5-3 魔法戦
14歳になり、ようやく秘密基地が完成した。
フルダイブVR機材はこの基地に置かれている。
「ようやく完成したよ……」
「長かったね、アリア。あとはルヴィアが帰ってきたらいつでも始められるよ」
夢のフルダイブ。
ソフトも作ってある。
やっぱり最初はFPSで、同時接続で2人だけ対戦も出来るようになってる。
オンライン対戦がしたいけど、まだテレビゲーム自体一般に普及していないから出来ない。
私の会社が作っているゲームのほとんどの売り上げはボードゲーム、カードゲームが占めてるし、やっぱテレビゲームは高級品だけあって少数の貴族しか買ってくれなかった。
まだ時代が私たちに追いついてないね。
「ドミニク、久しぶりに対戦する? ガチの1対1で」
「いいよ? 泣いても知らないけど」
強気だな。
ふんっ、ハンスの授業のせいでなかなか練習できてないとは言え、私はそう簡単にやられないぞ?
テレビゲームの電源をつけて、アリアの異世界FPSを始める。
ちなみに、分割画面ではなくて2機用意して別々の画面でやっている。
相手の画面が見えたら武器も居場所もわかっちゃうからね。
カチャカチャとコントローラーを押す音が部屋に響く。
「む」
ゲーム内で、私は困惑していた。
ドミニクの動きが把握出来ない。
いつのまにか私の後ろにいて、やられるのを繰り返していた。
「むむ」
どうして私の背後を取れるんだ……?
リスポーン場所はランダムなはず。
いや、リスポーン場所はランダムと言えども、マップの広さ的にはある程度絞れるのか?
「むむむ」
「姫様、もうそろそろ夕食の時間ですので館に戻りましょう」
レイが帰宅を促してくる。
「勝つまで帰らない!」
「そう言われましても、明日は何があるかご存知ですか?」
「知らないけど、朝まであと12時間もあるよ?」
私は24時間ゲーム出来る人間だからね!
ここで帰るわけにはいかないっ!
「明日はハンス様との魔法戦を予定しております」
え、なんでハンスは私に言ってくれないでレイには伝えてるのよ!
ゲームはいつでも出来るけど、ハンスとの魔法戦は数ヶ月に1回しかやってくれないレアイベントだった。
「帰ります。明日に備えて早く寝ます」
「え、アリア……帰るの?」
つぶらな瞳で見つめてくるドミニクに、静かに頷く。
「ごめん、ドミニク。私は行かねばならない……さらばだ」
ドミニクは驚いた顔で私を見てくる。
私のキャラが変わるぐらいには大事なイベントなんだ……。
このハンスとの魔法戦、ルールは魔法しか使ってはいけないって言うものなんだけど、これに勝てば1ヶ月授業免除なのだ。
ちなみに、ハンスの瞬間移動、分身、透明化はまだ解禁されていなくて、勝つごとに一つずつ解禁されていく。
未だに1回も勝ててはいないけど……。
♢
「ハンス! じゃなくてハンスさん! 今日こそ勝たせていただきます!」
私は杖を構えていつでも走り出せるように足を開く。
ハンスはと言うと、いつものように姿勢正しく立っていた。
その手には鞭ではなくて杖が握られている。
「いつでもどうぞ」
レイが試合の始まりの合図の銃を鳴らした。
その瞬間私はひし形に尖らせた石を8個作り出し、ファンネルとして体の周りに纏わせる。
ハンスが水球を3個こちらにぶつけてきたため、ジャンプして回避。
着地狩りを防ぐためにファンネルを2つ打ち出して牽制する。
その間にも暗闇魔法のモヤがこちらに向かってきたため風で打ち消して着地。
攻撃の手を緩めないために走り出し、炎球をハンスの頭上に落として、ファンネルを3つ追撃に打ち出す。
ハンスも水球を頭上で展開して相殺。
追撃のファンネルも全部弾かれてしまった。
水球と炎球がぶつかり合って辺りに水蒸気が立ち込める。
私は風の流れを操って水蒸気の逃げ場を無くした。
私はニヤリと笑ってさらに炎球を追加する。
とたんに水蒸気爆発が起こり、辺りが吹き飛んだ。
「あ、やりすぎた!?」
水蒸気爆発は知識では知ってるけど、実際にやったことはなかったからここまで威力が出るとは思わなかった。
そしてよく見たら爆発の跡地にいるはずのハンスがどこにもいなかった。
「あ、あれ……?」
頭上に気配があると気づいた頃にはもう遅かった。
頭上から大量の水が降り注ぐ。
びしょびしょになった私は、後ろをとられたと思って大幅に現在地から飛んで回避。
やっぱりその通りで電撃魔法がさっきいた場所に届いていた。
感電したら終わりだったね……。
暗闇魔法が追撃にきたため風で打ち消して、追撃が来た方向にファンネルを残り全て飛ばす。
上空にいるハンスを目視出来たと同時に、地面から足元にツタが巻きついた。
「ッチ!」
油断した。
反省は後回し!
