10-4 虚無
私が望んでた世界が今ここにある。
そう、俺つえー! だ。
無双している。
私の敵になる生徒はこの学院にはいない。
そう、いないのだ……。
「退屈だ……」
選抜の内容は、クラス内での1対1での総当たり試合だった。
グランとタイニーは、そこそこ戦えたけど、結局そこそこなのだ。
特に何の苦労もなく私は1番で勝ち上がった。
「あの時の戦いみたいなのが欲しい……」
「アリアーデ様はノアール先生のようにお強いのですね」
レミリアは、優等生みたいな戦い方をしていた。
基本に忠実で、お上品なのだ。
「ノアール先生の気持ちがわかった気がする……」
こんなに気落ちするとは思ってなかった。
もっと戦いが楽しくて、ワクワクすると思ってた。
勝っても楽しくない。
あの時みたいな熱くて、命を削るような戦いが欲しい。
でも……。
今はもうあの時みたいに戦える気がしない。
「アリアーデ! ほらよ!」
グランが水筒を投げてくれた。
「ありがと」
「なんで勝ったのに浮かない顔してんだよ」
タイニーが私の隣に座って話しかけてきた。
なんでだろうなぁ。
「強い刺激を与えられ続けると人は麻痺する……?」
やばい、これじゃあ中毒患者だ!
「何言ってんだよ……」
「私に必要なのは、のんびり暮らしなのでは……」
普通の人間に戻らないと。
血に飢えた狼じゃ、生きていけないよ。
「俺の故郷は海しかなくてよ。船の上でぼーっと雲が流れるのを見たり、釣りしたり、自由だぜ?」
いい。それいいね。
今の私に必要なものかもしれない。
「休みの日にピクニックに行こうかな」
リーンが行きたいって昔言ってた気がする。
「私もご一緒していいですか?」
「おっ! いいね! 俺も行くぜ!!」
「タイニーお前……俺も行くに決まってるだろ!」
みんなついてきそうだな……。
「それじゃあ、学年対抗戦が終わったらみんなで打ち上げしよっか!」
場所はどこにしよう?
楽しみになってきた。
♢
私は宿舎に帰って、ベッドサイドに座りながら、リーンにピクニックの相談をした。
「おすすめの場所ある? あ、料理もいるよね?」
「アリア様が、やっとデートに!? 私が用意しますよ!」
いや、デートじゃないんだけど……。
「ハンスも誘った方がいいのかな? ……でもなぁ」
あんな事があった後に誘えるわけがない。
と言うか課題どうしよう。
「何かあったんですね?」
リーンは私の隣に座ると、よしよししてくれた。
「リーン、聞いてよ! ハンスってば絶対私をからかって遊んでる!!」
抱きついて頭をぐりぐり押し付ける。
「うーん、アリア様がいけないのでは……?」
「なんでリーンまでハンスの味方なの!?」
おかしいよ!
ずっとハンスのこと嫌いだったくせに!
「いえ、今のハンス様は……ただのヤンデレだと思います……ゲームの時より健全です」
「けん……ぜん……??」
リーンの膝に頭を乗せて虚空を見た。
私にとっては昔の方がよほど良かった。
戦っていれば、それで考えなくても良かった。
今は……考えることがたくさんあって……。
ハンスは私をどうしたいんだろ、とか。私はハンスをどうしたいんだろ、とか。
私たちは将来どうなるんだろう、とか。
「不安だよ……」
わからないことが多すぎて。
「アリア様、急がないで下さい。恋愛は少しずつ覚えていくものだと思います」
レイにも同じようなこと言われた事があったな……。
あの時は、私が強くなりたいって焦ってた。
今度は……恋愛って何なんだ?
