これが日常でして
「こんな彼女とこんな暮らしがしてぇ!」と言う思いを込めて書き上げました
ありきたりだ、使い古されている、二番煎じ、パクリ、リスペクト、その他いろいろ。ネタ被りとかとも言われるそれは意味する言葉が多いだけに数も多い。
「・・・ありきたり」
一項、また一項と読み進めても思う感想はこの一つ。
「現実なんだもんなぁ・・・」
読み終えた単行本コミックを閉じて本棚に戻すと計ったかの様に玄関の方からただいまと声がする。
「おかえり」
「やー大変大変。雪降ってんよ」
肩に乗った本州ではよく見られるしっとりとした雪を上手く払えずに彼女は口をへの字にした。
「また読んでたん?」
「んー」
返事もそこそこに次のコミックを本棚から取り出す。何回も読み返しているのに無性にまた読みたくなる。本を読んでいるとその本の主人公と一緒にその本の世界を見ている様な気分に浸る事ができた。
「んー・・・」
「それ前読んでた人外漫画じゃないの?」
「そー・・・だけど・・・んー・・・」
パラパラとページを捲って流し読みをする。
確かにこの本は何度も読んでいる。特に新しい巻が出れば一から読み返しているのでもう冒頭部分は諳んじられる位だ。
「異世界から来た人外達との交流物・・・五年も前の本だし当時は楽しめたんだけどなぁ・・・」
「あぁ・・・そりゃぁ・・・もうしわけないね」
「いや別に文句とかじゃないけど」
コートをハンガーに掛けて着替えている彼女をふと見る。
腕も脚も見た目は普通、顔だって一般的な日本人顔だ。髪に少々特徴的な模様があるのと背中から生えた燕に似た羽と尾羽が無ければ外見はいたって普通の日本人女性だ。
「これが日常なんだよなぁ・・・」
「何しみじみしてんのさ。夕飯の用意するよ」
「へいへい」
・・・・・・・・・
時は三年前に遡る。
草木も眠る丑三つ時。世界各地にある神社仏閣聖堂教会等から光の柱が昇り地球と別の世界とが融合してしまった。
我らが地球とその異世界との相違点は二つ。一つはあちらの世界には人類は存在しない。二つ目はこちらの世界の人類以外の動物が人の形を持って生活していた事だ。
勿論各国政府はおおわらわとなり一部では迫害一部では保護、さらに共存依存排斥と様々な様相を呈していた。
そんな大混乱の中我らが祖国日本が取った政策は共存だった。政府は先ず日本に出現した人類外の人型生物、通称亜人類。デミヒューマノイドと名付けられた彼ら彼女らを保護し全国各家庭に一人から二人ずつ、親子兄弟家族の多い亜人類は独り身で居る者の所へと家主達と亜人類共に了承を得てから移住させた。
移住を望んだ家庭には相応の補助金が出され、種族間でのいざこざ抑止の為に日本全国で警察官が引っ張りだこになり自衛隊までもが治安維持の為の巡回に回される事になった。
そんなこんなで法整備を一年で済ませた日本政府の財政は火の車となった。何せ働かせる事の難しい人口が一気に増えたようなものだ。ベビーブームも無しの人口増加とそれに対する補填保証とで大量の税金が日本全国にばら撒かれる事になり、バブル程では無いものの日本国民にとって景気は良い方向へと動いて行った。
そして法整備が落ち着いた世界融合から二年が経ったころ。社会で働き始める亜人類が増えてきたおかげで政府財政も少しは落ち着いた。融合当時首相だった者はテレビなどのメディアでは強行に政変を進めたとか亜人類に国を売ったとか批判されていたが辞任することも無く支持率の低下も無かった。
・・・・・・・・・
そして世界融合から三年が経ったのが今現在。日本では亜人類が普通に働き、普通に生活できる様になった。
勿論一部の亜人類が犯罪を犯す事もあったし、その度に政権批判や亜人類排斥等の動きが無かったわけでも無いが。それでも生活はできている。
「ん・・・サワノー私のプラモデルどこー?」
「あー・・・っと・・・本棚の上」
俺の家に住んでる亜人類のカマトリノと自称する彼女は燕の様な器官を持つ亜人類である。飛行もできるらしいが航空法やら鳥亜人類飛行法やらと申請やらなんやらが面倒で飛行可能区域以外では飛ばないらしい。
名前のカマトリノは親鳥に付けられた名前を日本語に似せた発音であるらしい。
「んふふ~プラモデル楽しいよ~♪・・・サワノは作らないの?」
「今は給料日前だから金無い」
「じゃあ給料日が楽しみだね」
彼女は二年前に我が家に転がり込んできた。最初は箱の中に人が入っているとお約束なやり取りもあった。今ではもう板の中に人が入っているとは寝ぼけていても恐らく言わないだろう程に日本に馴染んでいた。
「サーワーノー」
「はーあーいー」
「これ」
「何?シャア専用ゲルググ?」
「ちっがーうこれはリゲルグ。一緒に作ろうよ」
カマトリノは我が家に来てから積んであったプラモを全て作り切ってしまった。親父が置いて行った物で特に感慨も無かったが、カマトリノ本人も興味があったようで彼女の暇つぶしになるのならと作らせてみたら三日を過ぎたあたりでニッパーと紙やすりが増えていた。一週間で墨入れの道具も揃えたが自分はパチ組で十分と譲らずに墨入れ以上の塗装や改造はしなかった。
「いやそっちEWACジェガンじゃん。フライングベースの買い置き無いよ」
「そう言われると思って買ってきてあるのだーふふーん」
