1-5 暗殺メイド
おっといけない、寝過ごすところだった……。
いつのまにか寝ていたようで、月が照らすベッドの上、目をこすりながらそろりと布団を抜け出して、レイの部屋へと向かう。
レイの部屋は一階にある。
今回は階段から行こう。
館の鍵が閉まってるから、外からだと余計な手間がかかる。
レイのことだからどうせすぐ見つかるだろうけど、その時は、一人は怖いとか言って誤魔化そう。
そろりそろりと階段を降りて行く中に、切れ味の良さそうな鉄線を見つけた。
ふむふむ。セキュリティーは万全だね。
というか、なぜ私に許可なく罠を張るんだ……。
そんなこんなでレイの部屋の前までやってきたが、普通、部屋に鍵をかけるよね……。完全に失念してた。
試しにドアノブに手をかけてみる。
……な、何!?
かかってない……だと!?
「うっひょー! レイの部屋潜にゅ……!? えっ、レイ!?」
ドアを開けると、血まみれのメイド服に身を包んだレイが、ちょうどロングスカートをたくしあげて脚のベルトにあるナイフを外そうとしているところだった。
月明かりが窓から入ってきて、まるでどこかの映画のワンシーンみたいな……。
「いかがなさいましたか?」
レイの至って平穏な声。
うーむ、今日は仮装大会でも開かれていたのか……?
「だとしても、メイド服似合いすぎでしょ……」
やはり、女装させたら完璧な美少女だ。
静かに扉を閉めて、見なかったことにする。
借金のために女装……?
たしかに、普段の長い髪があれば女装なんか簡単に出来るし、暗殺とかするならやりやすいよね。
ん? 暗殺……?
ダーツが上手い。
脚にあった血のついたナイフ。
メイド服の返り血。
私への過度な理解。
ふむふむ。
……………………。
もう一度レイの部屋の扉を開けると、今度は執事服を着たレイがいた。
「ふむふむ」
もう一度扉を閉めて、考える。
ということは、私も見たからには殺されるってこと?
だから階段に罠が張ってあったの!?
天才的な閃きに、身震いする。
であれば先手必勝!
仲良くなったのに悲しいけれど、まだ死ぬわけにはいかぬ!!
「天誅!」
扉を開けた瞬間に、レイに向けて風の刃を魔法で飛ばす。
すると、レイは驚きながらも持っていたナイフで全て弾いてしまった。
見切られた!?
「私に魔法はあまり得策とは言えません……。姫様が込めた魔力で闇夜でも軌道が見えやすくなります」
レイが右目の魔眼を指差す。
「魔眼……」
やっぱり、近接戦闘を鍛えないと戦えないのか……。
「くっころ……!」
頭を抱えて降伏のポーズを取っていたら、近づいてきたレイがしゃがみ込んだ。
「あれ……?」
もしかして暗殺じゃなくて、やっぱり仮装大会だったのか……?
レイは私の目を見て話し出した。
「やはり、姫様は怒っていらっしゃるのですね……。黙っていて申し訳ありません。ですが、姫様には不必要な情報ですので……」
「私に不必要な情報はないよ。必要かどうかは、私が判断する。だからレイは、私に全部教えて」
言いたくないことは言わなくてもいいけど、私に関係するなら教えて欲しいよね。
面白いことは全部知りたいし。
「……申し訳ありません。その……姫様の暗殺を企てていた者を排除しておりました。予想以上に時間をかけてしまい、出来損ないの私など……姫様のお側にいる資格がございません」
伏目がちにレイはそう言った。
まるで雨に濡れた子犬のようにしょんぼりしている。
まさか、暗殺してきた帰りだったとは……。
誰だよ仮装大会とか言い出したの……恥ずかしい。
「よしよし。……あのね、ひとつ言わせてほしいのは、レイが出来損ないだとしたら、レイに勝てない私はそれ以下だし、今後レイの事を悪く言う人がいたら、半殺しにするから。もちろんレイも含んでるからね?」
レイの頭を撫でながら、思ったことを言う。
「あと、レイより私の方が強くなるのは確定事項だから、早くレイの全部を教えて」
主人と言うのはきっと、従者を守れて初めて主人と名乗れるような気がする。
「姫様……私に失望しているのではありませんか?」
「はぁ。レイが一番私の事をわかってると思ったんだけど……。言う事があるとすれば、私を殺そうとしてるやつは私が返り討ちにしたいってことかな。……あと人殺しは良くない」
不安になってきた。
レイ、ちゃんと証拠隠滅してきたのだろうか。
あれ? もしかして、逮捕される?
「私がレイを守らないと……え、正当防衛にならないかな……」
私がおろおろしていると、レイが少し笑った。
「ふっ。いえ、大丈夫です。証拠は残っていません。架空の人物で処理されます」
「なるほど……」
それなら良かった。
……良かったのか?
まぁいいや!!




