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12-6

 今回のはだいぶ短めです。

 流行りの風邪にやられました。面目ない。今年の風邪って本当に長引きますね……。


 これまで読破してきた読者の皆様にはきっと物足りないと思いますが、どうかご容赦を。

 がんばって早めに治します。




【これまでのあらすじ】

反撃の狼煙は上がった。


マクナイトによる艦砲射撃が道を拓き、クロード&ギャレット率いる遊撃部隊が敵を攪乱する。


思わぬ反撃に、USSAは虎の子、自爆ドローンによる攻撃を仕掛けるが、27番地は無効化に成功。


沸き立つ27番地だが、総指揮官補佐を務めるバートンは手を緩めない。さらなる反攻手段に打って出る――。




【登場人物】

●ニコラス・ウェッブ:主人公


●ハウンド:ヒロイン、敵(USSA)に捕らわれている


●バートン:ニコラスの狙撃の師


●アーサー・フォレスター:USSA長官にして、『双頭の雄鹿』現当主。すべての元凶。


オヴェド:泣き黒子の男、フォレスターの右腕


●モリガン:『双頭の雄鹿』実働部隊トゥアハデ最古参の銘あり、妖艶な美女


●クルテク:元USSA局員、元CIA所属で二重スパイ



【用語紹介】

●合衆国安全保障局(USSA)

12年前の同時多発テロ発生直後に急遽設立された大統領直属の情報機関で、年々発言力を増している。現長官はアーサー・フォレスター。


●『双頭の雄鹿』

USSAを牛耳る謎の組織。その正体はアメリカ建国黎明期の開拓者『ポパム植民地』住民の末裔。

マニフェストディスティニーを旗標に掲げ、国を正しい道に導くことを指標とする。政界、経済界、軍部、国内のあらゆる中枢に根を張り巡らしている。

名の由来は、ポパム植民地の最大後援者でもあったジョン・ポパムの紋章からもじったもの。


●失われたリスト

イラク戦争中、国連主導で行われた『石油食料交換プログラム』を隠れ蓑に世界各国の大物たち(国連のトップ、現職の大臣、資本家、宗教関係者など)がこぞって汚職を行った『バグダッドスキャンダル』に関与した人物らの名が記されたブラックリスト。

このリストを公表するだけで、世界各国代表の首がすげ変わるほど破壊力を持った代物。『双頭の雄鹿』の資金源と目される。

現時点、証拠はすべて抹消され、証人もハウンドとシンジ・ムラカミだけとなっている。


●絵本

ニコラスがハウンドから譲り受けた手書きの絵本。人間に連れ去られた黒い子狼が、5頭の犬たちの力を借りながら故郷を目指す物語が描かれている。作者はラルフ・コールマン。

