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「そうか……何よりだ。九条は……そうか。今週末に帰る際には何か土産を買ってゆこう」


 スマホを耳に当ててベッドの上で胡坐を掻いて微笑んでいた玉様はオレを見るなり、眉間に皺を寄せた。

 まぁ何となくお邪魔なタイミングで登場してしまったことは認める。


「すまぬ。そのまま少し待っていてくれ。……なんだ」


 玉様はスマホに軽く手を当てて、オレをチラリと睨む。


「お客さん来たんだけど」


「誰だ」


「須藤の彼女の紅美ちゃん」


「それがどうした」


「今日は帰せって御門森が言うんだよー」


「……須藤は何と言っている」


「みんなが良いならどっちでも良いって」


「……小町は」


「え? 小町ちゃん? 小町ちゃんは×だって」


「では俺も否だ」


「え? なんで?」


 一緒に住む御門森や須藤の意見を尊重するならともかく何で小町ちゃんの意見?

 怪訝なオレを察した玉様は面倒そうに立ち上がって、ドアに手を掛けオレを締め出しつつ教えてくれた。


「比和子の親友である小町が嫌がることには賛成できかねる」


 あ、そこ。そこなのね。比和子ちゃん絡みなわけね。

 鶴の一声を聞けなかったオレは階段を降りたその足で玄関に向かい、ずっと待たせていた紅美ちゃんに須藤は留守だからごめんね、と嘘を付いて謝り、彼女の背中を見送った、んだけども。


 あの子、何か変な感じ。

 ぽつぽつと振り出した雨のせいなのか後ろ姿が歪んで見えた。気がする。




 それから数日後。

 いつもの三人とオレは大学から仲良くお家に帰って来て、夕飯を囲んでいると再びぴん、ぽーんとチャイムが鳴る。

 この鳴らし方は紅美ちゃんなんだと学習していたオレは須藤を見た。

 須藤は御門森と目配せをしてから席を立ち、玉様は黙々と食べていた。

 変な空気が流れた様な気がするんだけど、オレはとりあえず口を閉じる。つっても食べるためには開けてるんだけども。

 数分してから戻って来た須藤の後ろには誰も居なくて、本日も紅美ちゃんは帰されてしまった様である。

 まぁでもあれだよな。紅美ちゃんもきちんとアポを取ってから来れば無駄足にならないのにな。

 それに普通夕飯時に訪ねてくるってちょっと常識が無い。

 親が一緒に住んでいない家だから良いだろうと思っているのかもしれんが、同居している人間がいるんだし、少しくらい迷惑かなって考えるだろうに。

 しかしご飯の後は須藤だって時間が無いわけじゃないから紅美ちゃんを部屋に待たせておけば良いものを、とも思う。

 男四人の生活を明るくさせるためには女の子っていう存在が不可欠なのに。


 食事を終えたオレは何の気なしにカーテンを開けて外を見る。

 住宅街にある一軒家だから外を見たって家ばっかしなんだけど、オレは玄関の門のところに佇む人影を見つけて身体が強張った。


 スラリとした人影が門を抜けて玄関前に辿り着く。

 暗くて見えないんじゃない。

 ぼんやりと黒い何かに覆われてしまっているのだ。

 オレが部屋を振り向くより先に椅子を鳴らして立ち上がった御門森が玄関に走っていく。

 遅れてピンポンが鳴り、玉様は食後のお茶が入れられていた湯呑みをテーブルに置く。


 オレ、実はああいうの、何回か見たことあるんだよね。

 信じるか信じないかは人によるけど、この世の人間じゃない奴をたまに見ちゃうこと、あるんだよね。

 今ピンポンを鳴らした奴は、いわゆる憑かれた人間ってやつだと思う。

 しかもはっきりとオレにまで見えてたくらいだから、相当ヤバいやつに憑かれてる。

 でも何だって御門森はアレが来たって解かったんだろうな。

 誰かと約束してたのかとリビングの掛け時計を見れば中途半端に七時三十八分を指していた。

 玉様ーっと御門森に呼ばれて玄関に向かった玉様の後を追おうとすると、須藤に襟首を掴まれる。


「片付け手伝ってね」


「え、でも誰か来たみたいだよ?」


「うん。でも鈴木には関係の無いお客様だから」


 有無を言わさない須藤の微笑みに気圧されて、オレは渋々台所のシンクに食べ終わった食器をせっせと運ぶ。

 ご飯とお味噌汁。おかずは必ず三品に漬物。

 毎回こんな感じだから食器もそこそこな量になる。

 タダ飯タダ寝タダ冷房させてもらっている身としては、ここで働かずしていつ働くって感じだけど、どうしても玄関の様子が気になって仕方がない。

 玉様や御門森があんな変なのに遭遇して大丈夫かなっていう不安もある。


「今日は……」


「でも……」


「俺の部屋に……」


 なんて玉様と御門森の会話が聞こえて来て、皿洗いを終えたオレは素早く須藤の手をかいくぐりリビングのドアを開ければ、玉様にお姫様抱っこされた女の子の足が見えて二人は二階へと消えていく。


「比和子ちゃん?」


 だって玉様が女の子に優しくするとしたら、田舎に置いてきてる婚約者の比和子ちゃんくらいしか思い浮かばない。

 オレの疑問に御門森は階段を見上げながら答えた。


「小町」


「え、小町ちゃん!? 大丈夫なのか?」


「何が」


「だって」


 変なモノに憑りつかれてるっぽいじゃん。とは言えなかった。

 御門森が心霊現象を信じる人間か、と考えてオレは何も言えなくなった。

 オレは何度もこうした場面で失敗をして、友達から距離を置かれる羽目になった。

 せっかく出来た友達をまた同じ失敗を繰り返して失いたくない。


「具合が悪いんだろう?」


 当たり障りのない返答をしたオレに、御門森は玉様が付いてるから気にすんな、と肩を叩いた。



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