軍議
続々と重臣達が集まってきます。山県昌景、馬場美濃守、内藤修理、穴山信君、武田逍遥軒、武田信豊、真田信綱、等総勢50名の大所帯です。譜代、親戚衆が上座に座り下座には、旧今川勢、徳川勢が控えています。その中で朝比奈泰朝、岡部正綱、井伊直虎は中座付近に、本多忠勝、上泉伊勢守は勝頼近くに座っています。それに対して何か言いたそうな者に対しては最上座に座る信玄がガンを飛ばして黙らせています。
久しぶり仲間の顔を見て談笑する者、まだこいつ生きてやがったかと睨む者、様々です。これだけいれば仲の良い悪いはでます、人間ですから。それを纏めるのがお屋形としての務めであり役目です。それができないところはきっかけがあれば崩壊します。三雄の歴史での勝頼のように。
勝頼はその事を三雄から聞いて知っていますので裏切りそうなメンツに逆にテコ入れをしています。それでダメなら切り捨てるしかありません。
勝頼は皆が揃ったのを聞いて大広間に入りました。時は元亀4年、三雄の歴史で信玄が死ぬ年です。
「皆の者、大義である。今日集まってもらったのは情報の共有が目的だ。武田の領地が増え、5カ国を治めるようになったがその分、皆が集まる機会が減った。近々戦になるだろうからここで皆の心を一つにしておきたい。特に、旧今川、徳川の者に対しては思うところがある者もいるであろう。大事な部下を殺された者もいる。だが、彼らは今、余の家臣だ。お前達と同じ家臣である。それにここにいる者達は皆優秀で、駿河、遠江、三河を真の意味で武田の領地にするのによく働いてくれた。まずは過去を水に流し余のために、同じ仲間として働いてもらいたい。ここまでで意見がある者は遠慮なく申すが良い」
場はシーンとしていて誰も声をあげません。それを確認してから、
「では一同承知したと認識した。今後、この件で何か申す者は処罰対象と致す。さて、次にここにいる上泉伊勢守を家臣とした。皆も知っていると思うが剣豪であり戦術家でもある。伊勢守には高天神城を預けた」
伊勢守が皆に一礼をした。
「伊勢守は余の剣の師匠でもある。皆もそのつもりでいるように。次に、今後の戦略について説明する」
勝頼は三雄から聞いた情報を元にいくつかのパターンを検討して答えを出しました。
「これは確定ではない。作成1から5までのどれになるかはまだわからない。もしかしたらそれ以外になるかもしれないがまずは現状を理解してくれ。喜兵衛、半兵衛、例の物を!」
武藤喜兵衛と竹中半兵衛は部下に言って巨大な模型を運ばせました。日本地図と、関東から山陰、四国までの模型です。
「この一年の間に織田は朝倉を攻めて越前を手に入れた。浅井達近江の国衆は織田についた。織田はその勢いで比叡山延暦寺を焼き討ちにし、それに反発した石山本願寺と争っている。本願寺は籠城しているが、まさに鉄壁の要塞であえい、織田も攻めあぐねている。兵糧攻めにでたが、毛利が船を使って食糧援助をしており攻略できそうもない。問題はここからだ」
武藤喜兵衛が話を繋ぎます。
「織田は2年は戦を行わないと先の大名集結で宣言をしましたが、その公約を破りました。それは、大名集結でいいところのなかった朝倉が毛利と結託して織田を牽制したのです。織田信長は最初ががまんしていたようですが、朝倉が美濃勢を調略しようとしている事を知り攻撃を仕掛けたのです。ですが、」
勝頼がそこで喜兵衛の話を止めました。そして半兵衛にそこから話を続けるように言います。
「それは木下秀吉が流した偽の情報でした。信長の性格を知り尽くした秀吉めの策略です。それに乗せられた信長は戦を決断し一気に前に進み始めました」
山県昌景が質問します。
「織田信長はそんなに短気なのですか?」
「冷静で世の先を見ている男だ。だが、秀吉が他にも何か癪に触るような事をしたと思っている。今後、この秀吉、それと織田方の明智十兵衛なる者が戦局を握る筈だ。半兵衛、続けてくれ」
「はっ。そして兼ねてから懸案であった比叡山を焼き討ちにしました。これは帝の願いであったとの情報です」
信玄が驚いたように声をあげます。
「延暦寺の宗主は帝の弟のはず。そうか、帝の目にも許せぬくらいの事であったか。であれば、信長は帝のために戦った事になる」
「はい。大屋形様の仰る通りです。ただ、寺を焼いた事実は残っています。信長は仏敵とみなされ本願寺との全面戦争になったのです。仏の敵、信長を倒さねば信仰を続けることができないと僧は武器を取り、実力以上の抵抗をしています。織田信長はそれに手こずり戦力、戦費を多大に消費しています。堺への税率を上げ反感を買っているそうです」
ここから勝頼が話だします。
「信長は帝の意を買って比叡山を攻めた。だが焼き討ちはやりすぎだ。それにより敵を増やしてしまった。余はそしてこれも秀吉の策略であったと考えている」




