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 久し振りに宗祐さんの夕餉を頂き、玉彦と私は母屋へと戻る。

 お風呂に入ったあと、玉彦とお布団で横になり、今日は怒涛の一日だったねと互いに頷き合った。


「大人しく東を解放すれば良いのだが……」


 玉彦はぼんやりと天井を見つめて呟く。

 私も全く同意見だ。


 澄彦さんは喧嘩するって言ったけれど、なにせ相手は神様なのである。しかも女性だ。ついでに素戔嗚の奥さんだ。

 いくら神様の加護がある澄彦さんや玉彦と言えども争いごとになれば只では済まない。

 清藤の粛清時に荒ぶる御倉神や大国主を私は視たけれど、圧倒的だった。

 玉彦は大国主と対峙したけれど、その時大国主は正武家の人間である玉彦に手出しをすると後が面倒なのを知っていたので、手加減していたように今なら思う。


「しかも澄彦さん、喧嘩、って。流石に女性の神様相手に力尽くってわけじゃないわよね?」


「男神ならばいざ知らず、女神にそれはないだろう。父上にも矜持はある。……あるはずだ」


「どっちにしたって神様と喧嘩なんて勝敗は明らかだもんね」


「そうだな。しかしあの場で父上が出張ると言わなければ宗祐や南天が独自に動いてしまっていたであろう。万が一神と対峙し、二人が怒りを買ってしまうと面倒なことになる」


「それは澄彦さんだって同じでしょうよ」


 私が呆れて言えば、玉彦は片眉を上げてニヤリと笑う。


「父上は怒りを『買いたい』のだ。二人は稀人であるがそれは正武家あってこそである。正武家である父上が怒りを買うと何が起こると思う?」


「想像を絶します。お家断絶とか?」


「違う。他の神々が何事かと寄ってくる。そこで神隠しの申し開きをするのだ。二十年以上も離れ離れの男女の仲をそれはもう見事に同情を誘い父上は語ることだろう。すると神々は十中八九人間に同情し、神大市比売かむおおいちひめみなで諭しだす。ここまで来ればもう解放されたも同然だ」


「そんなに上手く事が運ぶと思う?」


 いくら策士澄彦とはいえ相手は神様である。

 早々簡単に都合よくこちらの手に乗ってくるだろうか。


「運ぶ。間違いない。あの父上だぞ? 絶対に途方もない仕掛けを考えているはずだ」


 珍しく澄彦さんに期待を寄せた玉彦は意味深に笑ったけれど、まさかこの時、自分にも被害が及ぶとは考えてもいなかっただろう。




 翌日。午前。

 すっかり諦めていた私の誕生日会がここ数年で一番の豪華さで開かれた。

 内々にしている懐妊したことに加え、隠れ社で東さんを私が発見したことが原因である。

 厨房を与っている御門森家の面々が腕を振るいまくって、特に宗祐さんはこれでもかというほどのご馳走を私の前に運んで来る。

 感謝してもしきれない、という宗祐さんと南天さんはいつも以上に私を丁重に扱ってくれていたけど、ただ発見しただけでまだ救出できていないことから、私はちょっと居心地が悪い。

 私の隣に座り、あれこれとお世話をしてくれている竜輝くんによれば、昨晩は五村内の御門森の直系では無い血縁者が集められ、東さんが発見されたことが御門森当主の宗祐さんから知らされたそうである。

 場は歓喜に包まれたものの、やはりまだ解放されていないということがネックになり、ぬか喜びにならぬよう、そして唯一東さんを隠れ社で視ることの出来る私に何事も起こらないよう、お祭りでは厳重に警護に当たる事が再確認されたそうだ。


 今回も、数年前の白猿の時もそうだけれど。

 私はただそこに居て、何もしていないのよね。

 ただ白猿を見て追い駆けられて、ただ隠れ社に迷い込んで東さんを視ただけ。

 偶然が重なって偶々良い結果を生み出しているだけで、私が何かを頑張って成し遂げた訳ではない。

 通りすがりに棚から牡丹餅が落ちて来て、自分のお陰じゃないのによく思われているだけである。

 実力で成したことでは無いことに感謝をされても、実感がないし畏れ多く感じる。

 ましてや今回はまだ東さんを救出できていないのだ。


 しかも、私はちょっとだけ嫌な想像をしてしまっていた。

 それは隠れ社で視たのが本当に東さんだったのかっていうこと。

 服装や年恰好が同じなだけで、全くの別人だったらどうしようかと不安でたまらない。

 これだけ皆を喜ばせといて、実は別人だったとなったら私は、私は……。


「比和子様?」


 俯いてじっと考え込んでしまっていた私を竜輝くんが心配気に覗き込んだ。


「あ、ごめん。ちょっと考えごと。竜輝くん、今日は一緒に頑張ろうね」


 澄彦さんからは竜輝くんと一緒に名もなき神社やお祭りを回るように言われている。

 本当なら三日間のお祭りは玉彦と二人で楽しむ予定だったのだけれど、彼と澄彦さんは山を廻り、隠れ社の歪みを足で捜索するそうだ。

 そう遠くは行っていないだろうと澄彦さんは言っていたが、以前玉彦が隠れ社から出た際に鈴白村から入ったのにここから遠い赤石村の海岸に出たこともあったそうなので無駄足になる可能性もあった。

 そもそも二人は関知というお力があるのだからちょちょいとどうにか出来ないのかと聞いてみれば、隠れ社は神域のため感じられないのだそうだ。




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