6-1 君がいないとダメみたい
ドミニクはレイを連れてどこかへ行ってしまった。
残ったリーンが、泣きそうな顔でベッドサイドに手を乗せる。
「アリア様、こんな事になるなんて……片目の魔眼は辛いってレイルートでレイが語ってたのに……あれ?」
私の眼をリーンはまじまじと見つめた。
「両目が金色……?」
「うん、同化させたよ?」
手を目に当てて、魔力を込める。
なんか金色のままは嫌だから、目の色は元の赤色に戻す。
「ちょ、ま、レアな魔眼アリア様の光景がッ」
「あー、片目だけ色変えてポーズ取ったほうが良かった?」
目がうずく……なんて。
「うぇっ」
「あ、アリア様!?」
自前の受け皿になんとか受け止めた。
だめだ、少し休まないといけない。
「ごめん、ちょっと横になってるね」
「……わかりました。手伝えることがあったら言ってくださいね」
ガチャっと音がして、誰かが入ってきた。
閉じた瞼の裏でも色を感じて、なんとなく誰かがわかった。
「アリアの執事くんはクレバンス家に帰したよ。少し、彼も反省したいってさ」
「……そっか。みんなも帰っていいよ。ごめんね、心配させて」
「アリア……。わかった、ゆっくり休んでね」
みんなが部屋から出て行って1人になった。
しばらく寝ていたが、やっぱりじっとしていられない。
ゆっくりと起き上がって、両眼を開く。
たしかに、ハンスの言った通りこの部屋はカオスだ。
立ち上がってぬいぐるみのそばまで行く。
ぬいぐるみを切り裂いて、水晶のような玉を取りだす。
これはレイのだ。
一度バレた場所に仕掛けるなんて、肝が据わってる。
植木の中、クローゼットの中の髪飾り、ペンダント、イヤリング。お兄さまに盗撮されてた時は嫌だったけど、レイがこれをやったとわかっても、特に何も思わなかった。
脚の契約魔具をよく見る。
そうすると、この魔具の持ってる機能が透けて見える気がした。中に入っている武器も、おもちゃも。
ハンスからしたら、こんな小細工バレバレだったんだな。ちん、と魔具を指で弾いてみる。
「ねぇ、レイ聞いてる? 私、別に怒ってないよ。むしろ感謝してる。ドラゴンの血じゃ、ここまで見えなかった。見えてる世界が違ったんだって」
パチンと指を鳴らして服を着替える。
ドレッサーの前に座って髪を櫛で整える。
自分でやるのなんて何年ぶりだろう。
何か髪型をアレンジしようとして、思う。
「今日の髪飾り、何にしよう? 私、1人で髪型いじったことないんだよね……」
前世も含めて、自分の髪なんて気にしたことがなかった。
諦めてそのまま髪留めを服につける。
「お茶、どれだっけ?」
食器棚からティーポットとティーカップを出したが、肝心の茶葉がどれかわからない。
なんとなくで選んでポットに入れる。
「うーん、こうやってたっけ?」
魔法でお湯を出して、ティーポット内でお湯と茶葉をくるくる回転させた。透明なティーポットだから、その様子が目に見えて面白かったのを思い出す。
レイは、いつも私に楽しんでもらおうと頑張ってたんだ。
「美味しくない……」
出来上がったお茶を飲むも、いつもと違って美味しくなかった。
なんにも、気付いてなかった。
今まで踏み込んでこなかった。知ろうとしなかった。
レイのこと、みんなのこと、私のこと。
ゲームに逃げて、依存してた。
変わらないといけないのは、私の方だった。
「レイ、待ってて。迎えに行くから」
結論は出ていない。
けど、逃げちゃだめだと思った。
レイの気持ちからも、私の気持ちからも。
「あれ……?」
鏡に映った私が見えた。
私の魂の色は純白なはずなのに、少しくすんでいた気がした。
♢
2日が経過して、体調が万全になったのでクレバンス伯爵邸に行くことにした。
伯爵邸は旧レガリウス領にある。
少し遠いけど馬車で行くことにした。
「それで、誰もついてくるなって言ったはずだけど?」
「私も里帰りしようかと思いましてね。ああ、ご心配なく。クレバンス伯爵家には行きませんし、帰りは1人で帰りますから」
そう言ってハンスは足を組んで本を読み始める。
「瞬間移動できるくせに」
私はまだ行ったことがないからできないけど、元々旧レガリウス帝国領出身のハンスなら瞬間移動が使える。
だとしたら、この馬車に乗ってきたのは何かしら理由があるかもしれない。
「何が目的?」
「そうですねぇ、例えるなら手塩に育てた果物に虫がついてしまい、中身が溢れそうになっているところを眺めている。ですかねぇ」
本から目を離さずに、淡々と言う。
「中身、ね。虫は追い払わないんだ」
「私が育てたのですから、虫くらいつくでしょう? 食い荒らすほどの力はないようですが」
魔眼で人を見続けると、そんな感想しか湧かなくなるのだろうか。
目の前のハンスの魂はドス黒くて、まるで元の色がわからない。どうしたらそうなるんだ。
「その果物はいつごろ食べるつもりなの?」
ちょっとした好奇心で聞いてみた。
「……その果物が実は人間だったら、どうしますか?」
少し時間をおいて返事があった。
本から目を離して不思議そうに私を見ている。
「な、何言ってるの?」
意味がわからない。
私の事なのはわかる。
果物に例えられたのには呆れるけど。
「……人間だったら食べられないでしょ。美味しくないし」
当たり前すぎて、なんで聞いてくるのかわからない。
ハンスは私の答えを聞いて、目を細めて外を見た。
口角は少し上を向いている。
私もハンスと反対の外を眺める。
なんだか、時々ハンスが子供に見える。
まだ何も知らない無垢な子供みたいに。




