とんでもない波乱に満ちた卒業パーティ。
ここはレティート王国の王宮で、この国の国王アルバートと、王太子カルディスが話し合いをしていた。
国王アルバートはカルディスに。
「どうしても、確かめたいのか?私は許可せんぞ。」
「どうしても確かめたいのです。真実の愛を。」
傍に控えていた宰相が止めに入る。
「困ります。王太子殿下。危険すぎます。」
騎士団長も、頷いて。
「他の卒業生たちに危険が及びます。ですから…」
国王アルバートは困ったように、
「かといって、王立学園の卒業式の後に行われる卒業パーティは今回で50回目を迎える。
取りやめる訳にはいかない。カルディス。許可をしないと言うのに、行うと言うのなら…
宰相、騎士団長。お前達、最善を尽くせ。卒業生達にも危険をしっかりと伝達しておけ。
よいな。」
「はっ。」
「かしこまりましてございます。」
国王アルバートはふうっとため息をついて。
「ここは、あの男も呼んで、最善を尽くした方がいいな。
後、必ずや現れるであろう隣国の…アレもどうにかしないとな。」
他国を見てみるがいい。王族の公爵令嬢への婚約破棄はかなり国に波乱をもたらしてきたのだ。
時には後継者を廃嫡させて、婚約破棄された令嬢が国を去ったせいで滅びた国もある程だ。
かなり危険な卒業パーティになる事は解っている。
それでもやらねばならない卒業パーティ。
国王アルバートは頭を抱えるのであった。
そして卒業パーティの当日。宴も盛り上がり、皆、楽しんでいる頃。
突然、王太子カルディスが宣言した。
「私、王太子カルディスは、ミレーユ・アマンディ公爵令嬢と婚約を破棄し、マリーランネ・コレティトス男爵令嬢と新たに婚約を結ぶとする。」
王太子カルディスの傍には真っ赤なドレスを着てこれ見よがしに大きい胸を強調させ、ピンクのふわふわした髪のマリーランネが、勝ち誇ったように、微笑んでいる。
婚約破棄を言い渡された美しい顔立ちで長い銀の髪を結い上げて、豪華な銀のドレスを着たミレーユ・アマンディ公爵令嬢は、真っ青な顔で、カルディスに近づいて、
「本当でございますか?わたくしと婚約破棄。」
「私は嘘はつかぬ。」
カルディスの傍に控えていた騎士団長子息が叫ぶ。
「マリーランネはとても癒される令嬢だ。」
宰相子息も叫ぶ。
「マリーランネこそ、王太子殿下の婚約者にふさわしい。」
ミレーユの瞳がランランと輝く。
「許せない。許せませんわ。ウリ、ルマ。やっておしまい。王太子殿下はわたくしが捕まえます。」
「「了解っ。」」
ミレーユの背後から一つ角を生やして緑の髪の少年たちが、羽をパタパタさせて現れた。
ウリと呼ばれた少年は、
「いでよ。食虫植物ガバニエスW。あの二人を食べてしまえっーーーー。」
ドドーーンと床を突き破って二体の巨大な食虫植物が現れた。
宰相子息と騎士団長子息に長いツルをクネクネさせて襲い掛かる。
ルマと呼ばれた少年は、
「いでよ。大ガエル、アリエンテちゃん。あの女を食べちゃっていいよ。」
大ガエル、アリエンテちゃんが、ドーンと出現して、
アリエンテちゃんは大口を開けて、男爵令嬢マリーランネに襲い掛かる。
卒業生達はあらかじめ、学園長に、逃げやすい服装、靴で来るようにと周知されていた。
皆、一斉に会場の外へ逃げ出す。
あらかじめ控えさせていた騎士団長と騎士団員達20名は、騎士団長子息と宰相子息に襲い掛かる食虫植物ガバニエルWに剣を持って攻撃をする。皆、バシバシと弾かれて。
パーティ会場の屋根は吹っ飛んで、騎士団員達は空へ向かって飛ばされていく。
そこへ、力こそ正義と言う言葉が妙に気に入ったらしい、黒騎士姿の英雄ディストール。
国王の依頼でこの場に来たという正義の味方が、剣を振るい、今にも巨大な袋に騎士団長子息を入れて食べようとした、食虫植物を剣でめった斬りにした。
どさっと騎士団長子息は地に放り出され、なんとか一命をとりとめる。
その隙に宰相子息は頭から食虫植物の袋の中に放り込まれようとしていた。
なんとか英雄ディストールは、宰相子息を掴んでいたツルをぶった斬り、その隙に騎士団長が宰相子息の足を持って引き出して、何とか助け出す。
食虫植物を出現させたウリと呼ばれる少年が、英雄ディストールに、
「ひどいなぁ。僕の可愛い食虫植物ガバニエスちゃんたちを。」
