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「あっ。弓場」
へへへと一人で炎を見ながら自虐的に笑っていると、ちょっと引き気味の御門森くんが駆け寄って来た。
「ど、どうしたお前」
「比和子ちゃん、見つからなかったん……」
「あー、それな。あっちで上守と玉様が遭遇したからなんとかなるだろ。ほら、行くぞ」
「えっ。うちらが行ったらお邪魔虫……」
「は? いや、肝試しに行くぞ?」
差し伸べられた手に呆けたまま手を乗せる。
歩き出した御門森くんの後ろに付いて、うちは心の中で叫んだ。
ビバ! 肝試し!
ビバ! キャンプ会!
ビバってどういう意味なんか知らんけど、ビバ! ひゃっほー!
放って置いたら小躍りしそうな足を運んで、御門森くんの背中を見ていたら、振り返って笑う。
「スタートからダッシュして、肝試しの最短記録作らね?」
「作らん……」
そこはゆっくり二人で歩いて楽しんでよ。
せっかく二人だけの思い出が作れるんよ。
空気が読めない御門森くんにそんな視線を送れば、なぜか上機嫌でうちと繋がった手を勢いよく振り回す。
「玉様が上守と丸く収まれば、色々と未来は明るいぞー」
「そうね。五村の未来は明るいね」
「……お前ってさぁ、マジで鈍感」
急激に機嫌が急降下した御門森くんは無言で歩く。
でも手は離さなかった。
「はーい。じゃあ、次、五十四番の子たちー」
何となく気まずくて繋いだ手を離そうとしたら、ぎゅっと力が籠められた。
「痛い。御門森くん」
「なんか、変な気配がする。オレから離れるなよ、弓場」
辺りを見渡した御門森くんの顔は、今までで一番真剣な顔をしていた。
で。
なんか良く解からんけども。
キャンプ会が中止になって、参加していた子たちは急遽鈴白村の小中学校の体育館に集められた。
今夜はここで一晩過ごす様にってグループのリーダーさんたちに言われて、うちは大人しく寝袋を広げた。
隣の那奈ちんは早々に皆のところへ行って、情報収集に励んでいる。
放って置いても後で色々と教えてくれるんだろう。
肝試しに出発する直前で駆け出した御門森くんはうちをリーダーさんに預けて、颯爽とみんなが騒いでいた方へと走って行ってしまった。
玉さまと比和子ちゃん、そして御門森くんと須藤くんの姿がないから何かのっぴきならないことが起きたんだろうとうちは思った。
だってさっきから白い猿を見たって子たちが興奮気味に話してるのが聞こえてる。
白い猿っていうのは鈴白村に昔から伝わる人を食べちゃう猿だ。
特に女の子が大好物なので、もし白い猿を見かけたら誰でもいいから誰かの家に逃げ込みなさいって小さい頃からお父さんやお母さんに教えられてる。
比和子ちゃんは何日か前に白猿と会っちゃったからきっと目を付けられて、今夜も追い掛けられたんだとうちは思う。
でも御門森くんが比和子ちゃんと玉さまが一緒にいるって言ってたから、きっと比和子ちゃんは無事なはずだ。
だって玉さまが居るんだもん。
絶対大丈夫に決まってるんよ。
でもやっぱり大丈夫かなって心配になっていると、体育館のどこかで女の子同士の諍いが聞こえてきた。
振り向けば那奈ちんと比和子ちゃんのお友達がお互いにブスブス言い合ってて、周りの男の子たちはあたふたしてる。
いつもならうちは止めに入るけど、今日はそんな気分じゃなかった。
那奈ちんと仲直りは出来たけど、肝心の比和子ちゃんとは出来ていない。
肝試しで御門森くんと一緒だったのに、出発前にとんずらされてしまった。
しかも途中でキャンプ会は中止になって、寝るのは良く知ってる体育館で、誰かさんたちの喧嘩の声のおまけつき。
良いことなんか、なーんもなかった。
「ブースブース」
「中途半端な不細工になに言われても屁の河童だわ」
「ブースブース」
……。
「あー、もううるさい! 二人とも白猿に狙われないくらいブスなんよ! もう寝なよ!」
寝袋から頭だけ出したうちの八つ当たりの叫びは、体育館にこだました。