炙り出しで謎の文がページの各所に仕込まれており、それらを解き明かすと『証人はブラックドッグ』、『リーダーはアーサー・フォレスター』となる。


●《トゥアハデ》

『双頭の雄鹿』の実働部隊。世界各国の特殊部隊から引き抜いた兵士で構成されており、長のフォレスターが自ら選んだ幹部“銘あり”が数人存在する。

現時点で確認されている“銘あり”は『キッホル』、『クロム・クルアハ』、『ヌアザ』、『モリガン』、『ディラン』、『スェウ』、オヴェドの七名。

現時点で『キッホル』、『クロム・クルアハ』、『ヌアザ』の三名は死亡。

また、なぜかオヴェドは名を与えられていない。

【2014年4月27日午前6時32分 ロバーチ領某所 対自爆ドローン避難所内部、27番地本部】


「これより迎撃態勢に入る。脅威度判定(トリアージ)、開始」


「了解! 脅威度判定(トリアージ)、開始します!」


 バートンの指令を、オペレーターが復唱する。


 それに呼応して通信班の面々が、車内壁面に設置されたホワイトボードに地図を貼りだす。特区全体と、各領の詳細な地図だ。

 ホワイトボードでは足りず、床や、移動式戦闘指揮所(改造トラック)後部のリアドアを開け放った先の地面にまで広げている。


 指揮所の護衛を担っていた兵士まで参加しているのがご愛敬だが、避難所内なのでまあ問題ないだろう。


「第11観測隊から入電! ヴァレーリ一等区東部エリア、○○ホテル屋上に敵部隊を確認。防空システムからの敵ナンバリング、V-1。脅威度レベル1を追加」


「第8遊撃中隊偵察小隊より報告。ターチィ領二等区、14番地内の商業施設屋外テラス、T-3にスティンガーを目視確認。脅威度レベル3の追加を希望」


「第3観測隊より緊急報告。R-5の敵から車載型地対空ミサイルの発射を確認。脅威度レベル5を追加」


 オペレーターが次々に報告を読み上げていく。


 ホワイトボード上の地図には、赤い磁石によるマッピングと、マーカーで数字がどんどん書き加えられていく。


 その地図上の赤点が一つ、10を超えた。


 通信班がキュッとマーカーで囲う。


「敵R-5、脅威度レベル10オーバー!」


「攻撃開始」


 バートンの命はただちに実行された。


 マクナイト率いる砲撃中隊からの152ミリ榴弾砲が、標的を周囲の護衛ごと吹き飛ばす。


「脅威度レベルの追加判定に多少誤差があっても構わん。こちらで修正する。大事なのは、『どこに、どれだけの敵が、どんな武器をもっているか』だ。多少遅くなっても構わん。正確に、確実に遂行しろ。

 君たちは前線にこそ立っていないが、君たちこそが最前線だ。同胞の命が、君たちの声一つにかかっている。心せよ、同胞の盾となるのは君たちだ」


「はいッ!」


 オペレーターたちの返答を聞きながら、バートンは地図上で次々に増えていく脅威度レベルの数値を鋭く見渡す。


 脅威度判定――バートンが考案した、防空システムと人間の目を活用した空対地迎撃である。

 機械と人間の連携によるFCS(射撃統制システム)とでも言おうか。


 射撃統制とは、主に次の六段階の動作からなる。


 ①目標の捜索・探知

 ②敵味方の識別

 ③目標の捕捉・追尾

 ④未来位置修正角の算定

 ⑤射線の設定

 ⑥射撃


 今回バートンが編み出した手法は、この六段階の②と③の間に脅威度判定を行い、どの敵から攻撃するかの優先順位を決める手順を加えたものだ。


 ①目標の捜索・探知

 ②敵味方の識別

            ←【New! ③脅威度判定】

 ④目標の捕捉・追尾

 ⑤未来位置修正角の算定

 ⑥射線の設定

 ⑦射撃


 具体的には、まず防空システムが地上の敵を自動で識別・検出してナンバリングを施す(手順①、②)。

 そのナンバリングされた敵に対し、人間(オペレーター)が前線部隊の観測情報をもとに脅威度レベルを足していく(手順③)。

 脅威度レベルが10を超えたら攻撃開始だ。こちらから前線部隊に敵の現在座標と未来位置座標を伝達し(手順④、⑤)、砲撃を行う(手順⑥、⑦)。


 本来、脅威度レベル判定は、誤爆防止のため人工知能か訓練を重ねた熟練兵が行うべきものだ。

 間違っても民間人にやらせていいものではない。ゆえに判定もできる限り簡略化した。


 本心を言えば、防空システムを担う偵察ドローンに判定機能も組み込めればよかったのだが……敵味方の自動識別・検出にナンバリング、全住民に向けた自律警報システムといった機能がすでにある。


