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8-7 恋の戦争前夜

 私はクランツェフトの自室に戻ってきた。

 少しクールダウンしたかったのもあったし、この指輪をどの指に嵌めるかを考えたかったのもある。

 薬指だけはないな……。


 そもそも、サイズが合っているかも怪しい。

 ひとまず親指から通してみる

 親指、通らない。

 人差し指、通らない。

 中指、通らない。

 小指、グラグラ。


 ッチ。

 ハンスめ、適当に作りやがって。

 ……試しに右手の薬指に嵌めてみた。

 はいはい、そうでしょうね。

 ピッタリですね。


「なっ! 抜けない!?」


 やばい。どれだけ引っ張っても抜けなくなってしまった。

 ぶんぶん右手を振ってどうにか抜けないか試すも、ドレッサーの角に右手をぶつけて悶絶した。


「いっっ!!」


 この恨み、晴らさでおくべきか!!


 私はすぐにクランツェフトの皇城に転移した。


「姫様、お待ちしておりました」


 出迎えてくれたのはレイだ。

 先ほどの恥ずかしい一人相撲を見ていたのだろう、私の右手を凝視している。


「クランツェフトの持てる全てを総動員してレガリウスを倒してやる。私の本気をその身を持って味わうといい!! フハハハハ!」


「……大丈夫ですか?」


 大丈夫じゃない!

 心が浮ついている。


「レイ、作戦を考えるから戦える人を集めておいて」


「かしこまりました」


 レイは微笑ましいものを見る目で見てくる。

 この指輪の効果を見てそう思ったのなら、勘違いも甚だしい。

 私の婚姻について勝手に決められて怒っているのだ。

 まぁ勝てばいいだけなんだけど。


 その前に、まずはこの国取り合戦を制しないといけない。

 どちらが上かわからせてやる。


 ♢


 奴の考えていることはだいたいわかる。

 まず魔境の魔物をクランツェフトにけしかけるだろう。

 討伐の手間が省けるぐらいの事を考えていてもおかしくない。


 多分クレバンス伯爵家の人たちはレガリウス皇城で強襲に備えているだろう。

 そして、肝心の本人は……絶対に前線に出てくる。


 さて、私はどうやって迎え撃つか。


 イレギュラーなのは、この指輪。

 ハンスはまだ嵌めていないから、いつ嵌めるかによって私の弱体化が決まる。

 でもこれはハンスの弱体化にも繋がるから、使用は慎重になるはず。

 それにしても、効果範囲の"みんな"とは誰の事を指すのだろう。


「今回の戦いの人選が終わりました」


 レイが紙の束を持って執務室に入ってきた。

 全て読み込んで、最適な配置を考える。


「開戦場所は、多分コンスピラ平原になると思うけどレイはどう思う?」


 レイは曖昧な表情をした。

 珍しい。レイが困っている。


「恐らく、魔物の襲撃にだけ警戒すれば良いだけかと思います」


 そ、そんな簡単なこと……。

 もっとえげつない事をするでしょ? ハンスなら。


「その心は?」


「……秘密です」


 ひ、秘密!?

 レイは指を口元に当て、困ったように微笑んだあとで小さくウィンクした。

 な、なんたる体たらく。

 こんなんじゃ、勝てるものも勝てないぞ!


「ど、どうしても?」

「秘密です……」


 今度は眉を下げて困った顔をしている。

 え?

 なんで?


「レイの考えがわからない……」


「私の口から言えることは、姫様は英気を養っていただくことが重要かと思います」


 まぁ、私は大将だし、ハンスと戦う事を考えるとそれは重要かもしれない。


「……お風呂入ってくる」


 湯に浸かればリラックスして良いアイデアが思い浮かぶかもしれない。


 脱衣所に転移して、服を脱いで大浴場へと足を踏み入れた。


 ここは皇城にある大浴場で、私の館にあるお風呂より広かった。


「貸切だ」


 まだ夕暮れ前の時間なので誰もいなかった。

 体を洗って湯船に浸かる。


「うーん、なんであんなにレイの様子が変なんだ……?」


 浴場の天井を見つめていると、声が聞こえてきた。


「もう! もう! ヤダ! アリア様のバカ!!」


 リーンだ。

 しかも激おこだ。


 気付かれないように湯船の端に移動して気配を消す。

 リーンに仕事を任せて放置してしまっていたのを思い出す。

 ごめん、リーン……。


「よりによって、なんで私に招待状を!? あの人……!!」


 うん?

 誰かからパーティに誘われたのだろうか。

 バシャーンと勢いよく掛け湯して、体を洗いもせず入ってくる。

 

「ぶくぶく……なんで、ここは乙女ゲームなのに! アリア様のレズエンドはないです!」


 レズ!?

 レズと言われてハンナちゃんを思い出す。

 可愛かったな……。

 いや、あれはハンスだ。可愛くない。


「やっぱりラビットさんに渡せば良かったかな……でも誰が勝つか直接見たかったし……」


 リーンは何やら悩んでいるようだ。

 相談に乗ってあげた方がいいかな?


「大丈夫?」

「ぶぇ!? あ、アリア様!?」


 驚きすぎて溺れかけている。


「ごめんね、リーン。色々任せちゃって……」

「い、今の話どこまで聞いていましたか!?」


 気にするところそこ?


「全部……?」

「ひぃ! 失礼します!!」


 リーンは湯船から脱兎のごとく走り去ってしまった。


「な、なんで……?」


 目を落とすと、指輪が見えた。

 勝ち……か。


「勝ちたいな……」


 負けたくない。

 ハンスは私のことをよくわかっている。

 私のことを、浮ついた気持ちで勝ち負けを決めるようなやつだって思っていない。

 私も、ハンスも、勝つつもりなのだ。

 そして負けたら……お互い自分の全てを奪われる。


 私だってわかってるよ。あなたのこと。

 私の矜持と、あなたの矜持がぶつかって、どちらかが壊れるんだ。

 戦わなければ、お互いの愛で溺れていられるのに。

 私たちは息をするために戦うんだ。

 本当に――残酷だな。


いつもお読みいただきありがとうございます。

活動報告内にハンスの設定秘話を置きました。

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