6-3 同じ空の下
私は皇女なんだから、レイを連れてこいって命令すればいいだけなのに、なんとなくレイが私を拒絶しているような気がして気が乗らない。
ララとか言うレイのお姉さんが淹れるお茶は美味しかったけど、気分良さげに荷物の整理や私の身の回りの世話をこなしているところが気に入らない。
レイなら私の考えていることぐらい、すぐわかるのに。
レイじゃなきゃダメな理由。
ジノを納得させるだけの理由が言語化できない。
そんな自分にもイライラする。
食事を終えて夜になり、ララからお風呂を勧められたが断った。浄化魔法で体を綺麗にして、魔法で服を着替える。
「ああっ私のお仕事が……」
しょぼんと落ち込んだララに、少しレイの面影を感じる。
「ララ、従者が主人のことを愛するのは当たり前だよね?」
「そうですね。例え明日主人を殺すことになろうとも、最後の瞬間まで愛していますよ」
それほどまでに、感情を使い分けることができるとでも言いたいのだろうか。
「じゃあ、主人が従者を愛してもいいよね?」
「それは従者冥利に尽きますね。信じることはありませんけど」
ララが目を逸らす。
ここか。
この家族の、レイの弱点は。
「どうしたら信じてくれる?」
一瞬の躊躇いがあった。
「……あたしのために、国も家族も、友達も捨ててくれたら。――なーんて、そんなのは従者失格ですよ」
ララは真剣な口調をやめて、両手を広げて笑う。
どうして、そんなに悲しそうに言うんだろう。
「従者を辞めればいいじゃない。友達になれば」
そうしたらしがらみも、裏切りもなくなって正しい関係になれると思うのに。
「そう言うことですか、アリアーデ様がこちらにいらした理由は。でも無理ですよ? レイは。あの子は、クレバンス伯爵家1番の出来損ないで――1番他人を信用していないんですから」
笑いながら、ララは断言した。
そうか……ララもそうなんだ。
レイを羨ましいと思っているんだ。
♢
深夜。眠れなくて、窓から外に出て屋根の上にふわりと着地した。
横になると星が綺麗に見えて、風が優しく吹いていた。
「星が綺麗だね」
返事は帰ってこない。
胸につけたままの髪飾りは、レイに言葉を届けてくれているだろうか。
届かなくても、それでも言う。
「戻ってきてよ。私、レイがいないと楽しくないよ」
♢♢♢
魔物が蔓延る最前線で、枯れ木に腰掛けながら空を見上げる。
同じ空を見ているとレイは思った。
なぜか盗聴器の髪飾りを捨てていなかったアリアーデ。
魔眼で見れば、すぐにいつもの髪飾りが盗聴器であることがわかったはずなのに。
それが意味することが何なのかを、レイは知っていた。
アリアーデの声が、耳をくすぐる。
嬉しかった。
それでも――姫様、来てはいけません。私はまた姫様を苦しめてしまう。姫様の歩む道を塞いでしまう。
銃の手入れをしながら、レイは思う。
――どうか、私を信じないでください。
♢♢♢
朝になり、ララが私の髪を結おうとしたが拒否した。
私が自分で髪を梳かして、そのまま一つにくくる。
今日は前線に行こうと思う。
魔物の数を減らしたら、兵士の負担も減るから。
朝食を食べる時に、ジノとリリーと一緒になった。
「今日は私も前線で戦おうと思っています」
そう言うと、ジノが頷いた。
「ありがとうございます。前線の兵達も喜ぶでしょう」
「レイに会えましたら、伝言をお願いします。覚悟ができたら国を出なさい、と」
リリーが言うと、思わず口を挟んでしまった。
「え、ま、待ってください。まだレイは私の執事です!」
「そうでしょうか? 主人に背を向ける従者など、必要ないでしょう」
「そんなことないです! 待っていて下さい。私が……レイが私の執事だと言うことを証明してみせますから!」
不思議そうに私を見たリリーだった。
計画ならある。レイが、私の手を取ってくれれば、必ずレイの両親を説得できる材料が。




