風魔の小太郎
風魔の小太郎。風魔の棟梁は歴代小太郎と呼ばれてきました。風魔とは箱根、足柄を根城にしている忍者集団です。時には盗賊、時には傭兵という仮の姿も持っています。足柄にいるのが風間与太郎を頭とする傭兵軍団で総勢200名の兵が北条の一部隊として活躍してきました。夜討ち、武器の強奪、城下町の放火など汚れ仕事をメインにこなすいやらしい連中です。彼らの活躍は風魔の資金源となっています。
そして箱根を根城にしているのが棟梁がいる忍者集団です。変装、毒、吹き矢、手裏剣を使った暗殺や調査を得意としています。今の小太郎は先代から数えて5代目にあたり、歴代最高の実力者と言われています。箱根にいるのは30人。手練れの物しか箱根にはいません。
悠次郎は小太郎に次ぐ実力者でした。その悠次郎からの連絡が途絶えて一月が経ちました。
「あの悠次郎が失敗るとは思えんが」
小太郎は配下の忍びに悠次郎との接触を命令しました。一度戻ってくるように、と。
上杉の忍び 梟は信玄に報告をした後、越後へ帰って行きました。謙信の仇を取ったので報告です。さて、宇都宮城では偽物の勝頼が現れた翌日に、またもや勝頼が現れました。本多忠勝と20名ほどの兵を連れています。
「!!!」
勝頼の行く手を兵が塞ぎ、槍を向けました。本多忠勝は前に出て、
「無礼であろう。こちらにおわすは武田勝頼様である。槍を引けい!」
すると、奥の方から馬場信春が槍を持って出てきました。忠勝は、
「馬場様、これはどういう事でございますか?」
馬場は警戒を解かずに、
「昨日、お屋形様に化けた忍びらしき者が大屋形様を殺めたのだ。それ故に警戒をしている」
「何ですと、大屋形様がお亡くなりに!」
忠勝は大声を上げた。それは信玄死去という話が世間に広まるのに十分な響き方であった。勝頼は大騒ぎしそうな忠勝に静かにするように言って、馬場信春に声をかけた。
「昨夜流れ星を見た。あれが父上であられたのか。ところで馬場よ、火といえば水だが、風といえば?」
「山でござる。では、神といえば?」
「天だな」
「お屋形様。お待ちしておりました」
「山県はいるか?」
「中に居りまする。長旅お疲れのところ申し訳ありませんが、こちらに」
忠勝は会話についていけてない。どうやら本物のお屋形様であるとわかってもらえたようだが……… 。実は勝頼はまた偽物が現れた時のために、信玄、山県、馬場と合言葉を決めていたのです。もしもの時はこれで確認しようと。
中に入ると忠勝は別室で待機を命じられ、勝頼だけが奥の部屋へ入りました。そこには城主である宇都宮国綱と、ピンピンしている武田信玄が下座に並んで座っていました。勝頼は上座に座ると、
「武田勝頼である。そなたが宇都宮殿だな?」
「宇都宮国綱でございます。当地において襲撃がありました事、お詫びいたします」
「うむ。で、宇都宮殿は佐竹殿と親しいと聞くが」
「佐竹様とはこの地を守るために同盟を結んでおります。ここは北条の領地との境目、戦が絶えませぬ」
「今日、ここに佐竹殿と結城殿が来ると聞いている。予定に変わりはないか?」
国綱は横にいる信玄を見てから
「それが、信玄公がお亡くなりになったと噂を聞いたようで、途中までは来られているのですが」
そりゃそうだ。会談どころではないわな。
「宇都宮殿。佐竹、結城には武田信玄が死んだ事にしていただきたい。時が来れば余から詫びを入れる。どうであろうか?」
「なぜにございます?北条に忍びを撃退した事を知らしめても良いのでは?」
「北条にはしばらく偽の情報を流しておきたいのだ。それと他の大名の動きも見たい」
宇都宮国綱は少し考えてから、
「この城で起きた事のお詫びとしてもよろしいか?」
そんなに気にしてるのか。まあ、ここで本当に信玄が死んだらただでは済まないか。
「よかろう。それでだ、この城に佐竹、結城に来られると父上の遺体でもないとおかしくなる。どこか他の会談の場所を用意してもらいたい。そこには余が出向こう」
信玄はうなづいている。暫くは身を隠さねば、と遺体が置いてある部屋というのを用意させ、そこに籠る事になった。
「勝頼。余はしばらく身を隠すゆえ、後を頼む」
「はい。しかし父上も人が悪い。敵の襲撃を逆手にとって騙すとは」
「人聞きの悪い事を言うな。だが、これで武田信玄は死に、襲ってきた忍びは行方不明だ。北条がどう出るか楽しみだ」
「それがしにそっくりでしたか?」
「瓜二つ。あれでは兵が騙されるのも無理はない。声まで同じであった」
やはり善光寺に現れたのと同じ忍びのようだ。そいつは倒したというが風魔というのがどんな集団かわからないので油断はできない。
そして2日後、城から少し離れた寺に勝頼の姿があった。山県昌景が同行している。案内は宇都宮が勤め、今は佐竹を出迎えに行っている。
「お屋形様。佐竹殿はどんなお方でしたか?」
山県は大名集結で勝頼が佐竹と会っている事を聞いていた。
「佐竹義重、土地柄苦労したのが顔に出ていた。ぼちぼち隠居したそうだったように見えたよ」
「そうですか。佐竹が音頭をとって結城、宇都宮を使い北条に対抗していると聞きます。隠居するには世継ぎが必要ですが?」
「嫡男の義宣に継がせるのであろう。ん、どうやら来たようだぞ」




