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9-7 温室のハイドランジア

 目が覚めると、私は丸い卵のような椅子に寝かせられていた。

 みんなが……ドミニクやルヴィア、レイにリーン、そしてラビットが、庭園で和やかに立食パーティーを楽しんでいた。


「おはようございます」


 ハンスは私の近くに立っていて、目覚めの一杯を渡してくれた。

 レモネードだ。

 口の中がさっぱりして、そして、私は負けたことを飲み込んだ。


「ありがと。……婚約はいつするの?」


「おや、私は権利をいただいただけですよ? どうしてもとおっしゃるなら、考えますが……」


 思わずジト目になる。

 ここまで来てそれを言うか。

 あんな……恥ずかしいセリフ言っておいて……。

 はぁ。負けだよ、負け。

 グラスを脇のテーブルに置いて立ち上がる。

 パチンと指を鳴らして、服をドレスに変えた。

 ハンスの前に跪いて、右の手を差し出す。


「ハンス様、この身は一生あなたのものです。どうか、わたくしと結婚していただけますか?」


 ハンスを見上げてそう言うと……。

 なんという間抜け面だろう。

 衝撃で固まっている。


 だ、ダメだ、まだ笑うんじゃない私!

 こらえるんだ……!

 やつに一泡吹かせてやったぞ!


「神よ! いけません! そのような不敬虔者に膝をつかれては!」


 ラビットが、いや、その場にいる全員が私たちを見ていた。


「ククク……アハハハ!」


 目元を片手で覆って大笑いするハンスは、笑い終えると私の手を取って立たせた。


「失礼。リア、こういうことは人がいない時にするものですよ?」


 お、おま……!

 いつもならそんなこと言わないくせに!

 煽るから……こっちは仕方なく!!


「……し、証人がいてくれた方がいいかと思いまして」


「でしたら、この方が良いのでは?」


 ハンスは私の手を引いて抱き寄せた。


「?」


 ハンスが私に口付けした。


 ちょっ、ちょっと待って!!

 違う! 違うから!!


「んー!!」


 ジタバタしても全く離してくれない。

 左手でハンスの胸を叩く。


 長い!!

 いつもより長いッ!

 舌が入って……!?

 空気が、足りないッ。ちょっとまっ……。


「はぁ、はぁ……み、ないでッ」


 みんな見ないで!!

 だめです! 不健全空間です!!

 リーンに至っては両手で顔を覆って指の間からこっちを見ている始末!!

 レイは微笑んでるし、ラビットは膝をついて絶望している。


「俺たち、何見せられてるの? 普通にアリアにお疲れ様って言うために待ってたのに」

「ルヴィア、こういう時はおめでとうって言えばいいんだよ」


 違うよ!?

 助けて!?

 

 脱力した私を見て満足したのか、ハンスは私の右手の薬指から指輪を外して左手の薬指へとつけ替えた。


「リア、あとでお話があります」

 

 私の羞恥心を返せ……!

 息を整えるのに精一杯で返事すらできない。


「この程度でこれでは、後が思いやられますね」


 やれやれと言いたげな様子だが、誰のせいだと思ってるんだ!!


「するなら、するって言ってよ!」


「キスしていいですか?」


「遅い! え、今からの話!?」


 私は急いでハンスの口元を両手で押さえた。


 ぺろっと手のひらを舐められた。


「ひぇ」


 私は転移で物理的な距離を取った。

 具体的にはリーンの後ろ。


「なんで私の所に来るんですかぁ!」


「ごめん……この後の展開ってわかる?」


 もはやこれは乙女ゲームだ。

 攻略情報を集めないと。ネタバレ上等だ。


「……もう! 早く初夜を済ませて大人になってください!」


 リーンが私の後ろに回って、ハンスの方へと押し返して来た。

 

「ぐわ!」


 私の味方がいない!?

 

 押されてハンスの前で座り込む。

 見上げると、困った顔のハンスがいた。


「はぁ、また染め直さないといけないとは……」


 何の話……?

 ハンスは私の魂を見ている。

 私も下を向いて胸の辺りを見る。


「元に戻ってる!」


「気付いていなかったのですか? リアがこの塔に挑む前には戻っていましたよ」


 全然気付かなかった。

 ああ、そっか!

 私がハンスと別れるつもりでいたからか!


「やったぁ!」


 私は自分をぎゅっと両腕で包む。

 おかえり! 私の魂の色!


「もう帰っていい? アリアが元気なのはわかったから」

「お疲れアリアー! また戦うなら俺も行くからね」


 ドミニクとルヴィアがもう帰ってしまう……。

 レイは……。


「姫様、皇城でお待ちしております」


 え、私1人居残り!?

 一緒に帰りたいんだけど!

 

「それでは、みなさんありがとうございました」


 パチン、とハンスは私以外みんな転移させてしまった。


「あ! まだ私お礼とか言ってないのに!」


「またいつでも会えますよ。それより……」


 ハンスは私に近づいてくる。

 腕を上げてガードしていたが、ただ立ち上がらせてくれただけだった。


「私が今、クランツェフトに宣戦布告していることをお忘れですか?」


 あ、そうだった。

 私、敵国の人に結婚してくれって言ってたの?

 馬鹿すぎる……。


「ごめん……これってクランツェフトの負けってことだよね」


 お父様ごめんなさい、1ヶ月で国を終わらせちゃったぁ……。


「いえ、私はこの戦いで行方不明ということでお願いします」


「え? 勝敗は? レガリウスの領地はどうするの?」


 行方不明で処理したら、表舞台にはもう立てない。

 と言うか、そのつもりならなんで私と婚約したんだ!

 ……待てよ、私を一生結婚させない気だな!?


「当分は、魔物を平原に転送しますよ。私はやることが出来ましたので」


「ま、まって! やることって?」


 ハンスがレガリウスを捨てるなんて考えられない。


「私が国家同士のバランスを崩してしまったので、少々厄介な事になりましてね」


 言われて気付く。

 クランツェフトが併合を急いだ理由。

 それは東大陸の安定と外敵への牽制だ。

 特にレガリウスは大陸最強と言われるだけあって、影響力が高い。

 だから、そんな人物がクランツェフトに反逆すれば……。


「本格的な戦争になる前になんとかするってことね」


「まぁ、概ねそのようなものです」


 ハンスはクスリと笑う。


「私が離れると寂しいですか?」


 は、はぁ!?

 それを言うなら、宣戦布告しなきゃ良かったのに!

 と言うか、間接的には私のせいじゃん……。


「私も行くから! ハンスがこの学院で働いてた理由って、つまり諜報でしょ?」


 グリダニアン学院はどこの国にも属さない中立都市。だから、各国の王侯貴族も集まる。

 保険って言われた時に気付けば良かった。


「リアが来ては……いえ、面白くなりそうですね」

 

 顎に手を当て、楽しそうに目を細めている。

 嫌な予感がする……。


「やっぱやめとこうかなぁ……」


ここまでお読みいただきありがとうございました!

ヤンデレとはなんだ?(概念)と思い悩みつつ、欲を言えばもっと病ませたかったのに、話がまとまらないので無理やり前に進む日々でした。


次回、間話を挟みつつ学院編スタートします。

多分更新スピード落ちますが、最低でも週1で更新したいと思っています。よろしくお願いします!


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