1-6 私の好敵手
クランツェフト帝国。
この国は4つの国を併合して出来た帝国である。
皇位継承権は基本的に血統と実力順となっている。
で、私はまだ産まれて7年しか経ってないから、まだ順位には入っていない。
巷の噂ではおおよそ8位くらいになるのでは?と言われている。
私がもう魔法を使える事はまだ一部の人間にしか知られていないから妥当な順位だろう。
あまり興味はないので、どうでもいいことなんだけど。
「今日はアリアーデ様のお披露目式ですから、ゲームはお控え下さいね」
エレナが私の身なりを整えてくれている間に、1人チェスをしていたのがそんなにいけなかっただろうか?
「わ、わたしじゃないよ。妖精さんだよ」
私の両手はガラ空き。魔法でコマを動かしているのだ!
「可愛らしい妖精さんですね」
姿見で全身を見てみると、確かに今の私は妖精かもしれない。
くるくる回ってニコッと微笑んでみた。
私の瞳の色とよく合う赤色のドレスがふわりと舞う。
うーん、この可愛らしさでゲーム友達は増えるだろうか?
でも地位で得た人脈って事は接待プレイされるってことだし、本気で挑んでくれる人は今の所レイぐらいしかいない。
コンコン。
「式の準備が整いました。こちらへどうぞ」
皇城の控え室にいた私をレイが呼びに来てくれた。
今日はパパ……もとい皇帝と手を繋いで入場するらしい。
レイからはニコニコして大人しくしていたらすぐに終わると言われていたので、全力でそうする。
「アリアーデ。そう緊張せずともよい」
父が私の手を握り、頭を撫でてくれた。
目の前の扉の奥はパーティ会場となっていて、すでにたくさんの貴族が集まっているらしい。
「きんちょーしてません」
「ふむ、そうか……」
ここは毅然とした態度でいかせてもらう!
パパっと終わらせてさっさとゲーム時間を確保せねば。
扉が開くと煌びやかな装飾と、階下で拍手で迎える貴族たちがいた。
父が片手を挙げたので、私もそれに倣う。
「アリアーデ。お前の力を見せてみろ」
「!?」
そんな演目聞いていないんだが!?
無茶振りすぎでは!?
思わず目を見開いて父の顔を見るも、顔を合わせてくれない。
力って何……みんなとカードゲームしろってこと?
絶対違うのはわかるけど、今私のできる魔法でこの場所に相応しいものとなると……これか。
「ふぅー」
挙げた手をそのまま口の前で皿にして、息を吹く。
創造魔法で作った複数の小花が、風魔法によって貴族達の頭上へと降り注ぐように調整しながら飛ばしてやった。
ふん。どうだ、これで満足か?
と隣の父を見ると、うんうんと満面の笑みで歩き出した。
すると、どこからか「聖女様だ……!」と声が上がり、貴族達がざわざわと騒ぎ出した。
ドン。と父が杖で床を叩くと、一瞬にして静寂が訪れる。
「これが我が娘、アリアーデ・クランツェフトである」
「「おおおお!!」」
会場が沸く。
私は白目を剥く。
そうして私のお披露目は大成功となり終わったわけだが、朝から始まった会は終わるはずだったお昼を過ぎても続き、おやつ時に解放されたのだった。
「ッチ」
「姫様」
自然と出た舌打ちをレイに指摘される。
今は動きにくいドレスを着替えて、おやつ後の少し遅い散歩に出ていた。
城内にはたくさんの施設があり、全ての施設を周ろうと思うととてもじゃないが1日では足りない。
なので、隙間時間を見つけてはひとつひとつ訪れるようにしている。
「あれ? なんか騒がしいね」
皇城の隣に位置する修練場から、いつもより違った声援が聞こえてきた。
「……本日は、選考会が催されております」
レイが一拍遅れて返事をくれた。
こう言う楽しそうなイベントがある時は、レイが必ず教えてくれていたのに、今日は何にも言われていなかった。
……わざと教えてくれなかったってことは、何かあるな?
