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お屋敷へ帰ると裏門には玉彦の予想通り澄彦さんが待ち構えていて、無事懐妊の知らせを私から報告された澄彦さんは私を抱き上げてくるくると振り回し、玉彦と喧嘩になったのはいつものお約束通りだった。
それから。
当主の間にて関係者全員が集められ、正式に正武家の跡継ぎが誕生する予定を当主の澄彦さんから知らされた。
そうして、私の中に宿るのは一人ではなく、二人である、とも。
その時の動揺は、私が診察後に考えたことをみんなも考えたからだ。
双子の誕生は正武家の凶兆であると。
けれど澄彦さんは当主の間の動揺を払拭するように、高笑いをしたのでなぜかみんなも笑いだす。
そんな中で一番最初に口を開いたのは南天さんだった。
「さすが玉彦様と比和子さんと申しましょうか……双子とは。また突拍子もない予想外なことをっ……ふっふふ」
肩を揺らした南天さんを始まりに、みんな各々好き勝手なことを言い出す。
一頻り全員が双子だったことについて笑ったところで、澄彦さんがぱんっと手を打って場を静め、すっと真面目な表情を作る。
こういう場合、酷く真面目な顔で酷くふざけたことを言い出すのがいつものパターンだったけれど、今回は違った。
居住まいを正した澄彦さんは、玉彦と私に目を向けて深く息を吐く。
「正武家において双子とは凶兆とされている。理由は言わずもがな、余計な騒動を起こす種になるからである」
同時に跡取りが二人誕生しても片方が受け継がれるお力を持っていなければ、問題はない。
しかし多津彦と多次彦という前例がある。
正武家のお力以外を持っていた場合、良からぬことを吹き込まれて担がれてしまう恐れがある。
現在正武家の関係者でそういった考えを持つ人間はいない。と私は思う。
しかしこの先、子供たちが生まれて外の世界で誰と出会い、どういった影響を受けるのか未知数だ。
正武家という特異な存在を支配したいと考える輩もいないとは言えない。
むしろ存在よりも、一族が無頓着に貯めこんでしまっている財産を狙ってくることだって有り得るのだ。
「しかし、悲観することは無いと私は考えている。これは先代道彦と私の間で話し合い、もし双子が生れたならば我ら正武家はどうするべきか、と結論を出している。次代、そして比和子にはこれに従ってもらうこととなる」
やはり澄彦さんは双子が生れることについての可能性を考えていたことがあったんだ。
隣の玉彦の膝上にある手に私の手を重ねれば、彼は握り返す。
「従えぬものであったならば」
「従ってもらわなくては困る。これは子らを生かす為に必要な過程である」
「……承知しました」
抹消されるはずの子供を生かす為と言われれば従わない訳にはいかない。
きっと澄彦さんの事だから、悪いようにはならないはずだ。
苦悶の表情を浮かべた玉彦は、私の頭を撫でる。
「従うしかあるまい。生かす為ならば、受け入れなくては」
「……うん」
玉彦と私の会話を聞いていた澄彦さんは、私たちから視線を横へとずらし稀人へと向けた。
「豹馬。須藤。多門。前へ」
呼ばれた三人は澄彦さんの前へ進み出て、姿勢を正して正座をする。
三人とも強張った顔をしていて、私にも緊張感が移る。
「正武家の跡継ぎは数えで五歳から役目について学び出す。次代の子も同様だ。双子はこの時まで分け隔てなく育て、以降はお前たちの誰かに育ててもらうこととする。期間は子が数えで十四になるまで。大人になるまでだ。その間、子は五村から遠く離し、正武家について語ることは一切許さぬ。育てになるお前たちも一切五村に立ち入ってはならぬ。連絡も一切許さぬ。子を連れ五村を出る際には相応の費用は持たせる。八年間。次代の子を無事に育て、五村へと戻れ。これは……下知である」
「そんなっ……! そんなの! 無理です! 澄彦さん、私、私はっ! 玉彦!」
澄彦さんの下知に反対したのは当主の間で私だけで、父親の玉彦ですら眉間に皺を寄せたままだった。
産んでから五年は一緒に居られる。でもその後、八年も離れなくてはならないだなんて。
幼稚園を出て、小学生になって、子供として一番成長が感じられる時期で。
愛情を一杯注いで、思い出も一杯作って、家族としての時間を一杯過ごして。




