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「次に隠れ社が姿を現した時が、その時である。心しておけ。以上である」


 澄彦さんは高笑いをして立ち上がると、一人で奥の襖へと姿を消し、その後を玉彦が静かな足取りで続く。

 私は、当主の間に留まった。

 神様と喧嘩するにはまず、隠れ社に入れる人間であることが第一条件だ。

 それは澄彦さんであり、玉彦である。

 私も入れるけれど、喧嘩なんて出来ない。

 むしろ神守として御持て成しする立場だから、喧嘩なんてもっての外なのである。

 いつもは反りが合わない二人だけれど、今回ばかりは協力すべきと思って打ち合わせをするのだろう。

 反りが合わないと言っても日常生活でのことなので、お役目に関することについて喧嘩になることはないはず。

 澄彦さんと玉彦が立ち去っても頭を上げない宗祐さんの元へ行き、正面に座って肩を叩く。


「宗祐さん」


「比和子さん……」


「奥さんはちょっと窶れてましたけど、お元気そうでした。……ただ……」


「なんでしょう!?」


「四十歳ちょい過ぎくらいに見えたんですけど」


「隠れ社では時の流れが違うと玉彦様は仰っておりました。年を取っていないのではないでしょうか……。妻は私と同じ年ですので」


 確かに玉彦は供物が腐らない、と言っていた。

 東さんも供物と同じ扱いで老化が緩やかになっていても不思議ではない。

 私はもう一度宗祐さんの肩を叩いてから、久しぶりに姿を見ることが出来た多門のところへと移動する。

 多門は私を見てすぐに目を逸らす。

 でも逃げるように立ち去ることはしなかった。


「もう、心配してたんだからね。腕はどうなの?」


 骨折と言えば白い布で腕をぶら下げるイメージだけれど、多門は普通にしている。

 大体骨折が完治するには三か月くらいはかかるはずなんだけれど。


「大丈夫だよ。竹婆ちゃん特製のなんか飲まされたから」


「骨折って飲み薬で治るの!?」


「さぁ? でも薬飲んで本殿で寝てたら、くっついたよ。あとは炎症が収まるのを待ってる」


「もう? 早すぎない?」


 私が知っている骨折と何かが違う気がして、隣にいた竹婆と香本さんを見る。

 すると香本さんが竹婆に頷いてから、教えてくれた。


「本殿ってね、パワースポットなんだよ。正武家の人間と稀人限定の」


「限定パワースポット?」


「そうそう。本殿で一晩寝れば、風邪はすぐ治っちゃう」


「ちょっと凄すぎない?」


「それだけ神様の加護が強力なんだろうけど。……。当主様は本当に神様と喧嘩するのかな……」


 そう言って不安気に黙り込んだ香本さんは竹婆に促されて座敷を後にした。


 本殿が限定パワースポットということに驚きだけれど、そんな強力な加護を授けてくれている神様と本当に澄彦さんは喧嘩するつもりなのだろうか。

 隠れ社は、産土神の隠れ社と呼ばれているので、神様が訪れる本殿との関わり合いがある。

 それに玉彦の母屋の庭には産土神の大社がある。

 隠れ社で神様と対峙する口ぶりだった澄彦さんだけれど、大社で産土神を呼び出した方が早いんじゃないだろうか。

 そもそも、産土神ってどんな神様なんだろう。

 私が考え込んでいると、当主の間の奥の襖から玉彦が顔を出して手招きするので、多門にまた後で、と告げてから、玉彦の元へと行く。


「話がある」


 そうでしょうとも。解ってた。

 この件は、私が居ないことには始まらないのだ。

 何せ正武家の人間は神様を視ることが出来ない。

 私を介してではないと視えない。隠れ社に捕らわれている東さんも視えないのだ。

 そして稀人の南天さんや豹馬くんは視えるけれど、隠れ社には行けない。

 正武家の血が流れる者は視えないけれど、私は視えるし行けるイレギュラーな存在なのだ。

 東さんの奪還は、私が妊娠している期間だけに限られる。

 この先、私が産む子供の伴侶が視える人間であればまた二十年後に機会は訪れるけれど可能性は低い。

 それに宗祐さんの寿命もある。

 何としてでも今この時に奪還しなくてはならないのだった。



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