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私は母屋までの道すがら、多門に玉彦の数少ない大学時代のお友達で、無自覚に視えちゃう人だと説明をした。
すると多門は道理で、とやはり豹馬くんと同じものが視えていたらしく納得をしていた。
「でもなんだって鈴白に来たわけ? 次代がそういう仕事してるって知らない人間なんだよね?」
「そのはず、だけど。どうしてなんだろ?」
私の疑問は二人で何となく足を向けた先の台所の須藤くんによって明かされた。
須藤くんも多門同様何を思ったのか、通山から帰って来ると翌日には髪を切っていた。
流石に坊主ではなく、緩く耳に掛かる程度の長さだったけど。
須藤くんはじゃがいもの芽を丁寧に包丁で繰り抜きながら、鈴木くんがやって来た事を聞くと苦笑いを浮かべる。
「アイツ、ほんっとーに憑かれやすいんだよ。どういう体質なんだってくらい、あちこちで拾ってくるんだよね」
「それって不味いんじゃないの? 今までどうやって無事でいられたのよ」
「たぶん大学で僕たちと会う前はそんなに酷くなかったみたいでね」
「もしかして三人に悪い意味で触発されちゃったんじゃ……」
竜輝くんが私と行動を共にすることで眼が強制的に起こされてしまったように。
「どうだろうね。とりあえず構内で見かける度に祓ってはいたんだけど。流石に僕たちと離れたから段々視えなくなっていくと思ってたんだけどね」
不可思議なものというのは子供の頃は良く視えるけれど、大人になるにつれて視えなくなるのがほとんどらしい。
けれど一握りの人間は大人になっても感じたり視えたまま。
子供の頃から当たり前に視えていた人はそのまま自分の能力を受け入れて普通に生活を送ることが多いけれど、中には能力を活用して仕事にする人もいる。
困ってしまうパターンは突然視えるようになってしまった人である。
不可思議なものはこの世にいないという常識を既に持っていると、精神的にかなり参ってしまい、最悪死を選択してしまう人もいる。
私が知る限りそう云う相談で正武家を訪れた人は、当主か次代の黒扇の業に能力を喰われて解決となるか、蘇芳さんにお願いして能力を封じてしまうという二つのパターンだ。
どうして玉彦が鈴木くんの能力を封じてしまわなかったのか須藤くんに聞けば、本人が望めば封じるがそうではない、と言ったらしい。
「望むも何も次代がそんなこと出来るって鈴木は知らなかったんだし、望める訳なくね?」
鈴木くんを当たり前の様に呼び捨てにした多門だが言ってることは尤もである。
「玉彦のお力について何も知らない鈴木くんが助けを求めてきたってどういうことなんだろ……」
「僕たち三人に肩や頭を叩かれると楽になるって何度も経験してたから、じゃないかな。話を聞いてると本能的に身体の危険を察知して助けを求めに来たんだと思う」
須藤くんは包丁を置いて、ぐるりと首を回した。
肩こりくらいなら首を回したり揉んだりする程度で解消されるけど、駄菓子屋の前で視た鈴木くんは黒い靄に覆われていて肩こりどころではなかったはずだ。
それこそ全身に圧し掛かるような重さがあったに違いない。
玉彦と再会し頭を黒扇で叩かれても、安心して涙を流す程に。
「まーとにかくこれで次代も鈴木の体質改善に乗り出してくれるんじゃねーの? 憑かれる度に鈴白に来てたら仕事になんないだろ」
鈴木くんが訪れた理由に納得した多門は既に興味を失ったらしく、私に部屋に戻るように促した。