9-3 挑戦
この塔の内部構造は、どうやら変化するらしい。
リーンが最初に来た時はホールだったのに、戦う意思を固めた途端、森林へ変化したそうだ。
おそらく、鍵の所有者が有利なフィールドに変更できるのだろう。
私は今二階への階段を上がっている。
次に待っているのが誰かはわからないけど、フィールドを見れば多分わかるだろう。
螺旋階段の突き当たり。
二階の扉の前についた。
ふぅ、と息を吐く。
両開きの扉を押すと、そこはいつぞやの魔王城内部だった。
「あははっ! レイ、ごめん、ちょっと待って」
笑いが止まらない。
有利な地形を選べるのに、私の知っている地形を選ぶなんて。
全アドバンテージを消してきたレイに笑いが込み上げる。
だめだ、気合い入れてたのに不意打ちすぎる……。
そもそもレイには参加する理由がない。
だから私は、参加しないだろうと思い込んでいた。
「あー、そっか。だからあの時ウィンクしたんだ」
多分レイなりのサインだったんだろう。
となると、レイが私に望んでいるのは……。
「いいよ。その挑戦、受けてあげる。全力でやろう。ただし、レイが私に勝てたら、私がメイドになってレイがご主人様だから、ね!」
リュックを置いて、全力で走る。
玉座の間までのルートは覚えているから、すぐに辿り着くことができた。
「ああ、そうだよね!」
レイなら、きっと待ってると思った。
玉座の間の真ん中で、レイは待ってくれていた。
私を視認したレイは静かにナイフを構える。
そこへ、私もナイフで真正面から切り込んだ。
カキン! と、ナイフとナイフが交わる音が響く。
「全部、レイが教えてくれた! ナイフの使い方ッ! 強化魔法の使い方ッ!」
刃と刃が重なって、また離れて。
レイの方が身長が高いから、少しだけ背伸びして。
「姫様」
短く囁いたレイは、ナイフを投げた。
私の首筋を狙ったナイフには糸が付いていた。
前回の意趣返しってことね。
ナイフを避けた私は糸を掴んで引っ張るも、その糸はすでに切られていた。
囮かっ!
全ては銃に持ち変えるためのブラフ!
この距離じゃ当たる!
私は手の中に砂を創ってレイに投げた。
「ッ!!」
レイは目を押さえながら後退し、私に向けて銃を連射した。
けれど、そんな弾が当たるわけがない。
レイに向かってスライディングで懐に滑り込む。
そのまま、私はレイの胸に手を当てて、破壊の魔法を叩き込む。
「バースト!」
手ごたえがない。
強化魔法で相殺された。
私を片腕で抱きしめたレイは銃を上に放り投げ、取り出したナイフを私の背中目掛けて突き刺そうとした。
「おりゃあ!」
私は思いっきり跳び上がって、レイの顎に頭をぶつけてやった。
「うッ」
さすがにそこは効いたみたいだ。
だけど、私の頭もすごく痛い。
体勢を崩したレイの片足を引いて、後ろに倒して馬乗りになる。
そして落ちてきた銃を私が拾ってレイの頭に突きつけた。
「私の負けです」
レイが降参した。
「この場合って、気絶させないとダメなのかな?」
「いえ、私に戦闘継続の意思はありません」
懐から鍵を出したレイは、私に渡してくれた。
「ふぅ……疲れた……」
私はレイの隣でごろんと横になった。
すごく楽しかったし、充実した一戦だった。
「また頭突きでやられてしまいました……」
「へへ……私も狙ってやったわけじゃないから許して」
目を閉じてリラックスする。
多分もう次からはゆっくりできないだろう。
だから、今はレイに甘えさせてもらう。
「姫様は、ハンス様のことを愛しておられるのですね」
「ぶっ! な、何言ってるの!?」
びっくりして飛び起きた。
全然ゆっくりできないんだが!?
「いえ、見ていればわかります。私はこれで良かったと思っていますよ?」
レイは優しく微笑んだ。
「そう……なのかな。二度と会えないとしても、この選択で間違ってないかな?」
「はい。それに……本当に二度と会えないのでしょうか?」
ハンスなら、徹底的に私から逃げるだろう。
私が……本気で追いかけたら、どうなるのだろう?
「うーん、逃げる人を追いかけるって楽しいよね」
「私もお手伝いします」
ふふ、と二人で笑い合う。
「まぁ、その前に倒さなきゃいけないからね」
「はい。ご武運を願っております」
レイはそう言って、私に銃をくれた。
「ドワーフ製の弾が入っております」
「ありがとう、レイ」
私はレイと別れた後、リュックを回収して扉の鍵を開けた。
次はドミニクだろうか。それともルヴィアだろうか。それとも……。
三階への階段を登りながら考える。
どのみち全員倒すのだから誰でもいいか。
「はぁ。がんばれ私」
三階の扉を押すと――そこは一面の砂漠だった。