「こそっと見学してもいい?」
「……かしこまりました。こちらが見物席への階段でございます」
修練場は楕円形の小さなスタジアムのような形になっており、階段を上がると声援の正体――死闘が繰り広げられていた。
しかも一方的な。
「うわぁ……」
修練場の真ん中。貴族の服を着た人物が、剣で切り掛かる騎士の横を通り過ぎたかと思ったら、騎士が倒れていた。
俺じゃなきゃ見逃してるね……って言いたいところだけど、手刀だとしても早くて見えないものは見えないのだ。
「なんだか、あの人雰囲気がレイに似てるね」
黒髪金眼で優しそうな雰囲気を出してるものの、やってることはえげつない。
あ、また1人倒された。
周囲の声援は徐々に同情に変わって、最後にはどんよりとした空気になっている。
「アレは……私の親戚にあたる方です」
レイはとても言いづらそうに答えてくれた。
へぇー、これはあれかな?
複雑な事情ってヤツかな!?
「ふーん」
レイの親戚は、片手をクイクイと曲げて挑発している。
うわー、あからさまな強者ムーブだなぁ。
「名前はハンス・レガリウス辺境伯。この大陸最強の帝国魔導士です」
レイが親戚の名前を教えてくれた。
しかし、大陸最強……だと?
「多少はマシな人間がいると思いましたが、思い過ごしだったようです。これなら遠征は私1人で行く方が良さそうですねぇ」
全ての戦い……もとい可愛がりが終わり、ハンスが笑顔で騎士達に声をかけた。
「まだ2階にいらっしゃる殿下の方が強いかもしれません」
げっ、気付かれてる……。
騎士達がこちらをバッと見てきたので、笑顔で手を振ってみた。
「おお、姫様だ……!」
ざわざわと私のことで盛り上がり始めた。
今日はもうこれ以上目立ちたくないよ……。
「レイ、相変わらず強くなっていませんね」
えっ?
さっきまでハンスは下に居たはずなのにいつのまにか上がってきている。
「ハンス様……。今は姫様にお仕えすることを優先しております」
レイがそう言うと、ハンスの視線は私に向いた。
み、見ないでよ。
負けじとこっちも睨み返す。
「おやおや。その献身の割にはあまり殿下はお強くなっておられないようですが?」
「はぁ?」
あ、やば。
素が出てしまった。
「ごほん。あの、言っておきますが、大陸最強だかなんだか知りませんが、将来的に最強になるのは私ですから」
今決めた。
目の前にいるこの憎たらしい美形超人……美形? 美形なのムカつくな……。
と、とにかく!
この人を片手でひねれるようになるのが目標ね!
私はまだ7歳なのだ。
将来有望すぎる。
「フフッ ああ、申し訳ありません」
私の言葉がよほど面白かったのか、ハンスは小刻みに震えて堪えている。
「そうですねぇ……そのような日が来るとは思えませんが、私からはコレを渡しておきましょう」
ハンスの長い指に摘まれていたのは、虹色の宝石で出来た菱形ネックレスだった。
なんか最高レアの色してるな……。
「あ、ありがとうございます。もしかして、何か召喚できたりしちゃいますか?」
「……レイ、貴方の教育が足りていないようです。もしかすると殿下はあまり頭がよろしくないのかもしれません……」
あからさまにしょんぼりしている。
……そこまで言うことなくない?
わかった。
この人は煽りの天才だわ。
あと人をイラつかせる天才。
レイが側に寄ってきて耳打ちしてくれた。
「アリア様、この魔昌石は魔力を込めると事前に仕込んでいた魔法が発動する石です。何を込められているかはわかりませんが……」
そう聞いて、早速魔力を込めてみる。
「何も起きないよ?」
「殿下の魔力ではとてもとても」
くっ! ハンスに笑顔で言われると事実だけどなんか腹立つな……。
はぁ、精神統一しよ。
こんなのよくゲームで死体蹴りされた時と比べればなんてことないよ。
「じゃあ、これを発動させれたら私と戦ってくれますか?」
「いいですよ」
覚えとけよ!
絶対に倒すから!
「ふんっ」
ここにいても居心地が悪いので私の館に帰ることにした。
帰り道にレイに話しかける。
「レイもあんなのが親戚で大変だね」
「あの方はいつもああなのです。今回はレガリウス領にある魔境地帯に遠征に行くみたいですが、いつも強者を探しておられます」
強者を探すって言う面では前世の私みたいだな……。
あれは私の越えなければいけない壁みたい。
私があいつを倒して最強になるって、本気で決めた。だって、あんなムカつく奴に負けたままでいたくないからね!
そうと決まれば早速修行だー!!




