6-4 何度でも
前線は予想以上に劣悪だった。
魔法使いが少ないから、魔物の死骸の処理が追いついておらず、山のように積み上がっている。
兵士達にも疲労が見えている。
ハンスは月1で現場に現れているそうだが、それでもこれならだいぶ魔物の数が多いんだなと思った。
私は城壁跡の司令部に来ていた。
突然来たにも関わらず、ドレスを着た私を兵士達は快く受け入れてくれた。
「私、ハウワードと申します。ここで魔物討伐の作戦指揮をしております。あなた様は……」
「アリアーデ第二皇女です。今日はみなさんと一緒に魔物討伐のお手伝い……いや、レガリウス辺境伯はいつもどのように行動していますか?」
「おお、お噂の聖女様ですね! 本日はお越しいただきありがとうございます! 領主様は普段、単独で森を進行し、魔境の入り口まで魔物を掃討されていきます」
やっぱり単独か。
その方が効率良さそうだもんね。
「じゃあ、私もそのようにさせていただこうかと思います」
「その……現在、先行部隊が廃村の辺りにいるはずですが、連絡が途絶えておりまして、皇女殿下にはそちらに向かっていただきたいのですが……」
言いづらそうにハウワードはお願いしてきた。
まぁ、ハンスには絶対言えなさそうなお願いだし、私も役に立ちに来たんだからそれくらい全然やる。
「わかりました。他に行った方がいい場所があれば行きますよ」
「ほ、本当ですか!? その……言いづらいのですが、皇女殿下は領主様と同じような実力なのでしょうか……?」
見た目14歳の少女なのだから、その疑問は当然だった。
「もちろんです。レガリウス辺境伯より強いですよ」
そう言うと、ハウワードは目をひん剥いて驚いていた。
ちょっとウケる。
「ふふっ、冗談……でもないんですけど、まぁ同じくらいと思っていただいて大丈夫です」
「わ、わかりました。ご無礼を申し訳ありません。あの……ついででよろしいですので、魔物の死骸を燃やしていただけるとありがたいのですが……」
「もちろん。任せて下さい。ハンスと違って私は優しいので」
周りにいた兵士達がおお!っと元気になる。
士気を上げることに成功したようだ。
さて、ついでのついで。作戦司令室の中に浄化の魔法とボロボロの机と椅子も新品の物に創造魔法で変えてあげた。
涙を流して喜ぶ兵士達。
感謝されるのがむず痒くて、私は瞬間移動で魔物の死骸の場所まで転移する。
「ふう、早く燃やして先行部隊を助けに行かなきゃ」
なんとなくだけど、そこにレイがいるような気がした。
レイがやられるような敵なんて……どんな敵だろう。
♢♢♢
レガリウス領は毎年季節によって領地が変わる。
厳しい冬の間は城壁跡まで下がり、そこを最終防衛ラインとして守り、春になると領地を取り返すように侵攻作戦が始まる。
そして、その侵攻作戦にレイも参加していた。
なぜならそこがレイルートのハッピーエンドにおける、重要な分岐点だからだ。
このルートでは、今いる廃村に魔王が現れる。
それが後に魔王ルートが出現する伏線になるそうだ。
ルヴィアが間違って拐われたように、レイがこの廃村に行けばイベントが起こると考えていた。
そして、レイがここで魔王を倒せばハッピーエンドとなりクレバンス家当主となる。
しかしそれは無理だろう。
なぜなら、魔王のステータス値はレイルートと魔王ルートでは違うからだ。
――ここで死ぬとしたら、姫様は悲しんでくれるでしょうか?
