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4


 とりあえず、お役目が終わったのなら鈴を鳴らしても大丈夫、かな。


 寝間着に着替えてからお布団を二組敷いて、その上に正座をする。

 普段なら気安く鈴は鳴らせたけれど、今日はちょっとだけ緊張を伴う。

 今は多分豹馬くんと一緒に病院に居て、多門と僧侶の人の処置待ちの時間だろう。

 病院では携帯電話は使えないので、鈴は鳴らしても返事はできるはず。

 そう思って手にした鈴と数分睨めっこをしていると、振っていないのに三回鳴る。

 焦って振り返した私は勢い余って五回も振ってしまった……。

 すると文机に置いてあったスマホが鳴り、着信画面を見れば玉彦で。


「もっ、もしもし!?」


『あと三時間ほどで帰る。起きて待たずに寝ていろ。では』


「えええっ!? ちょっ! たま……」


 通話終了。


 とにかく無事な声を聴けて安心したけど!

 もう少し、詳しく話を聞きたかったのに。


 玉彦は帰って来てから話せば良いと思っているかもだけど、待つ身からすればもう少しって思うのよ。

 でも多門が怪我をするくらい大変なお役目だったようだし、しかも日中は別件で動いていたから玉彦もそれなりに疲れているのかもしれない。

 そう考えると、ここで話を長引かせても良いことはない。


 電気を消して、大人しくお布団に潜りこむ。

 枕元に鈴と、三時間後にアラームをセットしたスマホを並べる。

 寝ていろという玉彦の言葉を半分だけ実行する。

 少し眠って、三時間後には離れの玄関で玉彦の帰宅を待つつもり。だったのだけど。

 アラームで目覚めて身支度を整え、離れへと向かう外廊下で私は澄彦さんに来てはいけないと言われてしまい、すごすごと部屋に戻る羽目になったのだった。


 どうやら澄彦さんが関知するほどの何かを玉彦たちは五村に持ち込んだらしい。

 その正体が僧侶の人だったと知ったのは、朝餉の席でのことだった。



 午前二時過ぎに帰宅した玉彦と豹馬くんは母屋へは戻らず、離れに留まっていた。

 様子を見に行ってくれた竜輝くんによれば、多門は竹婆に処置を施されて本殿に寝かされているらしい。

 そしてどうしてか胃洗浄をする羽目になった僧侶は、本殿の離れの竹婆の住居で多門同様処置を施されて眠っているそうだ。


 朝餉の席には澄彦さんと私のみで、まだ玉彦には会えていない。

 蘇芳さんのお寺で管狐が逃げ出して、それを追っていた多門と僧侶が即身窟という場所で数多くの成仏できなかった者たちを相手にしていたら、依代体質の僧侶が次々と乗り移られてしまい大変な目に遭ったようだ、と澄彦さんは教えてくれた。

 僧侶に乗り移った者に多門は襲われて骨折したらしく、普通の骨折よりも治りづらいかもしれないそうだ。

 次代と話をしてしばらく多門は休ませることにしたと澄彦さんは言う。

 腕が折れていてはお役目も出来ないし、車の運転だって出来ない。

 しかも右腕だっていうから食事も大変だろう。

 多門の看病を買って出た暇人の私に澄彦さんは一瞬微妙な顔をして、まだ熱が下がらないから多門が本殿から自室へ移ったら次代と要相談で、と言葉を濁した。


 玉彦と要相談と言われても、未だに私は玉彦に会えていない。

 きっと玉彦の事だから、即身窟とやらでお役目をし、自身の身体に何となく穢れが残っているような気がして禊を繰り返しているのだろう。

 正武家の人間に触れた弱小の禍は自動的に消えてしまうというのに。

 いつもなら私と分かち合うはずなのに、私の身体は今一人だけじゃないから、万が一まだ弱い子供に影響があってはならない、とでも考えていることはお見通しだ。

 こうなってしまうと玉彦は納得するまで意見を曲げないので、放っておくしかない。


 本日澄彦さんは午前も午後もお役目があり、私には宣言通り学校を休んだ竜輝くんが付く。

 南天さんと須藤くんは澄彦さん付きで、豹馬くんは既に帰宅して一日お休み、なので今日一日だけ私と竜輝くんが母屋の雑事を担うことになった。

 朝餉は南天さんが作ってくれたけど、昼と夜は私の出番だ。

 思いがけず主婦活動をすることになった私は、朝からやる気が漲る。

 妊娠超初期だけど病人ではないので動くことに問題はない。

 澄彦さんから冷たい水は触らないこと、重い物は持たないことを三度も約束させられ、私は四回頷いた。




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