間話 傍観者ではいられない
ドミニクの契約魔具は盗聴器付きである。
そして、ドミニクは今までのアリアーデの全てを把握していた。
――しているつもりだった。
待ていれば、勝手に自分のものになるだろうと思っていた。それが1番合理的だった。
あの魔法戦で顔を真っ赤にしたアリアーデに会うまでは。
「父さん、レガリウス辺境伯は危険だよ。アリアから相談があったけど、きっと心に傷を負ってるに違いない。アリアは無理してるんだよ」
「その件か。それは昔からの懸念事項ではあるが、誰が止められる? 殿下がやつを越えれば、それで全て上手くいくんだ。今は祈るしかない」
ドミニクは初めて父とアリアーデの話をしたが、まさかアリアーデを皇帝にしようとしていたとは。
そもそもアレが人にどうにかできるものなのか。
「父さん達はアリアを見捨てたんだ」
「見捨てたとは人聞きが悪い。殿下の可能性に賭けるしかなかったんだ。それに、今は皇太子殿下の件もある」
皇太子殿下が皇帝を弑逆すると言う眉唾な噂。
どちらにしても同じ事だとドミニクは思った。
政治的な判断でも現状維持しかできないとなれば、ドミニクに出来ることは限られていた。
「わかった。僕は僕のやり方でアリアを救う」
ドミニクは決心した。
ハンスを排除する。
そのためにはリーンの協力が必要だった。
♢
数ヶ月後。準備が整ったドミニクは工房にリーンを呼び出した。
ちりん、ちりんと盗聴防止の魔具を鳴らすのも忘れない。
「ドミニクさん、リーンです」
「よく来たね。じゃあ、ハンス・レガリウスの件で話をしよう」
リーンはハンスの名前が出たとたんに、緊張した面持ちだったが、ドミニクの手元の魔具を見て安心したようだった。
「まず先に、持ってくるように言ってた資料を見せて」
「はい」
リーンが乙女ゲーム、温室のハイドランジアの攻略情報を細かに書いた紙をドミニクに渡した。
ドミニクがペラペラと紙をめくっていくうちに、重要な項目を見つけた。
「これだよ、これ。僕が探してたのは」
資料の中から一枚引き出すと、ペンで数字を記入する。
「何をしているんですか?」
リーンは不思議そうに紙を覗き込んでくる。
「ハンスのゲーム内ステータス値を今のアリアの魔力量と照合してる。今のアリアはゲームのアリアよりも大幅に魔力量が多いから」
リーンはそう言われてもパッとしない顔をしていた。
「ハンスは必ずアリアよりもステータス値、つまり魔力量が多くなるんだよ。つまり、いつか魔力過多でパンクする」
彼が人間である限り、ね。と付け足した。
「なるほど……。それでデータが必要だったんですね。でも、アリア様はそれを望んでいるのでしょうか……?」
「君、執事くんと同じ事言ってるの、自覚ある?」
「あ……」
気付いていなかったようだ。
「まぁいいけど。これはアリアが望むか望まないかの話じゃない。確定してる未来だよ」
「あの、レイさんにも伝えた方がいいのではないでしょうか?」
そう思うのも無理はないだろう。
仲間は多い方がいい。
だが、ドミニクはレイだけはやめたほうがいいと思っていた。
「僕個人の意見だけど、執事くんに伝えると計画を妨害されるんじゃないかと思ってるよ。なんだかんだ言って執事くんはアリアの事しか見てないからね」
「そうですか……なんだか、今日のレイさんは様子が変だったような気がして」
リーンはアリアーデがドラゴンを倒した後からのレイの様子を語った。
「じゃあちょっとアリアの様子を聞いてみるよ」
板状の魔具を操作して、アリアーデの契約魔具と繋ぐ。
『姫様は、私を愛して下さいますか?』
ただならぬ雰囲気をドミニクは感じた。
「やばい、リーン! ペグロック!」
ドミニクはペグロックを呼び寄せると、鉄筆を突き刺さして起動した。
ペグロックは大きくなって2人乗りの乗り物になった。
「えっどういうことですか!?」
「説明は後! 急がないと間に合わない」
半ば無理やりリーンを乗せて、ペグロックは工房を出て空を駆けた。
アリアーデの館に着く頃には、レイの声もアリアーデの声もしなくなった。
バルコニーから入ってアリアーデを探す。
「どこだ? どこにいる?」
寝室にも、執務室にも、どこにもいない。
「ドミニクさん、レイとアリア様に何かあったんですね」
「ハンスの声だ。アリアは今、ハンスのところにいる」
盗聴器から入ってきたハンスの声に、今のアリアーデがどう言う状況にいるのかドミニクは理解した。
「はは……あいつ、やりやがったな。そうか……」
もう後戻りできないことを察した。元の関係にも戻れない、それでもレイはやったのだ。
ドミニクにはできない事を。




