5-2 愚痴と穴掘り
ハンスの家庭教師が始まって数ヶ月過ぎた。
「ねぇリーン。私、とうとう分身と透明化が使えるようになったよ……」
「えっ、大丈夫ですか……?」
全然大丈夫じゃない。
ハンスの授業中に、私がだんだん透明になっていってるのをハンスに指摘されたし、いつのまにか分身が横で寝てたりした。
最近は、夜寝る前にリーンに愚痴を聞いてもらうのが日課になっている。
ハンスの授業は、職業遊び人の私には負荷が重い。
負けたくないから毎日全力で問題を解いてるけど、解けば解くほどハンスは頭がおかしくなって、最後にはこれが愛ですか?って自問自答し始めていた。
「週休2日はダメだって! 遊び足りないよ!」
「いや、まだ遊ぶんですか……?」
分身が使えることによって、もう1人の私は常に遊んでいる。
だけど、本体の私も遊びたいんだもの。
「息抜きは必要でしょ。もう鞭を避ける遊びでもいいからさ」
「ゲームでは鞭なんか持ってなかったんですけどね……いっそのこと調教師にでも転職したほうが……あっ」
リーンはそれから黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
「いえ、ハンス様は恐ろしく耳が良いので、この会話が聞かれている可能性があると思いまして」
え、それもっと早く言ってよ。
私今までリーンに愚痴としてハンスの悪口言いまくってきたんだけど。
「ま、本人から何も言われてないし、多分大丈夫でしょ」
「そうだといいんですが……」
それに、ハンスは悪口とか平気そうだしね。
メンタルお化けだし。
「そーだ。結界って作れないのかな? 盗聴防止結界とか。イメージする概念の問題でここではあんまり見ないけど、ゲームの定番じゃない?」
「どのような効果を持たせるかで難易度が変わるらしいですが、私が教えてもらっている治癒魔法の先生は、浄化魔法の結界を作ってましたよ」
なるほど、浄化魔法を広範囲展開したら多分簡単に再現出来そうだけど、今の私には必要ない魔法だね。
「うーん、音は振動だから、振動を抑える結界なら作れるかも? イメージは防音室で音を吸収する感じで」
「なるほど、って言っても私には難しいですけど……」
配信中のあの防音室の中の空気感。
早速やってみよう。
「リーン、今から声出すから聞こえるか教えてね」
「えっ、試すのはや」
リーンの声が途中で聞こえなくなった。
あ、そうか。
双方向で聞こえなくなるのか。
「リーン、聞こえるー?」
ジェスチャーを交えて合図すると、首を振って教えてくれた。
お、成功みたい。
「ハンスのバーカ! 鬼畜腹黒エセ眼鏡ー!!」
ふぅ。
スッキリした。
防音結界を解くと、リーンのか細い悲鳴が聞こえた。
「どうしたの?」
「あ、あの……窓の外に何か見えた気がして……」
え、心霊現象?
私は窓に近付いて外を見るも、何もいなかった。
「私、倒せないお化けは嫌いなんだよね。触れられないとかチート使いだし、せめて現れたら睨もうと思ってたけどもういないみたい」
「……お化けをそんな風に言う人初めて見ましたよ」
ふふっと笑ったリーンは、もう怖がってない。
「今日は一緒に寝る? 明日休みだしね」
「いいんですかっ!? 嬉しいです!」
怪しげな現象があった日におちおち1人で寝てられないよ……。
べ、別に怖いわけじゃないし。
幽霊なんて存在しないよ。
リーンが見たのは多分木が揺れた影とかでしょ?
「こういう風の強い日はお泊まり会だよね」
「そんな決まりありましたっけ……?」
「うんうん。あ、そう言えば、リーンが作った服また補充させて?」
いつもリーンが作ってくれた服を魔法で複製してるけど、そろそろ新しいレパートリーが見たい。
と言うことで、寝室にやってきた。
寝巻きに着替えた私たちは、リーンの作った服を鑑賞する。
「今回はハンス様との戦いを想定したいい感じの服が出来ましたよ!」
そうして見せてもらったのは、黒いスタイリッシュな軍服でカッコいい服だった。
「や、やばいカッコイイ……。特にこのヒールがいいよね。踏んづけたら痛そう。でも、これ大人向け?」
リーンの作る服は全体的に子供用じゃない。
「私はアリア様がゲーム開始時点の16歳くらいになった時を想定して服を作ってます!」
「まぁサイズはこっちで調整出来るけど……」
なぜ今の私に合わせてくれないんだ……。
リーンは私の将来の姿を知ってるから、きっとその年齢になったら似合うんだろうけどね。
「あと、他に忍者、巫女、セーラー服、ゴスロリ、あと水着も用意してあります!」
コスプレ大会じゃないか……。
まぁ、いつもお世話になってるから着るけどさ。
「でも水着かぁ。嫌な思い出しかないなぁ……」
水上都市での出来事を思い出す。
最近お姉さまは諸外国との外交で滅多に国に帰ってこないから、そう言う意味では安心だけどね。
「もう、そうやっていつも誤魔化すんですから! いつになったら着てくれるんですかぁっ」
「やりたい事やってると、なかなかね……」
この前はピクニック用の服を作ってくれてたけど、ピクニックはやってない。
……お花見とかしても食べたらすぐ撤収しそうだし。
多分何かしらバトルに持ち込んで戦いになりそうだから、リーンの望むものは永遠に得られないんだろうな……。
「アリア様とお花見デートしたかったのに……」
しょぼんとしたリーンにかける言葉が見つからない。
お花見レース、お花見大会、お花見コンクール……。
だめだ、デートって何すればいいの……?
「つまり、私がお花見スポットで大会を開くから、リーンはそれを見て楽しむ……?」
「そんなのデートじゃないですよぉ!!」
「ぐわっ」
いろいろ考えていたら、リーンに枕を投げられてもろに顔面受けしてしまった。
♢
休みの日。
私の秘密基地計画は順調に進んでいた。
秘密基地の設計図も暇を見てドミニクと一緒に作っている。
そして何より、数ヶ月前に掃討された反乱分子のおかげで、父から王族のみ知る秘密の抜け道を教えてもらっていた。
私の屋敷の1階談話室の暖炉から行けるその道は、地下に繋がっていていろんなところへ行く事ができる。
ちなみに談話室には、卓球台、ビリヤード台、雀卓など場所を取るゲーム台が置いてある。
そして今、私は地道に地下の抜け道の拡張工事を行なっていた。
「ふふふ……これを市民街まで繋げて秘密基地直通にするのだ」
もちろん防音結界を張っているので工事の音は伝わらない。
完全に私だけが知る道になる。
レイ達を欺くために、分身が今ドミニクと遊んでいるのでバレる心配もない。
何年かかるかわからないけど、私はやり遂げる……!