 これ以上を望むのは、彼らに酷というものだろう。そうでなくとも物資も人でも不足しているのだ。


 ――どのみち戦後は軍法会議待ったなしだな。


 バートンは一人苦笑し、すぐに顔を引き締めた。

 新たな戦術を試行する興奮は鳴りを潜め、『沈黙の鷹』と恐れられた眼光が暗がりで剣呑に光る。


 今でこそ27番地は有利に立ち回れているが、この好転、長くは続くまい。

 USSAに少しでも戦略的な視野を持つ者がいれば――。




 ***




「敵防空システムを攻撃しようとした味方が、次々に撃破されています!」


「恐らく敵偵察ドローンを活用した迎撃と思われます。敵からの捕捉率と命中精度が尋常ではありません!」


「護衛の部隊はどうした!?」


「それが、護衛が手薄な部隊から攻撃されているようで……」


 芳しくない報告のオンパレードに、USSA長官アーサー・フォレスターは手を叩いた。


 オペレーターたちがこれ幸いとばかりに振り返り、縋る眼差しを向けてくる。


「長官、敵防空システムの破壊が難航しています。このままでは――」


「続行だ」


「……え」


 唖然とするオペレーターたちを前に、フォレスターは強硬姿勢を崩さない。


「続行だといっている。現行の敵防空システム攻撃部隊がやられたのであれば、急行させた護衛部隊から補填せよ。自爆ドローンも同様だ。攻撃の手を緩めるな」


「し、しかし、すでに前線部隊の三割が戦闘継続困難と……」


 反論したオペレーターの声がみるみる萎縮していく。フォレスターは冷ややかに目を細めた。


「だから撤退しろとでも? それを決めるのは君ではない。立場を弁えなさい。

 それに、勝算もなく攻撃を続行しろと言っているのではない。敵は五大から多少の武器供与を受けていたようだが、所詮それは一時的なものだ。現地にいる陸軍とは比べるべくもない。

 ゆえにこのまま物量ですり潰す。攻撃を続けろ」


「は、はい」


 ようやく業務に戻ったオペレーターたちに嘆息し、次いでフォレスターは背後に控える右腕を振り返った。


「オヴェド、今すぐモリガンを呼び出してくれ」


「お呼びですか、長官」


 オヴェドが答えるより早く、妖艶な声が背を撫でた。

 振り返ると、黒の戦闘服に身を包んだモリガンが、さながらランウェイを歩くトップモデルのような足取りでやってくる。


「出撃の準備なら整っております。ご命令とあらば、いつでも」


「ありがとう。だが申し訳ないが、君にはもう一度着替えてもらわねばならないな。今すぐ首都(DC)に向かってくれ」


「ワシントンに、ですか」


 驚きを隠せない様子でモリガンが目を見開く。


「ああ。敵、27番地民兵はもはや民兵ではない。れっきとした軍事組織だ。これほどの戦術を駆使する相手が、後先考えずに闇雲に暴れまわっているとは考えにくい。

 恐らく彼らには、この戦争のゴールが見えている。戦略的目標とでも言おうか」


 フォレスターがそこまで言うと、モリガンはハッとした様子で眉根を寄せた。その察しの良さに、フォレスターは満足げに頷いた。


「気づいたようだな。ではモリガン、君に命ずる。今すぐワシントンD.C.へ急行し、敵交渉チームと大統領の接触を阻止せよ。敵に講和条約を結ばせてはならない。それと、オペレーター各位、ただちに陸軍と連絡を取れ。追撃が来るぞ」


「追撃ですか? ですが、27番地にそんな余力は――」


「27番地ではない。別の勢力だ。民兵ごときがこれほどの戦略眼をもっているものか。確実に入れ知恵をした者がいる。そいつが私の想像通りの人物なら、次に打つ手は――」


 フォレスターの発言は、甲高い警報に遮られた。陸軍からの緊急連絡である。


 オペレーターが蒼褪めた顔で振り返った。


「後退する陸軍部隊に、新手の敵が攻撃を仕掛けています。数……数え切れません!」


「敵勢力が判明しました。ギャングです! それと特区企業子飼いの私兵集団、ものすごい数です! 全方面の前線部隊に一斉攻撃を仕掛けています!」


 フォレスターは舌打ちをした。あのCIAのモグラめ。




 ***




 同時刻。アメリカ合衆国首都ワシントンD.C.某所にて。


 元CIA局員にして、元USSA局員のクルテクは、ビルの大型ディスプレイの中継映像を見上げながら、満足げに顎を撫でた。


「さてさて。そろそろ檄文が効果を発揮する頃かな? 特区内に潜むギャングと特区企業の私兵合わせて総勢二万。僕からのサプライズプレゼントだ、アーサー・フォレスター」

次の投稿日は3月14日(金)です。




 風邪のせいで色々と予定が狂いましたが、無事、BookBase賞への提出も終わりました。

 当初は自分が満足できる作品が書ければいいやと思っていましたが、皆様の沢山の応援もあって、もっと世に広めたいという欲が出てきました。

 臆病者の作者の背を押してくださった皆様に、心から感謝いたします。


 どんな結果になろうとも構わないと思えるような、満足のいくものを提出することができました。

 いずれにせよ、この作品が未完のまま終わることはございませんので、どうか変わらず応援いただければ幸いです。


 それではまた。皆様も流行り病にはお気を付けください……。

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