10-9 学年対抗戦
「お帰りなさいませ、ご主人様」
今、私はメイド服を着て給仕をしている。
今朝クラスに顔を出した瞬間、衣装を押し付けられてしまったのだ。
なぜ、私のクラスは喫茶店の中でもメイド喫茶を選んでいたんだ……?
そして、私の目の前にはお姉さまとレイ、そしてリーンがいた。
「うふふふ! 流石だわ! このメイド喫茶の伝統を作り出したのはこの私なのよ? こんな日が来る事を信じてね!」
お姉さまが高笑いしているそばで、レイが録画水晶を構えている。
保護者か?
授業参観に来た保護者なのか?
「アリア様お似合いです! と言うかここ、なんか見た事あるような気がするんですよね……」
「ここもゲームの舞台とか言わないでよね?」
もう勘弁してほしい。
学園ファンタジー物の乙女ゲームですとか言われたら、私は退学する。
「私も前の記憶は大分忘れちゃってるので……」
「それで? ご主人様方。ご注文をお願いします」
塩対応で接客する。
昼からは競技だから、それまでの辛抱だね。
注文されたものをメモ用紙に書いて、用紙を裏の厨房へと魔法で飛ばした。
チリンチリン。
新たにお客様がやってきた。
「あ、アリアーデさん。お疲れ様です」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ラファと、ラファのチャラそうな友達だ。
レミリア並みの低いテンションで返すと、ラファはふふっと笑った。
「可愛いですね」
「お世辞はやめてください」
宣伝のために、この格好で競技も出ることになっているんだけど、恥ずかしくなってきた。
「ラファはこう見えて、あんまり人の容姿は褒めないんだぜ?」
「やめてください、バーニィ。僕は思ったことを言ったまでです」
後ろでお姉さま達がコソコソと私たちの事を言っているのが聞こえてきた。
「あの子誰かしら? なんだか波動を感じるわ……ラブよ」
「魔眼ですね……もしかして、亡命されたハンス様のご親戚の方ですか?」
「うーん、思い出せない……」
すごくやり辛い。
よそで話してほしい。
「お席はあちらです。……うるさくてごめんなさい」
「いえ、また今度紹介してくださいね」
今は仕事中だから仕方ない。
と言うかお姉さま、ラファがユーリスの王太子だって知ったらひっくり返りそうだな。
チリンチリンと再び鈴が鳴ると、今度はドミニクとルヴィアだった。
知り合いラッシュだ。
本当に帰りたい。
「お……帰りなさいませ、ご主人様」
「ぶっははは!! 聞いた? お帰りなさいって、ドミニク、アリアがメイドしてる!!」
「ルヴィ。あんまり笑うと可哀想でしょ? アリアだって我慢してるんだよ」
そう言いつつドミニクも口元に手を当てて笑いを堪えている。
今ハンカチがあったら食いちぎるくらい引っ張る自信がある。
「冷やかすだけならお帰りください」
「ごめんごめん、断ったら良かったのにさ、真面目にやってるからつい……」
ちょっと後でレイに髪の毛をアップにしてもらおう。
ハーフアップだから、みんなからメイドっぽく見られていない可能性もある……。
そうだ。きちんと見た目から本格的なメイドになったら、もう侮られないのでは?
「ルヴィア様。美味しい薬草が手に入ったので、ぜひご賞味ください」
ハンスの激苦薬草をこそっと混入させて仕返しにしよう。うん。
そんなこんなで、半日が終了した。
ハンスは姿を見せなかったので、私はレイに髪を仕上げてもらった後、お昼休憩の間にこそっと占いの館を覗きに行った。
……大行列だった。
特に女子の数がすごい。
中庭の目立たない一角で怪しげな雰囲気をだしているはずなのに、これじゃあ大人気のラーメン店と変わらない。
可哀想に……。
多分ハンスはひっそりとやりたかっただろうに。
自身の人気を甘く見過ぎなんだよ。
ふと、ハンスの目線がこちらを向いた気がした。
少しドキッとして、私は木の後ろに隠れた。
なんで私がこんな……。
木の裏からもう一度顔を出すと、こちらを見てニコニコしているハンスがいた。
「む、バレた」
「どうして隠れているのですか?」
私の後ろからハンスの声が聞こえた。
「ぎゃ!?」
振り向くと、変装したハンスの分身がいた。
と言うか……。
「なんで執事の変装なの……?」
「リアがその格好ですので、合わせてみました」
まぁ……オールバックで似合ってるけどさ。
「逆に目立つと思うんだけど……」
こんな美麗な執事はいない。
「お手をどうぞ、お嬢様」
ハンスが右手を差し出してきた。
ああ、もう。仕方ないな。
ちょこんと、ハンスの右手に私の左手を乗せる。
すると、ハンスは私の手を引いて転移した。
♢
到着したのはまさかの占いの館の裏だった。
「お嬢様、お仕事ですよ」
目の前に広がるのは紫陽花の山。
たしかに、これだけの量を管理するのは大変だね。
そうだね。手伝ってほしいよね。
なんだろう? 泣きそう。
「はい、ご主人様……」
せっせと紫陽花を植え替えて、魔力を抜く作業を繰り返す。
メイドの正しい姿がそこにはあった。
私は今日、一番メイドしている。
ドキドキを返してくれ……。
残っていたものは全部終わった。
ああ……休憩時間が……。
「お嬢様、お疲れ様でした。こちらをどうぞ」
渡されたのは、サンドイッチといちごミルク。
これが労働の報酬か……。
「ご主人様、もう少し色をつけてもいいのでは?」
「お嬢様、何が欲しいのか仰ってみてはいかがですか?」
あんたとの時間だよ!
なんてことは口が裂けても言えない。
「ご主人様、ちゃんと次の競技見ててくださいね」
「ええ、もちろんですよ。お嬢様」
少し元気が出てきた。
なんだかんだ言って、こんな時間もいいなと思ってしまったのは、文化祭マジック……いや、ここでは学年対抗戦マジックと言うべきかな。
ハンスはいつもより、少しだけ柔らかく微笑んでいた気がした。




