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「あんまり鈴木を虐めるなよ、小町。お前だって用もなくくっ付いてきたんだから」


 小町ちゃんの彼氏の須田が注意すると小町ちゃんは頬を膨らませて黙り込んだ。

 なんだよ、同じ穴のムジナじゃねーかよ。


 須田はオレにごめんな、と言って御門森と一緒にキッチンのテーブルに座って参考書やら何やらを広げだす。

 こうして二人を見ると、何となく雰囲気が似ていたりする。

 二人とも眼鏡という最大の共通点がそうさせているのかもだが、デキる奴特有の空気ってヤツが似ている。


 オレは小っちゃい頃から色んな失敗を重ねてきている訳だけども、玉様や須藤を含めたこういう空気を持っている奴らっていうのは、要領が良いのか頭が良いだけなのか知らんが絶対にリカバリー不可能な失敗ってやつをしないんだよな。

 折り紙の鶴を折る工程を一つ一つ丁寧に、でも速度はそこそこで折って、めっちゃ綺麗な折り鶴を完成させるのがこういうタイプだ。

 オレは丁寧にすれば遅くなって、焦って折れば歪んだ折り鶴を完成させてしまうタイプだ。

 どうすれば綺麗な折り鶴を折れるのか理解はしてるけど、実行が難しいんだよな。

 余談だが絶対に小町ちゃんはオレと同じタイプだと思う。


 オレの定位置となりつつあるソファーで小町ちゃんに文句を言われることなく寛いでいると、ぴん、ぽーん、と独特の鳴らし方で再びピンポンが鳴る。


 玉様は二階だし、須藤はキッチンで夕飯の準備中だし、御門森は須田と勉強中だし。

 仕方ないのでオレがインターフォンを覗く。

 居候だからね。これくらいはきちんと働くんだぜ。


 インターフォンの画面には、めっちゃドアップの女の子がこちらを見透かす様に覗き込んでいた。

 オレはこの子を知っている。

 背がちっちゃめで、守りたくなるようなタイプ代表の様な女の子。

 ふんわり柔らか、おっとりでオレに対してもすげぇ優しいこの子の名は、鈴木紅美(あけみ)ちゃん。

 なんとオレと同じ名字なのだ。親戚でも何でもないけどな。

 そして残念ながら須藤の女友達その二だ。

 紅美ちゃんは一昨年お姉さんを亡くしていてちょっと可哀想な女の子なんだ。


 お葬式の時は可哀想すぎて見ていられないくらい泣きじゃくっていた。

 オレは駆け寄って彼女の支えになってあげたかったけどそれは須藤の役目だし、と思って一緒に御焼香に来ていた須藤を見れば……今までに見たことも無い冷ややかな顔をしていたのだけはっきりと覚えている。

 格好良いヤツがそんな顔すると本当に造り物の蝋人形みたいで、オレは背筋に嫌な汗が流れたんだ。

 でもそんな顔をしていたのは一瞬だったから、見間違いかもしれないし、何も言えねぇってショックを受けた表情だったのかもしれん。


「須藤! 紅美ちゃん来たよ!」


「ええぇっ? 今日約束してないんだけどな」


 包丁を持ったまま振り返った須藤に顔を顰めた御門森は、オレを見て増々顔を顰めた。


「来客中だからって断って来い、鈴木」


「え、帰しちゃうの? いいじゃん。遊びに来てくれたんだろ?」


「遊び相手してやれる奴が居ねぇから言ってんだ馬鹿」


「オレ居るよ?」


「お前は玉様のペットだろうがよ」


 御門森の痛恨の一言と同時に目の前のテーブルをガンッと小町ちゃんが蹴った。

 苛立たしそうに目を細めてクイッと顎で玄関を示す。


 大人しく断りに行って来いと言っているのだろうが、この鈴木和夫。

 そんな理不尽な要求には応えられません!

 だって紅美ちゃんは小町ちゃんと違ってオレに優しいから!


「須藤は帰しちゃっていいの?」


 いくら御門森や小町ちゃんが帰せと言っても、須藤に用があってきた紅美ちゃんを勝手にお断ることはできない。

 すると須藤はこちらに背を向けたまま、任せるよ、と素っ気ない。

 紅美ちゃんはオレが知る中で一番須藤との付き合いが長く、お気に入りだと思ってたんだけど違うんだろうか。

 ちなみに一番最初の女の子は紅美ちゃんが現れてから一か月くらいで須藤とは疎遠になっていた。

 それから須藤はとっかえひっかえいつも違う女の子に囲まれていたけど、その中で唯一変わらない顔は紅美ちゃんだけだった。

 あんだけ派手に遊んでいるのにそれでも須藤と一緒にいる紅美ちゃんは心が広いんだろう。


「じゃあ、入ってもらうよ?」


「みんながそれで良いなら良いよー」


 須藤の言葉に小町ちゃんは身体の前で大きく腕を交差させて×サインを出す。

 御門森も首を横に振ったけど、須田はどっちでも良いと言う。

 これで反対二人、賛成一人、浮動票が二人。

 残るは……鶴の一声を持つ玉様に御すがりするしかない。


 オレは二階へと駆け上がり、一応ノックをしてから返事を待たずに玉様の部屋のドアを開けた。



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