4-11 青年組の主張
神様の家で、3人の男が机を挟んで対峙していた。
「……」
場を異様な雰囲気が包んでいる。
1人は盗聴、1人は瞑想、1人はトランプタワー。
最初に声を出したのはレイだった。
「ハンス様、魔法無効化の技術をどうしてドワーフに売ったのですか?」
「……殿下が仰っていることが正解でいいじゃないですか。私は退屈なんですよ」
ハンスは少し後悔していた。
もっと前にこの技術を手放していれば、ドワーフが面白おかしく改造してくれていたのに。
魔法を無効化する技術など、敵を弱くするだけだと思って軽視しすぎていた。
「神は貴方の退屈しのぎの道具ではありません」
瞑想していたラビットが目を開けた。
ちなみに、ラビットはアリアーデ達が出かけたあとにレイ達と合流して、今はお風呂上がりだった。
「おや? 貴方の神は強者にしか用はないと思いますが、こんなところで油を売っている暇はあるんですか?」
「神に献上する品がありますので、ここで待たせてもらいます」
レイはラビットに、アリアーデがここに来た理由を説明していた。
そして、ラビットは昨日ゴーレムを倒して回ったおかげで手に入った魔昌石をたくさん持っていた。
「ラビット様、本当に我々とアリア様のために働く気はありませんか?」
「神がそうお望みなら行動を共にしますが、まだ神託は下っていません」
「そうですか。では、また姫様から指示がある時にお願いします」
レイとハンスは奇しくも同じ感想を抱いていた。
コイツはめんどくさい……と。
当のラビットはそのまま目を瞑り、また瞑想に入った。
「レイ。そちらの計画ですが、とても順調だとは思えないですね」
と言うのも、想定よりアリアーデの成長スピードが早すぎて、強敵と言える強敵が存在するのかが不明瞭となっていたためだった。
「……計画を若干変更する予定です。基本方針は変わらないですが、姫様からの希望もありましたので公式戦を増やしていこうかと検討しております」
「そうですねぇ。私は殿下のお楽しみなど興味はないですが、戦いを経て強くなられるならば協力もやぶさかではありませんよ」
「ありがとうございます。では、強敵の候補となる者の一覧を後ほどお渡し致します。くれぐれも弄んで壊さないようにしてください」
ハンスに不安があるとすれば、味見と称して再起不能まで追い込むことだろうか。
過去ハンスに挑んだものは皆、返り討ちだけでは済んでいない。
誰もが心に傷を負って帰ってくるのだそうだ。
「ええ。こう見えても今は殿下一筋ですよ? 三下など嬲る気も起きません」
「……姫様と戦う時も嬲らないでいただきたいのですが」
「レイ」
名前を言われただけで、レイは失言を悟った。
ハンスは自分の行動を指示されることを嫌う。
言い方に気をつけなければいけないのは昔からだった。
「申し訳ありません。ですが、姫様の御心を壊すおつもりですか?」
「あれは簡単に壊れないでしょう?」
「……」
レイはいつか命をかけてアリアーデを守らなくてはいけない時が来ると、そう思った。
「不敬虔者は私が殺します」
目を開けたラビットは、剣の鞘に手をかけた。
「おやおや! ラビット君から死にたいんですか?」
一触即発の中、一筋の光が帰ってきた。
「ちょっとー! 神様の家で何やろうとしてんの?」
♢♢♢
ほんと、ちょっと目を離すだけでこの人達はすぐ戦おうとするんだから……。
リーンも怯えちゃってるじゃん。
やるなら私も混ぜろっての。
もちろん神様の家じゃなくてもっと広い所でだけど。
「姫様、お帰りなさいませ」
「ほら、レイ! 銃貰っちゃった!」
さっそく貰ったショットガンをレイに見せつける。
多分、レイのスナイパーライフルよりも質がいい。
「おめでとうございます。それでは、クランツェフトに戻りましょうか」
え、なんで戻るの?
早くない?