「お前達は精霊だな。こんな事をしていいと思っているのか?」
ふと、英雄ディストールが後ろを振り返ってみれば、
大ガエルに食べられようとしているマリーランネが床を這いまわって逃げ回っていた。
「ひいいいいいっ。助けてーーーー。」
隅に追い詰められた所を大ガエルが大口を開けて、襲い掛かる。
英雄ディストールは滑り込んで、マリーランネを突き飛ばしたものの、自分が腰から大ガエルにくわえられてしまった。
剣で大ガエルの脳天をぶっ刺して何とか倒す。
もう一人の精霊の少年ルマが、
「僕のアリエンテちゃんをっ。なんてことをしてくれたんだようっ。」
その頃、ミレーユは黄金の檻を出現させて、王太子カルディスを閉じ込める。
「わたくしは、貴方様を愛しておりますのに…もう、ここから出して差し上げませんわ。
一生。わたくしの物でいて下さいませ。」
王太子カルディスはミレーユに向かって嬉しそうに、
「君は私を愛していてくれたのか。」
「え??」
「いつも君は無表情で、話をしても、事務的な話しかしてくれなくて…
愛されていないのかと思っていた。だから、愛を確かめたくて…
婚約破棄をしたのだ。私はミレーユに愛されたい。ミレーユの関心を引きたい。
でも、君は私を愛してくれていたんだね。」
「まぁ。そうでしたの…」
「婚約破棄は取り消す。どうか私の妻になっておくれ。」
「嬉しい…喜んで。」
黄金の檻は消えて、二人は抱きしめ合って、熱いキスをする。
ウリとルマは、
「ミレーユが幸せなら、僕たちはいいかなぁ…」
「うん。そうだね…退散しよう。」
二人の精霊は姿を消したのであった。
こうして前代未聞の卒業パーティは強制的に終わった。
王立学園のパーティ会場であった広間は、天井に穴が開き、散々たる有様である。
アルバート国王はその様子を眺めて、
「学園長。修繕費は王家から出す。」
学園長はかしこまって、
「有難うございます。国王陛下。」
卒業生たちは皆、外へ逃げて無事だった。
そして、英雄ディストールはやる事があった。
アルバート国王に依頼されていたことがもう一つあったのだ。
王立学園の外に豪華な馬車が一台止まって、一人の黒髪の美男子が降り立つ。
隣国の皇太子セレスタンだ。
赤の薔薇の花束を持ち、その美男子セレスタンが王立学園の卒業パーティが行われていたであろう会場へ向かおうとすれば、英雄ディストールが彼の前に立ち、
「ここから先は行かせる訳にはいかない。」
「私は隣国の皇太子セレスタン。麗しのミレーユ・アマンディ公爵令嬢に婚約を申し込みに来た。」
「我が国のアルバート国王陛下が許可をしないと言っている。帰って貰おう。」
バチバチと睨み合う二人。
仕方がないと言った風に、
「この屈辱覚えておこう。お前の名は?」
「国王陛下の代理の物だ。もし、苦情があると言うのなら、アルバート国王陛下に願いたい。」
「承知した。」
英雄ディストールに事の次第を聞いたアルバート国王。
「これで、ミレーユ・アマンディ公爵令嬢が隣国へ行ってしまう事態は防がれた。
感謝する。」
そう…他国の卒業パーティで、優秀なる公爵令嬢がこの機会とばかり、隣国の皇太子や王太子に連れ去られる事態が発生しているのだ。
こればかりは防がなければならない。
王太子による公爵令嬢の婚約破棄。これを行ったせいで、国が滅びた例もあるのだ。
何という恐ろしい事であろうか。
アルバート国王は安堵した。
婚約破棄騒動を防げなかったのは仕方がない。
卒業パーティは取りやめられなかったし、王太子カルディスは真実の愛を確かめたいと言って聞かなかったのだ。
自分は最善を尽くした。
怪我人は…騎士団員数人が空へ吹っ飛ばされて、何人かが打撲の怪我を負ったが、
学園の広間の天井が穴が開いて、あたりが破壊されたが…
そうだ。アマンディ公爵家に修繕費を請求しよう。
壊したのはアマンディ公爵令嬢なのだからな。
そうアルバート国王は強く思った。
後に波乱の卒業パーティは語り草になり、王族が卒業する年は要注意と、いままでも他国間で広く周知されていたが、更に広く周知されたと言う。
はた迷惑な肝心の王太子カルディスとミレーユ・アマンディ公爵令嬢は、後に結婚し、
アツアツで幸せに暮らしたと言われている。