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9-6 痛くしてあげるから、忘れないでね

 ドキドキする。

 この胸の高鳴りは、戦闘前の高揚からなのか、それとも最愛の人に会えることへの喜びなのか。

 期待に満ちていた。

 たぶん、あなたも同じ気持ちなのだろう。


 扉を開けた。

 そこは、石畳の綺麗な庭園だった。

 白い紫陽花が咲いていて、バラの垣根があった。


 そして――庭の中央にハンスが立っていた。

 いつもの服と使っているステッキと共に、私を待っていた。

 ハンスまで一直線。何も障害物はない。


 いや、違う。

 私の魔眼には、魔法の痕跡がそこら中に映っている。

 魔法の情報を読み取るだけで、パンクしそうになるほど、罠しかなかった。

 私と同じ魔力量、同じ魔眼でこれだけの魔法を使ってしまえば、新しく魔法なんて使えないじゃないか。


 笑みが、止まらない。

 過呼吸になりそうなほど、私は興奮していた。

 詰将棋だ。

 私はハンスの元まで、この罠を掻い潜っていかないといけないんだ。


「早く来ないと、私から行きますよ」


 トン。とステッキを地面に突く音が聞こえた。


 私は走り出した。

 左右の花壇から蔦が伸びてくる。

 私は炎で焼き払う。

 ナイフを持って、大きく飛んだ。

 獣でいい。

 私はあなたを喰らう獣だ。


「ああ……その瞳……」


 ハンスがステッキを構えて優雅に飛んだ。

 ――私の方へ。


 その瞬間、罠が一斉に発動した。

 植物の蔓が、根っこが、花が、私達もろとも襲う。

 私は炎で周りを焼き尽くす。


 ハンスのステッキと私のナイフが交わった。

 叩き切るつもりだったが、ナイフがステッキに食い込んで離れない。

 腰から新しいナイフを取り出そうとして気付く。

 鎖だ。鉄の鎖が私の右手に巻き付いていた。


「私がリアを捕まえる、罠ですよ」


 ニヤリ、とハンスは笑う。

 燃やし尽くしたはずの植物と、同じ場所から鎖が伸びていた。


 左手でレイの銃を取り出し、鎖を撃とうとした瞬間、ハンスに思いきりステッキで頭を殴打された。

 花壇の方まで吹っ飛ばされ、手をついて起き上がる時には血が頭から滴っていた。


「おやおや、私の前で膝をつく時間があると思っているのですか?」


 私は銃で鎖を撃って、そのまま近づいてくるハンスの頭を狙って撃つ。

 ステッキで弾かれた。

 なんで身体強化魔法無しで銃弾を叩き落とせるんだよ……。


 頭を叩かれたおかげで冷静になれた。

 ああ、いいね。すごく良い。

 最後の魔力を自己治療に使う。


 もう一発鎖に撃って、私は鎖を武器にすることにした。

 罠は全て焼き尽くした。

 だから、ここからは――タイマンだ。


 ハンスがステッキに食い込んだナイフを取って後ろに捨てる。


 あのステッキ、木製かと思ったら中に鉄が入っている。

 でも仕込みはないはず。今まで一度もあのステッキの中に何かが仕込まれているところは見たことがない。


「ああ、これはただの杖ですよ。少し丈夫なだけです」

 

 コンコンと、ステッキで床を叩くと、ハンスは一気に距離を詰めてきた。


 私は鎖を振りかぶり、ステッキに巻きつけた。そのままステッキを引き寄せる。

 そしてハンスが引き寄せられて来たので、頭突きを顎に目掛けてお見舞いした。

 続けてハンスの股の間を蹴り上げた。

 最近頭突きにハマってるかもしれない。


「ハハハ! うぎっ」


 ハンスに頬を殴られた。

 が、私の方がステッキを離さなかったので、武器の奪取に成功した。


「はぁ。痛い……」


 ハンスが嘆いている。

 まるで虫歯ができたみたいな言い方だ。

 

「そもそも、ハンスって格闘技の経験あるの?」


 ぺっと折れた歯を吐き出す。


「いえ、ありませんよ?」


 な、な、な!?

 素人!?


「必要ありませんでしたから」


 絶句する私に、さらに続けた。


「私は今、リアのために戦っているということをお忘れですか?」


 忘れてないよ。

 慣れないことしてかっこつけやがって……。


「がっかり、させないでよね!!」


 私は鎖を捨ててハンスのステッキで殴りにかかった。

 振りかぶって頭を狙う。

 が、片手でステッキを握られた。


 両手で力を込めて引っ張っても、びくともしない。

 最終的に、ステッキを持った私の体が浮き上がっていく。


「ど、どんな馬鹿力してるのよ!!」


「……リアが一番知っているでしょう?」


 魔力だけじゃない。私が鍛えれば鍛えるほど、ハンスも強くなる。ただ、それだけの話だった。

 ……それだけの。


 私はステッキを諦めて、ハンスと距離をとる。

 仕切り直しだ。


 動きは素人だ。

 だけど、一撃喰らえば私の負けだ。


「ふぅ」


 集中しよう。

 最後のナイフを取り出して、構える。

 

「ああ……その瞳で睨まれると、興奮してしまいますねぇ」


 ……今のは精神攻撃に含まれるのだろうか。

 とても集中が乱れる。

 そもそもなんで私たちは戦ってるんだ。

 もう勝ちとか負けとか……今が楽しかったらそれで――。


「あーもう! ケジメでしょ!」


 もう一発殴られたら、またスイッチが入るだろうか?