「もう帰ってしまうのか。アリアよ、また妾に会いに来てほしいのじゃ」
いや、まだ帰るって言ってないし……。
「姫様、ラビット様が魔昌石を既に獲得されております」
先ほどの剣幕と打って変わり、ラビットさんがおずおずと私に近寄ってきた。
「神よ、こちらをお納めください」
そう言って袋に入った魔昌石を渡してきた。
中身を確認すると虹色の魔昌石が少なくとも一つ見えた。
どれだけ倒したんだろ。
私もゴーレムと戦いたかったんだけど……。
「ありがとう……」
私がお礼を言うと、ラビットさんは花が咲いたみたいに喜んだ。
「神よ、神託を!」
まただよ。
これはお礼に神託くれってこと?
「うーん、じゃあ私に不意打ちしようとしてる人がいたら捕まえて連れてくること。……ってかこれって普通に近衛騎士の仕事じゃない?」
「有り難き幸せ。このラビット、必ずや御身をお守りします!」
なんか不安だけど……。
何かあったらその都度神託すればいっか。
「それじゃ、神様ありがとね! また遊びに行くから待っててね」
「うむ。お主も大変そうじゃが、頑張るのじゃぞ」
はぁ、ここに転生したかったな。
みんな優しいし、変な人いないし。
「では、先に私は帰ります。殿下の家庭教師の準備もありますので」
そう言ってハンスは消えてった。
いいなぁ、瞬間移動持ちは。
私も部屋に戻るくらいは出来るように頑張ろうかな。
「帰りはみんなで列車旅といきましょうか!」
一人旅もいいけど、みんなで旅するのも良さそうだしね。
「そう言えば、ドミニクとルヴィアは……?」
色々ありすぎて忘れてた。
「そうですね、どこから話しましょうか……。まずはルヴィア様が誘拐されてから」
は?
♢♢♢
ドミニクとルヴィアは、監禁されていた女の子10人達と一緒にクランツェフトに帰ってきていた。
ドミニクは急いで宰相である父に話を通した。
そしてルヴィアが記した貴族は一斉摘発となったのだが、その際に証拠固めのためにルヴィアの能力が必要になった。
当然、ルヴィアの父にも話が行き、クランツェフトに急遽来訪することとなった。
「ルヴィア、良かったね。これでルヴィアの父君にも認められたんじゃない?」
ルヴィアは複雑な表情をしていた。
「俺のこと、放置してたくせに……」
「まぁルヴィアの気持ちはわからないでもないね。けど今のままよりはよっぽど良いと思うよ」
「わかってるよ……」
翌日、ルヴィアの父であるジャヴィアが到着した。
皇宮の客室で、ルヴィアと5年ぶりの再会だった。
「ルヴィア、よくやった。やはりアリアーデ殿下にお任せして正解だった」
「……アリアは関係ないだろ」
「敬称はきちんとつけなさい。これからお前の魔法で造反者を特定出来次第、お前は私とリンルードに帰る。いいな?」
「……なんで勝手に決めるんだよ」
「お前にはきちんと教育を受けてもらう。そのままでは到底アリアーデ殿下のお側に仕えることなどできないだろう?」
ルヴィアはここに来てジャヴィアの顔を初めて見た。
厳しい顔つきは変わっていないが、ルヴィアは初めて父から存在を認められた気がした。
「……今まで腫れ物扱いしてきたくせに、都合良すぎ……」
「それはすまなかった」
ルヴィアはぷいっと横を向いて口を尖らせる。
「あと、俺はアリアと結婚する。そのために戻って勉強するんだからな!」
ジャヴィアは驚きを隠せなかった。
まさかそこまで関係が進展していたとは。
しかし、子供の戯言。
まだ何も状況が見えていないが故の発言だろうとジャヴィアは思った。
そうでなければ、アリアーデ殿下の屋敷があれほど禍々しい魔力に包まれているはずがない。
あそこまで執着を持っている相手に対して、ルヴィアはどこまで対抗できるのか。
一般教養だけでは足りない。
ジャヴィアはルヴィアに自身の持てる全てを注ごうと決めた。




