さっさ、燃ゆ
刀がぶつかって発生した火花は、油に引火し大爆発を起こしました。最初に床に溢れていた油に引火した火は瞬く間に油供給装置?の中まで伝達され大きな樽ごと爆発したのです。佐々成政は燃えながら空を舞い海へ落下します。佐々成政の火は海上の油に引火し伊勢側の海はまさしく火の海になりました。成政自身は海へと沈んでいきました。
その火は徳達武田海軍が近づいてきたら自爆特攻を行う予定のキリシタンの船団に襲いかかります。兵は陸へと逃げましたが船は全て燃えてしまいました。沖にいた徳は海が燃えているのを見て、何かあったとはわかったものの現状は近づく事が出来ません。
「火を付けたのか、付けられたのか、どちらにしても明智の作戦はダメだわさ。こんな事したら美味しい魚が食べられなくなってしまう」
それを横で見ていた信平は、戦だからといって何をしてもいいわけではないと改めて思いました。でもこれから徳様はどうするんだろう?
「徳様。この後海軍はどうするのでしょうか?」
「海が燃えたら山も燃えないとね!」
「ええと、それも徳様がお話しされていた環境破壊では?」
「そうとも言うわね。そうね、まあ見てるといいだわさ」
徳はそういうと船の中へ戻っていった。信平はこの海上から山を燃やすってどうやって?いくら考えてもわからなかった。
海の火は黒い煙を吐き出し、それは海風に乗って陸へを流れてきます。その煙と嫌な臭いは蒲生陣を直撃します。その結果、蒲生氏郷は
「これはいかん、山の方へ兵を避難させよ」
「それでは織田軍が通り抜けてしまうのでは?」
「この煙の中を兵は進めんよ。進んだとしてもまともには戦えない。そんな馬鹿な作戦は取らない」
蒲生氏郷のいうとおり、織田、武田軍も山の方へ移動を始めました。山間から攻めようとしていた蒲生軍も下がり、せっかく後方に回り込んだ兵も逃げていきます。三方向から攻めるから意味があるのであって取り残されてしまえば数の暴力で圧倒されるだけです。
佐々成政のお陰で戦は一時休戦となりました。これがどちらが得をしたのかは微妙ですが。織田信忠は急いでいます。早く滝川の支援に行きたいのです。蒲生氏郷は信忠の首が取れればいいのです、時間がかかろうが知ったことではありません。そう考えると得をしたのは蒲生の方にも思えますが、二の矢を潰され、三の矢も作戦がばれてしまいました。
この時間を利用して蒲生氏郷は、川の堰がなぜ切られたのかの調査を命じました。夜になり、海が赤く燃えているのが見えます。明智十兵衛の作戦が成功したのか失敗したのか、ここからではわかりませんがこの状況では水軍は気にしないでいいでしょう。時間が経つにつれて火は小さくなっているようです。早朝には消えそうです。
夜明け前、蒲生軍は改めて魚鱗の陣を敷きました。兵の数が一万から一万五千に増えています。山の兵を一部ここへ移したのです。側面、背後攻撃は不意を突くから意味があります。攻撃隊は残していて時機を見て仕掛けるよう指示しています。敵の錯乱、戦力分散ができればそれで十分だと考えています。
調査隊が戻ってきました。報告は恐ろしいものでした。堰を守っていた兵が全員殺されていると言うのです。
「どういう事だ。誰がやった?」
「それがわからないのです。全員がこの矢で殺されていました」
それは見たことのない鉄の矢だった。護衛の甲賀忍びも殺されていたという。武田が堰にいくのは不可能だ。そもそも川を堰き止めていることは知らないはずだ。まさか秀吉の手の者か?いや、それもあるまい。
氏郷はこのまま仕掛けても負けるような気がしてきました。明智左馬助が滝川を倒して戻ってくるのを待ってもいいかと思い始めています。立てた策がなぜか空振りしているのです。
武藤喜兵衛は蒲生が川を堰き止めている事を与助から聞き、蒲生氏郷という男に怖さを感じました。この戦、地の利はこちらにありません。ですので地形を利用されるのは当然ではありますが、とはいえ事前にいくつもの作戦を練っていなければできない事です。恐らくこれ以外にも色々と仕掛けてくるでしょう。
自分だったらどうするか?喜兵衛は立場を置き換えて考えてみました。橋を落とす、ゲリラ戦法で撹乱する、背後から伏兵で攻める、空から信忠のみにターゲットを絞って攻める。どれを考えても嫌な作戦です。
信豊から聞いた話では海軍の動きは封じられています。かなり不利な状況ですが、ならば一つ一つ解決していくしかありません。喜兵衛は進軍の途中から姿を消しました。陰で策を講じていたのです。与助に聞いた場所から考えて近くの川は全て可能性があるだろうと再度調査をさせました。そうしたところ最初に与助が見つけた朝明川だけでなく員弁川にも堰が作られていました。
喜兵衛は特殊部隊ゼットのチーム丁、チーム丙の訓練生達、与助とともにこっそり別行動を取りました。空を舞うのはチーム丁と与助です。訓練生達は組み立て・回収・運搬が任務です。チーム丁のリーダー影猫は東北にいる勝頼宛に文を届けに行ってまだ戻っていません。
さらに改良されたハンググライダーは2人乗りと1人乗りがあります。チーム丁が与助の道案内でハンググライダーからボーガンで敵を殺した後、1人が飛び降りて堰を切ります。飛び降りた者は気づかれないよう陸を移動し、空中にいた者は元のところまで飛んで戻り、機体を回収、引き上げていきました。
ハンググライダーは無敵ではありません。飛んでいるのを見つけられて空を狙撃されればそれまでです。見つからないように行動するにはこっそりしかできないのです。当然、織田、武田軍も敵に見張られてるので。
誰にも気づかれずに空中から仕掛ける、ネタがばれるまでは無敵の作戦ですがこの作戦も次からは使えないでしょう。明智十兵衛は話を聞けば気付くでしょう秀吉が信長を殺した時に似ていますので。
そして翌日も翌々日も戦いは始まりませんでした。




