権は夏休み明けには終了だ。

 夏休みの間、二人が仲良く歩いているのを見れば村民の知るところになる。

 そうすれば噂が回るのは早い。みんな内心では惚稀人の比和子ちゃん派だから、絶対好意的な噂になるはず。

 しかもあの白猿の一件もあったしなおさら!


「ひゃほーーーーーーー!」


 うちは一人、家の冷蔵庫の前で小躍りした。



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