9-2 あの、棄権です
リーンは突然見ず知らずの場所に飛ばされていた。
そして、転移の瞬間に手を伸ばしてきたラビットも転移に巻き込まれていた。
「みなさん、ようこそお越し下さいました」
これはスチル、「招かれざる客」に出てくるハンスの正装だ。
なかなかお目にかかれないレアスチルだったことを思い出す。
ここはシャンデリアがある豪華なホールだった。
そして、リーンとラビットの他にはレイ、ドミニク、そして顔色の悪いルヴィアがいた。
「皆さんには今からくじ引きをしてもらいます」
パチン。とハンスが指を鳴らす。
机の上に出てきたのは、五個の宝石だった。
「この石には、この塔を上がるための鍵が封印されています。みなさん一つずつ取ってください。私は最後の物をいただきますので」
そう言われて真っ先に動いたのはドミニクだった。
続いてレイ、ルヴィアと宝石を取っていき……。
「ラビットさん?」
最近敬称がさんに格下げしてしまったラビットが、剣を抜いた。
「お覚悟を」
躊躇なくハンスに切り掛かった。
が、次の瞬間ラビットは倒れていた。
ハンスが何をしたか、リーンには全く分からなかった。
リーンは震える手で、残りの宝石を取る。
ハンスはパンパンと手を叩いて、何事もなかったように話出す。
「中の鍵には番号が書かれています。それがあなた方が殿下……おっと今は陛下でしたね。と戦う順番となります」
手元にある宝石が崩れだして、鍵が出てきた。
そこに書かれてあった番号は一番だった。
「ルールは単純です。陛下を先に気絶、または致命傷を負わせれば勝利です。魔力は皆平等ですので、いつもより力が増してしまう点にご注意下さい。陛下は連戦となりますが、勝敗がつくと全回復するようになっていますので、いつでも万全な陛下と戦えますよ」
リーンは恐ろしかった。
これが、アリアーデの望んだ未来なのだろうか。
ハンスとの間に何があったのかはわからないが、ただ……アリアーデが嬉しそうにする顔だけは、簡単に想像できた。
「あと、一番だった方は……陛下にご説明をお願いしますね。まぁ不意打ちも可能なので、襲った後に説明でも大丈夫ですよ」
まるで、不意打ちなどアリアーデには効かないとでも言いたげなセリフだった。
ゲームのハンスとはまるで違う。
リーンは少しだけ、アリアーデの事が羨ましかった。
ゲームのキャラクター達をこうも変えてしまえる影響力が。
♢♢♢
「それでラビットさんが倒れていたわけね……」
塔の中に入った時、私は魔力の減少を感じた。
始まったんだ、と思った。
それでリーンと出会ったわけだけど。
「こんなの巻き込まれにもほどがあります!」
「あーそうだよね。ごめんね……」
憤るリーンを宥めながら考える。
うわ、私の魔力量少なすぎ。
魔眼に食われる魔力が多すぎる。
最悪としか言いようがない。
「アリア様は本気でこの塔を攻略されるのですか?」
「まあね。割と本気……いや、死んでも攻略する」
リーンは開いた口が塞がっていない。
少し正気に戻さないとね。
「リーン、お願いがあるんだけどいい?」
「え、なんですか?」
これは一番大事だった。私の魔力量でみんなを相手にするのに必要なもの。
「服を作ってほしいんだけど……」
防刃防弾、そして何より隠し武器が入る服がほしい。
契約魔具からの出し入れの魔力消費すら今は惜しいから。
「!! 私の出番が来ましたね!!」
急に張り切り出したリーンは右手を掲げ、指輪の魔具から裁縫セットと大きなクローゼットを出した。
「おお、すごい! その指輪ってドミニクにもらったの?」
「はい。色々と協力してるうちに、報酬としていただきました」
ふふん、とリーンが嬉しそうに言った。
クローゼットには、私の衣装がたくさんあった。
「どれにしますか? 効果の付与は後からでもできますし、新しく作ってもいいですよ!」
と、言われても困るなぁ……。
こっちは忍者、こっちはドレス、こっちは……軍服かぁ。
「うーん、リーンのおすすめでいいよ」
言われて出てきたのは、丈の短いセーラー服だった。
ふむ。
まぁ今いるのは学院だしな。
「選定理由を一応聞いていい?」
「あ、それはですね、ドミニクさんの契約魔具がチラ見えした方がいいからですよ!」
うーん……そう来たかぁ……。
「えっそんな顔しないでください! 違うんです! 契約魔具が見えた方が、そこはドミニクさんの弱点になるんです!!」
リーンの力説に頷く。
たしかに、この魔具で攻撃を受けるように仕向けたら、きっとドミニクは嫌がるだろうなぁ。
「リーンありがとう。意外と盲点だったよ」
「良かったぁ……。武器ポーチも作りますね!」
「あ、リュックもお願い。ここで出来るだけ装備を作ってから次に行くからね」
リーンが一番で本当によかった。
これで、最善の状態で戦えそう。
「わかりました、待ってて下さいね」
「……ところでリーン。リーンは戦わないの?」
私がそう言うと、リーンの手が止まった。
「私が戦えると思いますか? もちろん棄権しますよ」
「ふーん? 鍵、くれないのに?」
リーンの手が震え出した。
「ごめんなさい……。その……ハンス様に油断した時に一撃入れろと言われまして……」
リーンは懐からナイフと鍵を取り出して、地面に置いた。
「ははっ! 面白いこと言われたんだね。大丈夫だよ、リーンじゃ私を殺せないよ」
「あ、あはは……こんなところ早く出たいですぅ……」
涙目になったリーンが素早く作業を始めた。
そして、ラビットさんの体がビクっと動いた。
「あ、ラビットさん」
ラビットが起き上がる前に、私は頭に一撃食らわせて再び気絶させた。
「こ、こわいですぅ……」
さて、次は誰だろうか。