帰り際に持っていたポリ袋をガサガサと漁る彼女の後ろ姿を見れば羽毛の色は黒めなのでカラスと間違えるかもしれない。だがそれを彼女に言うと突かれるので言わない。
「あ、リゲルグの分忘れた」
「ジェガンの分忘れたでもいいぞ」
「リゲルグの分ね。サワノはポージング付けないし問題ないでしょ」
「あーまいったなー今日は久しぶりにポージング付けようと思ってたのになーあーまいったなー」
パーツをランナーから切り離す音、ゲート処理をしてはめ込む音、四肢が出来れば腰と胴。最後に頭が出来上がる。説明書の通りに作ればどんなプラモでも大体はいい出来になる。
説明書のあるプラモならの話だが。
「置き場は・・・バイアランカスタムの隣が空いてたっけ」
「バイカスの隣はゼー・ズール置きたいからパス。Gガンエリアの隣に空きがあったからそこでいいだろ」
「おっけー。サワノのリゲルグは?」
プラモの置いてある棚をちらりと見る。特に大まかなエリア分けも無く漠然と並べているだけだがそろそろ整理すべきなのかもしれない。
Gガンエリアはシャッフル同盟拳の再現の為にかなり場所を取っている。VガンエリアはV2アサルトバスターと自作パーツの光の翼が場所を取っている。
「そろそろ整理すべきなんだろうなぁ・・・整理できるまではそこの本棚が空いてるからそこに置いておこう」
「クシャトリヤとネオ・ジオングがでかすぎるんだよ」
「違いないな」
徐に立ち上がりのびをする。長時間の読書とプラモのパチ組で体が固まってしまった。
肩回りからパキパキと不穏な音がする。運動すべきなのだろう。
「ん~・・・ふぁ~・・・晩御飯どうしようか」
「冷蔵庫に豚バラとキャベツと卵があったし簡単野菜炒めだな」
カマトリノものびをしつつ受け答えをする。彼女はどうやら嫌いな物が特にないらしく人間と同じものを食べても問題は無いらしい。
らしいのだが時折部屋に飛んでいる虫を食べている事がある。彼女曰く目の前を飛ばれるとうっとおしくて仕方が無いからとの事だがいかんせん絵面の良い物ではない。
因みに俺は酒が飲めないが彼女はいける口のようだ。色々な銘柄をちびちびやるので部屋には飲みかけの酒瓶がけっこう置いてある。そこだけ見れば酒浸りなのだが酷い酔い方をしたことが無いので今の所は特に問題無い。
「雪止んでますね」
「おぉ、じゃあ雪だるまでも作るか?」
「手が冷えるのは嫌ですよ。外出て雪触る位なら暖房の効いた部屋でプラモ作って肩こりを酷くする方がマシです」
彼女は極端に冷えるのを嫌っている。存外、燕と似通った生態を残しているのかもしれない。
それゆえ我が家は冬でも夏でも一定の温度になるように暖房を効かせているので年中半袖短パンで過ごす事が可能だ。というか半袖短パンでないと暑すぎて熱中症になりかねない。
氷枕に保冷剤、スポーツドリンクは我が家の常備品だ。
「じゃあご飯できるまでお風呂先に入るね」
「あいあい。ゆっくり入ってきな。ボイルチキンにならん程度にな」
「私ニワトリじゃないんですけど」
お風呂と言うがカマトリノが使うのは水桶と常温の水だ。所謂水浴びと言う奴で短時間で済んでいる。
つまり彼女が行水を終わらせる前に晩御飯の準備をしなければならない。
フライパンをIHクッキングヒーターに乗せて油を引き温める。その間にキャベツをざっくばらんに切っていき、フライパンが温まったら豚バラ肉を適量入れて炒める。今回は少し脂身が少なめのやつだったので油引いた。
油の跳ねる音が良く聞こえる。
豚肉に火が通ったら軽く塩胡椒を振り、適当に切ったキャベツをぶち込んでいく。キャベツが柔らかくなり過ぎない程度まで炒めたら二つ分の溶き卵を回し掛けしていい感じになるまで炒めたら完成だ。
「お風呂あがったよ~」
「こっちもご飯できたぞ」
今朝炊いたラップご飯を電子レンジで温めてテーブルに乗せれば晩御飯の完成だ。
「サワノは明日仕事?」
「あぁ」
「私は休みだから今日と逆だね。ジオング買ってきてよ。マスターグレードのやつ」
「金が無いって言ってんでしょうが」
家の近くに古いながらも品揃えがやたらいいプラモ店があるのがいけなかったのか、カマトリノはかなりプラモにご執心になったようだ。
なんにしても我が家にやって来たばかりの頃を思えば良い傾向なのだろう。
他愛のない会話をしつつ野菜炒めを食べる。皿洗いはカマトリノの担当なので、彼女が皿を洗っている間に俺も風呂に入る。改めて言うが我が家は年中暖房が付いているので汗をかきっぱなしだ。冬場という事もあってさぞ温かい湯舟が身に染みるだろう。
「ふ~ぃ・・・」
体を洗い終わり湯舟に肩までとっぷりと浸かる。想像通りの気持ち良さだ。
今にして思えば我が家に異種族がやって来た挙句に寝食を共にするなど、三年前には夢にも思わなかった。
「こういう日常も悪くは無いなぁ・・・美人だし」
「なんか言った?」
風呂場のドア越しにカマトリノから不意打ちの疑問を投げかけられた。
「いや、ななななんんでででもないいい」
「狼狽しすぎ。・・・石鹸、後で新しいの出しといてね」
「・・・入る前に言ってくれよ」
これもまた、その内日常になるのだろう。
・・・なったらいいなぁ。
私は猫派か犬派かと聞かれたら鳥派と答えるタイプです
好きな鳥はシマエナガです