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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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寿桂尼

 勝頼は今川館を出た後、朝比奈の案内で清水に来ていた。出る時に岡部正綱が今川家をよしなに、としつこいくらいに言ってきたのには参ったが。ただの若造になんでそこまで。


「伊那殿、これが海でござる。あの向こうに見えるには伊豆、北条の領地だ」


 勝頼は海を初めて見た。諏訪の湖とはスケールが違う。富士の山も大きく見える。その景色の壮大さに驚いたが少ししてから冷静に周囲を見始める。


「領地を海で挟んでいるのですね。攻めるには舟を使われるのですか?」


「北条は強い水軍を持っている。海の戦いでは勝ち目はない」


 そうなんだ。勝頼は水軍の必要性を感じたがまだ先の事だ。


「海をこちらの方角に進むとどこへ着くのですか?」


「それはわからん。異国であろう」


 異国。その響きが気になった。今度三雄殿に聞く事がどんどん増えていくな。話に聞くのと自分の目で見る事がこんなにも違うのかと改めて感じた勝頼でした。しばらく海を眺めていると、朝比奈が意を決したように話しかけてきた。


「伊那殿。実は会っていただきたいお方がいるのだが」


「朝比奈殿にはお世話になっております。構いませんよ。どなたですか?」


「寿桂尼様だ」


 寿桂尼は清水にある梅蔭禅寺に住んでいます。義元が死ぬまでは今川館に住んでいましたが、氏真に遠慮して寺へ引っ越したのです。ところが想像以上に氏真が不甲斐ないので重臣達の願いもあり不定期に今川館へ出向いています。どちらかというと今川館にいる方が多いのですが、今日は勝頼との面談の為あえて梅蔭禅寺に残っていました。寺へ近づくにつれて兵の姿が見えてきます。警備がしっかりしていて小さい城のようです。勝頼が広間に入るとお婆さんが座っていました。寿桂尼です。


「よくいらしたね。朝比奈から聞いた時には驚いたよ。信玄の子が訪ねてこようとはね」


「寿桂尼様。お初にお目にかかります。伊那四郎勝頼、武田信玄の四男でございます」


 寿桂尼は勝頼を見てその凛々しさに今川の滅亡を予感した。これはダメだ、こんなのが武田にいてはと。孫の氏真と違いすぎるのです。いっそここで殺してやろうかと考えたが思いとどまりました。そんな事をすれば滅亡が早まるだけなのです。こいつを味方にできないものか?義信が継げば問題ないが何やら問題を起こしているようだし、あとは於津禰に期待するしかない。


「氏真に会ったのかい?」


「はい。今川館でお目にかかりました」


「正直に言ってくれ。どう思う?」


「氏真様はご自分に正直なお方だと感じました。ただ戦向きではないかもしれません」


「武田家が同盟を結ぶ価値があると思うか?」


「それは我がお屋形様が決める事でございます。私はそれに従うのみでございます」


 しっかりしておるわ。憎たらしいほどに。


「そうか、氏真の妹がそなたの兄に嫁いでいるのだけが頼みよ。わしが生きているうちは北条であろうが武田であろうが好きにはさせん。だがあと何年生きれるか」


 それを聞いた朝比奈泰朝が、


「寿桂尼様。我ら重臣は皆、氏真様をお守りし………」


「朝比奈よ。もちろんじゃ、だがな」


 寿桂尼は勝頼を見た。このような男が時代を動かすのであろうな。今川の家は大事だが家臣の命を守るのも領主の役割だ。於津禰が上手くやれば良し、失敗すれば世が動くであろう。問題はその時だ。


「もしわしが死んだ後、世が動いた時の事じゃ。そなたの好きにすれば良い。そうじゃのう、これも何かの縁じゃ。勝頼殿を頼るのも良いかも知れん」


「何を申されます。それがしは例え1人になってもお屋形様をお守りいたします」


「まあそう向きになるな。まだそうなると決まったわけではない。最善を尽くすのみ、その最善が何かは時と場合によるのじゃ。朝比奈よ、見誤るな。勝頼殿、今川の実態を見てどう思ったのか想像できるが朝比奈のような家臣は健在だ。簡単にはいかぬと考えよ。武田も一枚岩ではないようだしな。今日は会えて嬉しかった。信玄公によしなにな」


「承知いたしました。寿桂尼様、武田は一枚岩でございます。お会いできて嬉しゅうございました」


 勝頼達はここで朝比奈と別れて富士川沿いに甲斐へ戻っていった。信玄に話をしなければいけない事がたくさんあるのだ。朝比奈泰朝は寿桂尼と夜まで話し込んだ。そして朝比奈が帰った後、忍びが寿桂尼の元を訪れた。


「来たかい。わしは今日はもう疲れたよ。このままでは今川は滅ぶ。それを防ぐには信玄を殺し早く義信に継がせるしかない。義信は於津禰のいう事をよく聞く男のようだからね。そうなれば甲斐も今川の領地となる。わしが生きているうちに手を打たねば」


 忍びは寿桂尼の手紙を持って甲斐へ向かった。寿桂尼は勝頼の夢を見た。勝頼が朝比奈を従えて氏真を攻める夢を。



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