「もっとわかりやすい方がいいのに」
「ふふっ、ハンス様は多分1番わかりにくいと思いますよ。最難関です」
余裕そうにリーンは答えた。
乙女ゲーム上級者からのアドバイスなのだから、きっとそうなのだろう。
私よりよっぽど向いてる。
「攻略本売ってないかな……」
「アリア様らしくないですよ。こんなの、簡単にクリアするのがアリア様です」
そんなの、わかってるよ。
私が私らしくないことぐらい。
でも、本当にこわいんだよ。
死ぬよりも、傷つく事よりも、彼に愛想を尽かされる方がよっぽど。
♢
次の日、私はドミニクの講義を受けに来ていた。
ほとんどが魔具クラスの生徒で、そして1人だけ知っている人がいた。
「やっほールヴィア。久しぶり」
「久しぶり。アリア、制服似合ってるね」
私はルヴィアの隣に座る。
「ありがと。不思議だよね。ドミニクが講師なんて」
今まではみんなでチームでやってきた感じだったのに、外に出てみれば講師と生徒。
しかも、満席の超人気講師なのだから。
「ドミニクの凄さを知らないでいたアリアにびっくりだよ」
「私はルヴィアが魔具クラスに行ったのが驚きだけどね」
魔術クラスにも入れたのに、魔具クラスに入ったのはドミニクのせいだろうなとは思っている。
「前々から魔具作りを手伝ってたから、興味はあったんだよね。俺の魔法珠とも相性良いし」
「あ、ドミニクだ」
色々とペグロックに荷物を持たせて、講義室に入ってきたドミニクは、こっちを見て手を振った。
女生徒から黄色い声が上がっている。
ドミニクは壇上に立つと、自己紹介を始めた。
「僕はアークリガリットのドミニクだよ。クランツェフトにいるから、覚えておいてね」
飛んでいるペグロックに座って、黒板の上から左詰めで名前を書いている。
性格出るなぁ……。
「今日は宣伝と、今後の課題について説明するからそんなに畏まらないで」
出てきたのは、まさかのアリアキューブ。
まさか宣伝ってゲームの!?
「ぐっ……恥ずかしい……」
今や私の黒歴史と化したゲームだ。
今思えば、なんで私はこの世界でゲームを作ってたのか、本当に恥ずかしい。
私はもうゲーム無しでも全然大丈夫なのに。
「それで、こうすると動くんだよ。面白いでしょ? クランツェフトは最新技術が日々開発されてる。だから、もし興味があるなら、ぜひ一緒に制作しよう」
ああ、ドミニクはクランツェフトが強国であることをアピールしにきている。
それなのに私ときたら……。
ドミニクは宣伝を終えると、課題の話に移った。
「僕はこの1年で、君たちに魔具を一つ作ってもらおうと思ってる。どんな魔具でもいいけど、条件は一つだけ。人を幸せにする魔具を作る事。いいね?」
人を幸せにする魔具か……。
幸せってなんだろう。
私の幸せは、どこにあるんだろう?
今の私にはちょっと難しい。
今日は書類が配られて講義が終わった。
「ドミニク、張り切ってたねー」
ルヴィアはニヤニヤしながら話を聞いていたようだ。
「うん、すごかったね」
私ももっと頑張らないと。
みんなに置いて行かれてしまう。
「アリア。アリアは俺たちよりもずっと頑張ってるよ。だからさ、もう少し気楽にやりなよ」
ルヴィアが苦笑いしている。
私、そんなにわかりやすく落ち込んでた?
「ごめん、ちょっと最近不調だね。私らしくない」
「そんなんじゃ、俺にやられるよ? アリアが弱くなったら、それはそれで……いや、俺が支配してメイドにでもなってもらおうかな?」
ぷっ、下手な発破のかけ方だなぁ……。
「あははっ! ありがと、ルヴィア。少し元気出た」
よし、全力で駆け抜けますか!
走ってれば、余計なこと考えずに済むよね。
週間ランキングに入っていてびっくりしました!
評価、ブックマークありがとうございます。
完結まで精一杯頑張ります!




