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10-7 距離と温度

 結局、打ち上げにもデートにも誘えなかったな……。

 

 1人ベッドに潜って、指輪を触る。

 もっと、積極的に……?

 前まではもっと素直に言葉に出来てたのに。


 頭の中でずっと考えてしまう。

 あの大きくて繊細な手。

 優しい声。

 たまに掛ける眼鏡。

 薄く漂うミモザの香り。

 寄り添うと、ちょうど胸の辺りに耳が来て、心臓の音が聞こえる。


 片思いじゃないはずなのに、いまいち距離が測れない。

 あんなに傷ついて、傷つけて、心に触れたはずなのに。

 どうして……?


 布団の中で脚を抱えて丸くなる。

 指輪……。

 この指輪が呪いじゃなきゃ、同じ温度でいられるのかな?


 ♢♢♢


 ハンスは、アリアーデが帰った後の研究室で考察結果をまとめていた。

 

 アリアーデの魂の増幅率は本体の魔力の何%程度か。

 私はいつから増幅されていたのか。

 そして――感情は増幅されるのか。


「おや、ラファニエル君。こんな時間にどうしましたか?」


「いえ、アリアーデさんがまだ居残りをしているのかと思って……。先生は、アリアーデさんの事をどう思っていらっしゃるのですか?」


 ずいぶん、素直に聞くものだと思った。

 アリアーデが胸襟を開くほどの、天性の人たらし。

 ラファニエル・ユーリス。


「私達の関係を、私から君に伝えるつもりはありません」


「先生ほどの人が……どうして逃げているのですか?」


 ペンが止まる。

 ラファニエルに、他意はない。


「教師として、適切な距離を保っているだけですよ」


 距離。

 ここ最近で最も気を遣っている事項であり、同じことの繰り返しにならないように自身を削っていると言うのに。


「アリアーデさんは、とても悩んでいらっしゃいました。踏み込みすぎたと」


「そうでしょうね。弁えるべきだと思いますが」


 ラファニエルは、まっすぐにこちらを見ている。


「それは……アリアーデさんのためですか? それとも――先生のために?」


 ペンが折れる音がした。


「……君は随分と彼女に肩入れしているようですね」

 

「大切な友人ですから」


 この笑顔はどこかで見たことがある。

 アリアーデを想う人間は皆この顔をする。


「……今日はもう遅いですから、早く帰りなさい」


「はい、先生。お先に失礼します」


 ラファニエルがいなくなった研究室は静寂を取り戻した。


 ……距離を保っているのは彼女のためだ。

 そうでなければ、どこまでも――


 そう、どこまでも……。


「はぁ……」


 パチン。と指を鳴らして葉巻を取り出す。


 行動の正当性は無いに等しい。

 壊す方が――どれだけ楽だったか。

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