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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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今川館へ

 いざという時は頼む、朝比奈は軽く言ったがこれには深い意味がありました。いざという時に武田に味方するからよしなに、という意味です。勝頼は気付きました。今川の重臣を味方にすれば戦が楽になると。


 朝比奈泰朝は勝頼一行を連れて岡部、丸子を通り安倍川を渡っていきます。


「この川を渡ると駿府でござる」


 朝比奈の案内で駿府の城下町に入ると街は少し元気がない。大きさは岡崎の比ではなく、どこまでも店が続くような感じなのだが、人々の活気がない。家が落ち目だと町もこうなるのか。


 今川館までくると何やら賑やかだ。女性の声が聞こえる。キャーキャー遊んでいるような声だ。


「賑やかでございますな」


「ええい、またか。岡部殿は何をしているのだ」


「どうかされましたか?」


「氏真様です。蹴鞠を楽しんでおられる」


 蹴鞠?初めて聞く言葉だ。城へ入っていくと違和感がある、そう緊張感が感じられないのです。躑躅ヶ崎の館は空気がピリピリしています。岡崎城も気を抜けない空気でした。それに比べてここは例えれば、そう、お花畑のようです。

 朝比奈について中庭に案内されました。そこでは、


「それ、そーれ」


「はい、返します」


「余の番だな。そーれ」


「お上手でございます、お屋形様」


 綺麗な着物を着た女衆の中に烏帽子を付けた若者は鞠を足で蹴って渡し合っている。何だこれ?前に見たサッカーってやつに似てるけど。いや全然違うか。見ていると鞠が地面に落ちた。


「おお、お主の負けじゃ。余の勝ちじゃ」


「誠にお上手でございます。よろしければもうひと勝負」


「もちろんじゃ、でははじめる………」


「お屋形様、朝比奈でございます」


 若者はこっちを見た。勝頼と目が合った時に興味がなさそうにすぐに女性の方を向いてしまう。


「お屋形様。こちらは武田信玄公の」


「うるさい。信玄のなんだ、使者なら待たせておけ。余は今忙しいのだ」


 氏真はまた蹴鞠を始めてしまった。朝比奈は天を仰いだ後、勝頼を部屋に通して家臣に蹴鞠が終わったら教えるように指示して、


「お恥ずかしい限り。しばらくお待ち下され」


「先程のお方が氏真公でいらっしゃいますか?」


「はい。軍議にはあまり気が入っていないのですが蹴鞠になりますと真剣になるのです。あの女達は都から呼んだ者達で公家と繋がりがあるそうで」


「朝比奈殿。それがしが旅の途中で聞いた話では、三河を松平が取り返したのに今川家は取り返そうとしない。裏切り者の松平を放っておいているのは当代のお方に問題がある………」


「腑抜け、聞いた話は当代は腑抜けという事ではありませんか?実は腑抜けというより、世間知らずと言った方が正しいかと。軍議でも発言はされるのですが、実現味がない事ばかり。このままでは北条、武田に領地を奪われてしまうと寿桂尼様が重い腰をお上げになられたのですが、ご不在の時は今日のように蹴鞠を楽しんでおられる次第」


 ふーん、寿桂尼って今川義元の母上だよね。どこの家もいろいろあるのね。と、そこに


「朝比奈殿。すまん、お屋形様を止められなかった」


「岡部殿。全く、そなたがついていながら、と言ってもあれでは仕方あるまいて。ご苦労、お察しいたす。伊那殿、こちらは岡部正綱と申して今川家重臣でござる。岡部殿、こちらは伊那四郎勝頼殿。信玄公のお子であらせられる」


「なんと。お初にお目にかかります。岡部正綱と申します。お見知り置きを」


「伊那勝頼でございます」


「伊那殿は駿河に使者で参られたのか?」


「そうではありませぬ。若輩ゆえ見聞を広めるべく旅をしていたのですが、朝比奈殿のご家臣に見つかりまして。ご面倒をおかけしております」


「そうでありますか。てっきり於津禰様からのご使者かと」


 於津禰って誰だっけ?あ、思い出した。そういう事だとすると不味くない?氏真の蹴鞠が終わったようで大広間に来るように言われ、朝比奈、岡部と一緒に謁見に向かいました。部屋の上座にさっきの若いのが偉そうにしています。


「朝比奈。さっき武田がどうとか言っておったな」


「はい。こちらにいらっしゃいますのは武田信玄公のお子、伊那四郎勝頼殿にございます」


「伊那四郎勝頼でございます。氏真公にお会いでき、恐悦至極にございます」


「ほう、信玄の。先程は失礼したな。氏真だ。於津禰は息災か?」


 やっぱり。兄上の嫁の事だね。どうしよう、正直に言うか。


「実はお方様にはお目にかかった事がないのです」


「なんだと。そなたは弟ではないのか?」


 勝頼は産まれてしばらくして諏訪へ移った事、死んだ母と正室の仲があまり良くなく足が遠のいていた事、古府中へはまだ出仕していない為会えていない事を説明した。


「武田家も色々あるのだの。先程仲が良くないと言っておったが、信玄と婿殿の仲も良くないというのは真か?」


「そのような事はございません。多少意見が食い違う事もあるようですがそれは仕方のない事でございます」


「仕方がないとな」


「はい。お屋形様は配下の意見をよく聞かれるそうです。そこでは相反する意見がぶつかりますが最終決定はお屋形様が下します。それには全員が従うのです。私はまだ軍議には出ておりませんが、出れるようになりましたら父上、兄上を支えて参る次第」


「良い心がけだ。武田を婿殿が継げば余とは兄弟であるし両家は安泰である。早く婿殿に当主になってもらいたいな」


「お屋形様。そのご発言は伊那殿には」


「朝比奈殿。いえ、お心はわかります。ですが父上はまだまだお元気でございます。兄上がお継ぎになるののはだいぶ先だと思います」


「そうかな?まあ良い。で、何をしに参ったのだ?」


 見聞を広げるための旅である事を説明すると、領内観光に朝比奈を付けてくれた。氏真から見ると勝頼は義理の弟になると途中で気づいたらしい。




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