「やめますか? ……痛いのは嫌でしょう」


「ふふ……ははは! 今からいっぱい痛くして、私を忘れられないようにしてあげる!」


 入った。

 走り出した私は、ナイフを口に咥えた。

 ハンスがステッキを振りかぶる。

 その柄を掴み、勢いのままくるりと半回転して、ハンスの首に足を引っ掛けて投げ飛ばした。

 ヘッドシザーズホイップ。

 何が起きたかわかっていないハンスの頭に蹴りを入れる。ステッキを持つ手を蹴り飛ばして、ハンスに跨る。

 そしてナイフをハンスの腕に突き立てた。


「右腕」


 右腕の腱を狙ってナイフを入れた。

 もう一本の腕も切ろうとしたら、ハンスの左手が私の首を掴んだ。


「欲張りすぎですよ」


「うぎッ……」


 立ち上がりながら、だんだん首を絞める力が強くなる。

 頭から血を流しているのに、ハンスは笑っている。

 今まで見た中で一番凶悪な笑みを。


 ナイフでハンスの腕を刺す。

 刺して、刺して……。あんな頭突きで痛いとか言ってたくせに……なんで。

 

「あぐ……」


「素敵です、リア。私の心を動かせるのはあなただけです。だから、私のものになって下さい」


 酸素が、力が、入らない。

 嫌だ。まだ、まだ、私はできる……。

 最後の力でハンスの手首に刃を突き刺す。


 いいところに入ったみたいで、ハンスは手を離した。


「はぁっ! ゴホッゴホッ!」


 私が息を整えている間にハンスは足で私を押し倒す。

 だめだ、上を取られたらもう押し返せない。


「お願いです、リア。諦めて下さい」


 ハンスは這いつくばって逃げる私の上に乗って、膝で私の腕を抑えた。

 両腕が全く動かない。


「嫌っ……! だって……」


 対等になりたいから。


「ハンスの隣に立ちたいよぉ……」


 涙が溢れてきた。


「好きだから、同じ景色を見たいからぁ……!」


 ハンスは困った顔をした。

 駄々をこねた、子供を見るように。

 

「もうリアは隣に立っているでしょう……?」


 ハンスは静かに言った。


「私はこのような無様な姿で……ただ、私があなたよりも体格と筋力に恵まれているだけで、中身はどうということはない、格闘術すら知らない男です」


 ハンスの大きくて、繊細な手が私の頬に触れる。

 殴り合いなんて、したことないような綺麗な手だ。


 右手の薬指に、私と同じ指輪がある。


 効果4、ハンスが勝った場合、ハンスの能力値は私と同等となる


「それとも……もっと男らしい人の方が良かったですか? 粗野で、粗暴な男性がお好みでしたか?」


 ん?


 効果5、両者が左手の薬指に指輪を嵌めたら、効果1と2は消える


 んん?


「もう一回戦ってくれるの……?」


「お望みでしたら対戦致しますよ?」


 んんん?


「ああ……本当に私に勝てると思い込んでいたのですね。だからあのような今生の別れのようなことを……」


「なっ!? 勝てないなんて決まってないよ! ほら、次もっ!?」


 右手の親指が口の中に入ってきた。


「どのような気持ちだったか、あなたにわかりますか? あなたからのキスが私をどれだけ傷付けたか」


 折れた歯の根を押さえられる。


「いっひゃい!」


 ぐりぐりと執拗に押してくる。

 収まっていた涙が再び出てくる。


「私を捨てるおつもりでしたか?」


「そ、そっちあ!」


 そっちが離れるつもり――。


『あなたに勝ってみせますよ』


 痛みで、言葉が蘇る。

 指輪を渡された時のことを。

 あれは、あの言葉は、プロポーズだったのでは……?


「あの……」


 一気に思考が定まらなくなる。

 それを見たハンスは、私の口から手を離した。

 

 勝ち誇った顔をしたハンスに、私は目を逸らす。


「で、でも、私、諦めてないから……」


「はぁ。懲りない方ですねぇ。私も暇ではないので、そう何度も付き合ってはいられませんよ」


 ああ、私のこれからの人生ずっと、ハンスの手のひらの上でコロコロされるんだ……!

 悔しい、好き、悔しい、なんで勝てないの!?

 勝ちたいのに、終わらせたくないなんて――ずるいのは私なのに。


「うっうっ」


 涙が止まらない。

 

「もう、すでに私に勝ったことはあるじゃないですか。あれを勝利としては?」


「あれは……本気出してなかったじゃん!」


「勝負としてみればいいのでは?」


「キィー! 勝者の余裕ッ! あんな恥ずかしい戦い方は末代までの恥!」


「うるさいですねぇ……ひとまず負けてください」


 私はハンスに頭突きを食らって意識を失った。


言い訳させてください!

ここで主人公勝たないと物語終わらないよ!って私も思いました。非常に困りましたが、新章に行く事に決まりました。(ストック0)

もうね、私たちは何を見せられてるんだ?

戦闘と言う名の求愛行動か?

作者だって、この話を書く前に最終話のセリフ書き出ししてたのに無駄になっちゃったぁ…!

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