間話 あなたの想い人
私がドワーフ地下帝国からクランツェフトに帰ると、ルヴィアはもうリンルードに帰っていた。
私の寝室のサイドテーブルにはルヴィアからの置き手紙があって、次会う時までにアリアより強くなるからその時は結婚して?って書いてあった。
……ルヴィアはまず私の寝室に不法侵入するのをやめることから始めようか?
そして、めちゃめちゃ父から怒られたのは割愛する。
ドミニクはと言えば、ルヴィアがいなくなって少し寂しそうに見えた。
それにドミニクもリーブスさんの仕事を手伝っているみたいで忙しいようだ。
みんな自分のできることを頑張っているみたい。
私はと言えば……。
「明日からハンス様の授業が始まります。姫様、バーバリーではお役に立てず申し訳ありません……」
ようやく始まるハンスの家庭教師だけど、もう吹っ切れている。
「レイが気にすることじゃないよ。一般教養の授業は嫌だけど、魔法教えてくれるのは嬉しいし」
クランツェフトでは平民の学校はあるけど、貴族は大体家庭教育らしい。
成績優秀な人は魔法大学へ行くみたいだけど、私は興味もない。
そういや前世でよく授業中にゲームしてて怒られたなぁ……。
「それならばいいのですが……。私もお側で控えておりますので、何かありましたら止めに入ります」
え、何があるの?
恐ろしすぎるんだけど……。
♢♢♢
東塔の一室。部屋に漂う古い本の匂いは、机の上や下に積み上げられた本のもので、先ほど荷馬車にて到着したハンスの私物の一部だった。
「レイ君。君の魔眼を他者に移す方法がある、と言ったらどうしますか?」
アリアーデの家庭教師をするために皇城の東塔に居を構えたハンスが、レイを呼び出していた。
「それは姫様に、と言う意味でおっしゃっていると理解してもよろしいでしょうか」
本棚に本を入れながら、ハンスはため息をつく。
「どうとでも。片方しかない君の魔眼が魔力の巡りを悪くしている事に気付いていると思いますが、この先も生きていたいなら、早く手放した方がいい。と助言しているのですよ」
「そんなはずは……」
ない、はずだった。
リーンからもらった情報には魔眼により寿命が縮まる話など書いていなかったし、アリアーデに魔眼を渡すシナリオはどこにもなかった。
「冗談ですよ。――なんて、言うと思いましたか?」
「い、いえ……」
タチが悪い、とレイは思う。
黙々と本を本棚へと並べているハンスを見ながらレイは、結論を出す。
「私の魔眼を姫様にお渡しするつもりはありません。長生きする必要もありません。……こんなもの、なくとも姫様はあなたを倒せます」
ピタっと手を止めたハンスは、振り返ってにこりと笑う。
「おやおや、面白い事を言いますね。君が1番わかっているでしょう? 魔眼無しでは魔眼相手に敵わないと」
「……」
反論の言葉が出てこない。
「フフッ。覚悟が決まったらまたおいでなさい」
話は終わった。
ハンスはまた、一冊ずつ本を並べ始める。
――ああ、姫様。この気持ちを貴女様にどう伝えれば良いのでしょうか。