足元に巻きついたツタの根本を風の刃で切り裂いて、走り出したところに感電狙いの雷撃が降り注ぐ。
不利な位置を変えるため、魔法で私も上空に上がろうとして気づく。
上空は冷気の魔法に包まれていた。
濡れた体に0℃を下回る風が吹いている。
指先が凍ってきてうまく動かない。
とりあえずさらに上空に上がりながら炎柱を4本周りに立てて、防御と暖を取る。
その間にハンスの取る行動の予測と回避位置の算段を立てていると……。
モゾモゾ。
「ん? ……え!?」
足に纏わりついているツタを見たら、動いていた。
体についていた凍った水分を私が溶かしたせいで、それを吸収してうようよと成長して私の体を這っている。
「う、うそ!? ちょ、ちょっとまっ! いやぁ!」
集中が乱れ、炎柱が掻き消えていく。
「し、下着の中に入って来ないで! ちょっとハンス! 反則! これはダメなやつでしょ!?」
力が入らずふらふらと、地上に降りざるを得なくなったそんな中、容赦なく暗闇魔法を打つハンス。
直撃を受けて視界が消える。
しかし感覚は消えないため、むしろ敏感になったために感度が増してしまった。
私は必死にツタを引きちぎる。
「くっ、ぬるぬるする! なんでツタが成長して動き出すのよっ!」
誰かが近寄る音が聞こえる。
「おやおや。この程度で冷静さを保てないとは……。言ったはずですよ、殿下には弱点が3つあると。――2つ目はわかりましたね?」
クスクスと笑うハンス。
魔法は解かれたが、私は恥ずかしさと悔しさで顔を上げられないでいた。
弱点の一つ。前回の戦いでは、狭いところに閉じ込められて放置されたので私が発狂してしまっていた。
壁を壊しても壊しても迫り来る恐怖……。
それからの戦闘は、足を使って走り回るスタイルになった。
私の弱点は狭い所と、破廉恥なこと。
あと一つはまだ教えてもらってないけど、私そんなに弱点あるのかな……。
「ハンス様! このようなことが陛下に知られては……」
レイが心配して駆け寄ってきてくれた。
「レイ。魔道士の戦闘では集中力を乱すという目的でこのような魔法はよく用いられているのですよ。命の取り合いですからね。敵はどのような手でも使ってきます」
「レイ、私は大丈夫。実際その通りだし、私の実力不足だから」
成長する植物か……。
つまり、ギミックを仕込んで発動させると時間差攻撃になるから、有効打を与えられる可能性が高くなる。
「では、言葉遣いが乱れましたので……言わなくてもわかりますね?」
はぁ……。
年末番組並みの恒例行事みたいになってるじゃん。
腕を差し出すついでに、私はグーパンチをハンスの腹に叩き込む。
……失敗。
鞭の先端が私の拳とハンスの腹の間に挟み込まれていた。
そんな私を見て、ハンスは笑顔になる。
「殊勝な心掛けですね」
パチン。
腕ではなく頭に鞭がきた。
もう慣れたもんね。
……何が悲しくて慣れなきゃいけないんだよ、ちくしょう。
「ハンスさん、今日もご指導ご鞭撻ありがとうございました。いつか八つ裂きになられる日が来るのを心より願っております」
「おや、こちらこそありがとうございます。私も心底願ってますよ」




