10-8 指輪
ドミニクは、アリアーデが課題で作る魔具が決まったと聞いて、ほくそ笑んだ。
レイは確信していたのだろう。生徒に課す課題に悩んでいた僕にこう言ったくらいなのだから。
『幸せになる魔具を課題にすれば、きっと姫様はあれを作ることになるかと思います。そしてそれが最も姫様らしく、お二人のためになる物になります』
この前の講義で見たアリアーデの表情と、そして今回計画書を持って来たアリアーデの変化を見ると、本当にいつも全力なのだなと感心してしまう。
馬鹿馬鹿しいぐらいに、悩んで、迷って、そして答えを出してくる。
だからこそ、みんなアリアーデについて行くんだ。
♢♢♢
悩みの種が少しずつ減っているような気がする。
ドミニクの課題も決めてきたし、あとは学年対抗戦に集中しないと。
学院を歩いているとあちらこちらで大きな声と笑い声が聞こえてくる。
1年に1回開催される学年対抗戦は、文化祭のような盛り上がりを見せるようで、クラスで催し物も開催される。
うちのクラスはもう喫茶店に決まっていたらしく、みんな準備に追われている。
私は競技への出場が決まっているので、あまりお手伝いに借り出されることはないのだけど……。
「絶対競技よりこっちの方が楽しいでしょ……」
昔の私ならきっと、勝つためにずっと訓練していただろう時間。
今はみんなで仲良く準備した方が楽しそう。
クラスでの催し物の評価と競技の結果が、学年対抗戦の行方を左右する。
だから、私は競技に集中すべきなんだろうけどね。
とは言ってもなぁ……。
私の競技の内容は、あの試練の塔でのダンジョン攻略なのだ。
中にいる魔物を倒しながら、最上階まで駆け抜けるスピード勝負。
負けるつもりはないけれど、運も絡んでいるらしいので、詳細は中に入ってからしかわからない。
「アリアーデ様、少しよろしいですか?」
レミリアが私の服の裾をちょんと摘んだ。
「どうしたの?」
レミリアに連れて行かれるがまま、食堂へと辿り着いた。
「これを食べてください」
レミリアはパフェを買って持ってきた。
じーっと私が食べるのを待っているので、一口食べてみた。
「おいしいよ?」
「アリアーデ様。今回の競技、不参加にできませんか?」
真剣に何を言うかと思えば……。
パフェは賄賂ってこと?
「理由を聞いてもいい?」
「あの……アリアーデ様が力を出せば、あのお方がレガリウスを取り戻すのに支障が出てしまいます」
もしかして、レミリアはレガリウスの復興を望んでいる……?
「ノアール先生に聞いたの?」
「いえ。でも、レガリウスの独立は私たちレガリウスの悲願です。あのお方もそう望んでいるはずです」
私は……もしそうなら、ハンスの邪魔をしたくない。
でも、クランツェフトはどうなるの……?
「それに、アリアーデ様は表舞台に出ない方がいいと思います。――ユーリスはあなたを欲していますから」
え?
「それって……?」
「まだ私もラファニエル様も、本国にはアリアーデ様のことを報告していません。――白い魂の姫君。ユーリスの求める花嫁」
ま、まさか……。
ユーリスがレガリウスの魔眼を狙ったのは、白い魂の持ち主を探すため……?
「ちょ、ちょっと待って。少し……考えさせて」
「はい。良いお返事を期待しています」
レミリアはそう言って、私の前から離れていった。
私の魂って何なんだ……。
そもそもハンスもハンスで何考えてるかわかんないし!
居ても立っても居られなくなったので、ハンスを探すことにした。
準備室、いない。
研究室、いない。
講義室、いない。
「どこだ!!」
中庭をうろうろしていると、怪しげなものを発見した。
「……仮装ですか?」
「もうすぐ学年対抗戦ですからねぇ。私も出店をするんですよ」
ハンスは占い師のような格好をして、紫陽花をかかえていた。
「……繁盛しそうですね」
「それで、何かご用ですか?」
私の雰囲気を察してか、パチンと指を鳴らして仮装を解いてくれた。
「ユーリスの狙いは私の魂みたいだよ。……競技は出ない方がいいって」
「やはりそうでしたか。レミリアですね? 亡命組の中でもレガリウスへの忠誠心が高いですから」
やっぱり、知ってた。
「出場しない方がいいのかな……」
「あなたはどうしたいのですか?」
私?
私が決めていい話なのかな?
「私は出たいけど、それでレガリウスの立場が悪くなるならやめる……」
「では、出たらいいじゃないですか」
そんな簡単に言って……。
ここはもうちょっと引き留めるとか、対策練るとかさぁ。
「もうちょっと真剣に悩んだらどうなの!?」
「アリアーデ君。少し勘違いをしているようですが、これはクランツェフトであるあなたが決める事ですよ」
なぜか、ずきんと胸が痛んだ。
たしかに、私の問題だ。
この指輪をしているから、レガリウスの問題も私のことのように感じているけど、私はまだクランツェフトのアリアーデだ。
「……わかった」
あとは、ラファにも話を聞きたい。
私は3年のクラス棟へと向かった。
やはりここも学年対抗戦の準備で騒がしい。
うろうろしていると、男子生徒から話しかけられた。
「誰か探してるの?」
「えっと、ラファニエル先輩を探しています」
私がラファの名前を出すと、その人はニヤリと笑って手招きした。
「君がアリアーデちゃんだね。よくラファから話は聞いてるよ。着いてきて」
ラファの友達のようだった。
ついていくと、クラスの中心にラファはいた。
「おーい、ラファにお届け物〜」
私を見つけたラファは、花が咲いたみたいに笑顔になった。
「アリアーデさん! ちょっと失礼するね」
ラファは、私の元へと歩いてきた。
「どうしたんですか?」
「あの、少しお話があるのですが、今大丈夫ですか?」
私がそう言うと、ラファは私の手に触れて転移した。
いつぞやのテラス席だった。
「ここなら人も来ないですからね」
「ありがとうございます。その……私の魂についてなんですが……」
何から聞けばいいんだろう。
ユーリスは私をどうしたいのか、なぜ私の魂がいるのか。ラファはなんで国に報告しないのか。
「レミリアに聞いたのですね。申し訳ありません、隠していたつもりはなかったのですが……」
「私の魂はなぜユーリスで必要なんですか?」
ラファは私を安心させるように、ゆっくりと語った。
「ユーリスの古い歴史の中に、白い魂の人物を王妃に迎えた事があったみたいです。その時の王が、ユーリス初代国王であり、大陸で最強の力を手に入れたと言われています」
ああ、そうか。レガリウスが最強という歴史があるのは、白い魂を見つけるのに魔眼が有効だからなんだ。
……そしてクランツェフトとの戦争でその伝承も途絶えた。
「ラファはなぜ国に報告しないのですか?」
「僕は……アリアーデさんを政治の道具にしたくはありません」
「私が競技に出たら、バレるのに?」
学年対抗戦には外部の人も来る。バレるのは時間の問題だった。
少し自虐気味にラファは笑った。
「僕が怒られるくらいで済むならそれで良かったんですが……でも、なんとか父を説得してみます」
なんでそんなに……。
ラファはお人好しすぎる。
「ありがとうございます。……私は競技に出ます。それで一番になって目立ちますから、いっぱい怒られるかもしれませんね」
私がそう言うと、ラファは頭を掻いた。
「あはは、僕も出ますからね? お手合わせよろしくお願いします」
私たちは握手して、優しく笑い合った。




