ゲットだぜ
護衛の忍びが焦ります。
「これ、無礼であろう。このお方は諏訪の四郎様であらせられる。言葉を慎め」
「誰、それ?」
徳は四郎の事を知りませんでした。すでに武田は諏訪、高遠、伊那を制圧し領地としています。ここは諏訪と高遠の中間くらいの位置です。
「娘、自分の領主も知らんのか?」
「えっ、ご領主様なの?だったらうちの部落を助けてよ。領主って何のためにいるのよ!」
徳は四郎を睨みつけます。俺、なんかしたっけか?と思いつつ冷静に、
「徳とやら。いきなりそう言われても何の事かわからん。説明できるか?いや、その前にお前の部落へ案内してくれ。おい、離してやれ」
護衛は徳を解放しました。徳は10歳くらいでしょうか?栄養状態があまり良くないように見えます。四郎は部落へ赴きます。
山を越え下ったところに平野があり、畑が見えます。家は五軒、作っているのは蕎麦と小麦のようです。徳は一軒の家に入っていきました。
「この部落を知っているか?」
「はい。偵察できたことがあります。諏訪近郊にはこういった小さな部落が沢山あります。平地が少ないのでこういった土地を使って工夫して生活をしているのです。そういえば棟梁が豚を見たのはこの近くです」
吾郎が?なのにあいつ何も言わなかったな。隆重に遠慮していたのか。もしや勝負して勝つ気で隠しているのかも。そう考えていると徳が大人を連れて外に出てきました。父親のようです。四郎を見るといきなり正座して地面に土下座です。
「四郎様におかれましては、わ、わざわざこのようなところへお越しいた、いただきまして感謝感激、ではなくありがとうございます」
ムッチャ緊張してます。どうやら四郎が来たと聞いたようです。
「頭をあげい、そう固くならなくて良いぞ。徳に聞いたが困り事があるそうだが」
「娘がご迷惑をお掛けしまして誠に……」
「それは良い。困り事を申せ」
父親は権左というそうだ。徳は12歳、貧弱に見えたのは栄養不足のせいのようだ。半年程前から畑や森の食物を獣が荒らしてしまい困っていると。部落の衆で獣退治に行き何頭かは仕留めたが数が多く対応しきれない、さらに数名が獣の突進で怪我をしてしまい働けなくなる者も出てきておりどうしようかと途方に暮れておりました、との事でした。
「その獣はどういう風に鳴いておった。声を聞いたか?」
「獣と戦った者を連れて参ります」
隣の家から体格のいい青年が現れた。名を寅三というそうだ。
「ブヒーとかブーとか鳴くのが丸っこい奴で、フゴーと鳴くでかいのもいました」
みーつけた!!
5日後、諏訪上原城に諏訪隆重、吾郎が現れました。2人とも豚を捕えたというのです。四郎は何食わぬ顔をして2人が捕えてきた獣を検分しようとしています。
「両名、大義であった。まずは隆重、捕えた獣を連れて参れ」
隆重の部下が木の檻に入った獣を籠のように担いで持ってきた獣の鳴き声が響く。
『フゴッ、フガッ』
うん、イノシシだね。少し豚が混ざってるかもしれないけどまあイノシシです。
「隆重。そなたはイノシシと豚の区別がつかないようだな」
隆重はがっかりしているが、横の吾郎は楽しそうににやけている。いいのかな、そんな余裕で。次に吾郎の捕えた獣が連れてこられた。こ、これは!イノブタでした。身体がデカすぎです。
「吾郎、惜しいがこれは豚ではない、イノブタだ。両名ともご苦労であった。実はな、すでに俺が捕えてあるんだ。寅三、もってこい」
吾郎は唖然としている。自分が見たのは間違いなくこいつだ。この獣なのだが、違うのか。そう、吾郎は最初からイノブタを豚と勘違いしていたのでした。
あの部落にいた体格のいい若い者、寅三が勝頼の部下と一緒に檻に入った豚を持ってきました。
『ブーブー、ブヒッ』
元気よく豚が鳴いています。捕えた豚は3匹、1匹は子豚です。
「いいか2人とも。この鳴き声を覚えておけ、そして引き続き捕えて参れ。そうそう、勝負には俺が勝ったが褒美は何をくれるのかな?」
「滅相も無い。殿に渡す褒美など持ってはおりませぬ」
2人揃って勘弁してくれと言っています。そして、はっと気づいたように、
「殿。鳴き声に見分け方があるならなぜ教えていただけなかったのですか?無駄な時間を過ごしてしまいました」
えっ、 逆ギレ?
「聞かなかったお前達の準備不足が原因であろう。今後はこれに懲りて下らない勝負は控えるように。そうだ、2匹づつ捕えて参れ。下がって良いぞ」
四郎は分が悪くなりそうだったので上手いこと切り上げました。実は四郎はあの後、寅三と部落の衆、護衛の2人を使って豚を捕獲していたのでした。吾郎の配下である護衛には絶対に吾郎に言わないように厳命して。豚を捕えた部落の衆には褒美として武器と食料を与えました。
「徳、どうだお前の領主は」
徳と父親も城に来ていたのです。
「なかなかやるじゃない」
「こら、お前はなんて口の利き方を。ご領主様でらせららられ……」
「まあいいから。またな」
部落の衆は沢山の褒美を持って山へ帰って行きました。