突然、廃村の教会の方から悲鳴が聞こえてきた。
「ま、魔王だ! 魔王がいるぞー!! 逃げろーー!」
兵士達が恐慌状態で逃げ出す中、レイは騒動の中心部へとゆっくり歩いて行く。
レイにとって、人生最後の戦いが始まった。
♢♢♢
この世界では魔物は無限湧きらしい。
死骸を焼きながらそう思う。
だって、ハンスがいるのに根絶していないからだ。
こんなのいちいち相手にしてたら面倒すぎるし、絶対元を断ちに行くはず。
それをしていないってことは、する意味がないんだろう。
ひと通り焼き終えて、私は空を飛び始める。
ここから数キロ先らしい廃村へと向かっていると、禍々しい魔力が文字通り、見えた。
「魔王!?」
目視できた教会屋上へと瞬間移動する。
壊れた屋根の隙間から、中に魔王とレイが見えた。
レイが……。
「や、やめて!!」
瞬間、魔王が振りかざしていた爪を弾いて、レイと魔王の間に割って入る。
「あーあともうちょっとで死んだのになぁ」
残念そうな口調の魔王は、退屈そうにこちらを見た。
「お前……なんか見たことあるけど……あー思い出したぁ。俺を倒すとか言ってたやつだ!」
言ってるうちにレイに駆け寄る。
「やめて……下さい。私は、魔王を倒します……そうしたら、自分を……信じることが……」
怪我が酷い。
血が、魔王の爪痕が至る所にのびている。
私が治療魔法を使えないから、治すことができない。
立ちあがろうとするレイを抑える。
「ダメだよ、動かないで!」
魔王は私が倒す。
瞬間移動で魔王との距離を詰めて、剣で切り掛かる。
しかし、体にかすっただけで避けられた。
「おっと。ふぅん、お前を捕まえてアイツにぶつけたら、俺の城を横目で見て興味を失くすような事にはならないよな?」
「ブツブツ何言ってんの? 私が今ここで殺してあげる」
再び転移で魔王の後ろを取って剣で振りかぶりつつ、土の槍を全方位から魔王にぶつける。
「ッチ。魔王も瞬間移動持ちか」
転移して逃げられた。
上に転移した魔王が私に向かって落ちてくる瞬間。銃声が鳴った。
「痛ったいなぁ!」
レイの銃が当たった?
前に魔王に当たった時は、弾かれてたのに。
「ドワーフ、特製の弾が入っています……」
フラフラのレイにこれ以上働かせるわけにはいかない。
ハンスの時まで残しておきたかったけど、ここで私の切り札を出すしか……。
「私が、倒します」
そう、レイが宣言した。
魔王は私とレイを見比べている。
魔王の腕に被弾した銃の傷は、なかなか治らないようだ。自己再生が間に合っていない。
「まぁいいや……めんどくさ。あと4年待てばお前が手に入るんだし」
と、私を見て魔王は消えていった。
逃げ出したようだ。
「レイ! すぐ皇城に飛ぶから!」
レイの元へと転移して体を支える。
「姫様……待ってください。私はまだ……帰るつもりは……」
「レイ、聞いて。私は、レイになら何度傷つけられてもいい! 何度間違えて、何度裏切られたって、私はレイを迎えに行くから!」
私を押しのけるレイの動きが止まった。
♢
レイに浄化魔法をかけて、包帯を巻いて止血する。
私たちは教会の壊れかけた椅子に腰掛けて、ぎこちなく話し出した。
「私はあの夜、姫様が私のことを受け入れてくださって、とても嬉しかったのです」
あの夜のこと。私がレイの暗殺を知った時のことだ。
「いつのまにか、私は姫様に救われていました。ですが、ずっと不安でした。姫様が奪われないか、失わないか、ずっと……」
レイの手に力が入る。
「私は姫様のことを愛しています」
レイのまっすぐな目が、私の魔眼に映った。
ああ、そうだったのか。
恋とか、愛とかのその本質は。
ずっと一緒にいたいってことなんだ。
「レイ。私ね、レイの事が大好きなんだよ。誰よりも大事で、失いたくない存在で、家族みたいに思ってるんだ」
少し息を吸って、続ける。
「恋はまだよくわからないけど、歳をとって、おばあちゃんになっても、私はレイと一緒に居たいと思う」
これが、私の答え。
レイに渡せる私の全て。
だから、レイ。
「――契約をしよう。私とレイで、この眼をかけて」
驚いたように私を見るレイは、やがて覚悟が決まったように頷いた。




