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8-4 私からあなたへ。私から君へ

「レイ、殿下の様子は見えますか?」


 ここはレガリウス皇城内のハンスの部屋だ。

 ハンスはここで様々な実験をしている。例えば、リガリットをすり潰して薬品に変える、と言ったような。


「いえ。見えません」


「今の殿下の魂の色はとても魅力的ですよねぇ。レイもそう思いませんか?」


「……いいえ」


 レイは穢れのない、まるでアリアーデの心と同じような白色の魂が好きだった。

 染まってしまった魂は元に戻ることができるのだろうか。


「レイを殿下の執事にして正解でしたよ。さぁ、これを飲んで下さい。あなたは今から殿下の敵になります」


 レイは椅子に縛られていた。

 ガタガタと激しく椅子を揺らして逃れようとするも、ハンスは近づいてくる。

 ――どうして。どうして私が姫様を壊す最後の原因にならないといけないのですか……?


「嫌だッやめて下さい! あなたは、姫様を愛していないのですか!?」


 ハンスの動きが止まった。

 優しく微笑んで、愛しむように言った。


「愛しているのですよ。誰よりも、深く。こうしなければ、リアは……私を越えることが出来ないでしょう?」


 思い返すのは、ハンスルートのアリアーデだ。

 壊されて、何も映さなくなった瞳でハンスの名前を呼び続けるらしい。だが、目の前にいる怪物は、少し違うような気がして――


「死ぬつもりなのですか?」


「おや、そう見えましたか? ……本気で遊ぶだけですよ。その結果がどうなろうとも」


「な、なら私が姫様の敵になる必要はありません……!」


 ハンスはため息をついた。


「言うなれば。食卓を彩る器なのですよ、あなたは。食事を楽しむ時、食材も重要ですが食器も大切でしょう。最後の晩餐なら、尚更」


 ハンスはレイの顎を掴み、無理やり口の中に薬を流し込んでいく。


「――!!」


「リア……あなたの心は本当に壊れませんか?」


 ハンスはレイの口を手のひらで抑えながら、虚空に問いかけた。


 ♢♢♢


  あれから。

 目を覚ましたルヴィアは、私たちを置いて出て行ってしまった。

 そしてドミニクが作っていた魔具は、一日で私の身長と同じ高さの杖へと成長し、完成した。

 杖は青く光っていて、まるで青色の水晶を集めて作ったみたいだった。


「この杖は、直径一kmの範囲の魔法を無効化する杖。……本当はアリアを止めるために使おうと思ってた」


「私に使わないの?」


「どのみちアリアは行くでしょ? なら、アイツと戦う時に使って。地面に突き刺すと、効果は一時間持続するから、その間に決着をつけて戻ってきて」


 渡された杖はずっしりと重かった。

 私の魔力はもう使えるようになっている。


「ありがとうドミニク。全部終わったら、また遊ぼうね」


「ふん。もうアリアは僕と遊べないよ。この国の皇帝だからね。ちゃんと仕事、しなよ?」


 ドミニクはそう言うと秘密基地から出て行った。


 杖を契約魔具にしまって、私も出かける準備……もとい顔を洗ってスッキリする。


「レイ……すぐ行くから」


 右目が教えてくれたのは、レイが魔王城に入っていくところだった。


 魔王城に行く前に、私は皇城のリーンの元へと飛んだ。

 リーンはお父様の部屋にいて、まだお父様は目覚めていなかった。


「あ、アリア様ぁ! どう言う状況なんですかぁ! この契約書はなんなんですか!?」

「うーん、ハンスと国取り合戦……かな?」


 そう言うと、リーンは絶望した表情になった。


「あばばば……私たち、死ぬんですね……」

「むにむに。そんなことないよ」


 リーンのほっぺを摘んで揉む。

 多分、私とハンスの一騎討ちだろうし。


「今から、私は数日帰ってこれないから……あとは任せた。ラビットさんにも言っといて」

「え、ま、待ってください〜!!」


 さらばだリーン。任せたリーン。頑張ってリーン!!


 私はすぐレガリウス領の廃村まで転移した。

 ここからは徒歩で移動だ。

 魔境は空の魔力が乱れている土地だから、空を飛んで行くことは出来ない。


 だからと言って移動速度が落ちるわけではないのだが、木々が邪魔して転移が使いにくい。


 私は素早く木々の間を縫うように走る。

 途中、魔物と出会っても無視して進む。


 魔王城の場所は、前回来た時に司令室で地図を確認している。だから、迷わずに魔王城の門まで辿り着くことができた。

 だけど、もう夜になってしまっていた。


 家主のいない城は静かで、どこか不気味だった。


「どうしよう……」


 正門に来たものの、少し休んでから入るべきか、一刻も早くレイのところまで行くか。

 悩んで出た結論は、少し休んでからだ。

 ……さっきからレイの視界が見えなくなった。

 意図的に遮っているのかもしれない。

 

 一晩、私は正門近くの木の上で過ごした。

 魔物の気配は感じなかったが、嫌な予感がずっとしている。


 朝日が上がると共に私は魔王城の中に入った。

 薄暗くて瓦礫が多く歩きにくいが、魔眼がある私にとっては問題なかった。


 人の気配がする。

 ずっと見られているような。

 姿を消すのが上手い。魔眼相手の戦い方を知っているみたいに。


「レイ……出てきてよ……」


 玉座の間に入ったところで、天井から銃声が聞こえてきた。


「ッ!」


 ギリギリ躱したが、次々と銃弾が撃ち込まれていく。

 転移で大幅に跳躍したが、動きを読まれている。

 ここまで私の行動を予測できる人物なんて……一人しかいない。


「レイ! お願い! やめて!」


 なおも撃ち込まれて、頬に弾が掠った。

 やりづらい……。

 直接攻めるか。


 私は天井の梁に転移した。

 銃を構えたレイがこちらに照準を合わせたところに、私もナイフを投げた。


 ナイフが銃弾に弾かれている間に、レイとの距離を詰める。レイは銃を捨ててナイフを構えた。

 ナイフとナイフがぶつかる。至近距離で、間違いようがない。レイだ。


「レイ、私だよ!」


 レイは閉じていた右目を開けて、私を見た。

 けれど、それは私が密かに放っていた魔法の糸を見るためで、それは戦いの継続の証だった。


 空間に穴を開け、そこから伸ばした糸をレイの手首に絡める。


「捕まえたッ――うわぁ!」


 次の瞬間、レイは梁から地面へ飛び降りた。

 

 糸で繋がっていたせいで、私の体も強引に引きずられる。

 先に着地したレイが、懐から銃を取り出して私に向かって撃った。

 空間に穴を開けてやり過ごそうとして、気付く。

 

 ドワーフの弾だ。直感だった。ここで使ってくる気がした。

 ギリギリ首を捻って弾を避ける。

 首筋に傷ができたが、なかなか治らない。


「レイ、本気だとこんなに強いんだ……」


 私も本気を出さないと。けど、どうしたらレイを正気に戻せる?

 峰打ち、気絶?

 また起きた時、正気に戻っている保証は?


「わっかんないけど、とにかくやるしかない」


 ふぅ、と息を吐く。

 集中しよう。レイを倒す。

 今の間にレイは手首の糸を解いていた。


 まず転移でレイの後ろを取った。が、読まれて後ろ手で銃を撃たれる。けど、そんなのわかりきってるから転移で正面に移動して、私はレイの両手首を握って頭突きを食らわせてやった。


 狼狽えた隙に、銃を取り上げて地面に放り投げた。

 ナイフで反撃してくるレイに、私は魔法で水を出した。

 レイを包めるぐらい大量の水で、レイを溺れさせた。


「魔法ってずるいよね……」


 レイが気を失ったところで水を消した。

 手足を縛って、次に起きても大丈夫なようにする。

 それで、どうしよう。

 私はどうしたら……。


「おやおや、トドメは刺さないので?」


 後ろから、足音と共にハンスの声が聞こえてきた。

 背筋が冷える。

 ああ、嫌だ。


「……それ以上は言わないで」


 やめて、言わないで。


「――レイ君は、もう元に戻りませんよ」

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