4-9 温泉
ラビットはドワーフ地下帝国の最も栄えている都市に来た。
「神はどこへ行かれたのでしょう……?」
街中を1日中探し回っても見つからなかった。
さらに地下にいるゴーレムを倒して回ってもみたが、どこにもいない。
ラビットは一旦バーバリーへ戻って探し直そうと、匍匐前進で小さな穴を進んでいた時。
同じ姿勢の知らない男が穴を塞いでいた。
「騎士隊長のラビット・ラバー。やはり殿下はここにいるのか。押し通らせてもらう!」
「……神を隠したのは貴方でしたか。死んで詫びて下さい」
瞬間、爆発が起こった。
それはラビットが、ベネディクトが同時に剣を抜き、小さい穴を吹き飛ばしたからだった。
下に空間があったため、幸い2人は生き埋めにはならなかった。
突如遭遇して戦いが始まったため、暗殺者であるベネディクトが不利な状況だった。
さらにラビットの剣は冴えていた。
間合いを詰めて、あと一手と言うところで2人の戦いはドワーフの銃声に止められた。
銃を撃ったドワーフは、怒っていた。
「オマエタチ、ドウクツ、コワス、ユルサナイ」
さらに穴からドワーフ達がわらわらと出てきた。
「デテイケ!!」
一斉に、ラビット達に向けて銃が撃たれてる。
全て躱したラビットとベネディクトだが、さすがにここで戦闘を継続することはできず、ベネディクトから先に外へ走っていった。
追いかけるラビットは、洞窟の入り口に着いたと同時に両足に銃弾を受けるベネディクトを見た。
♢♢♢
レイとリーンは、ドワーフ地下帝国の洞窟に足を踏み入れていた。
「ここで姫様がお召替えをしたようですね……。そして姫様であれば、恐らく水中洞窟を選ぶでしょう」
リーンが訝しげにレイを見た。
「さすがレイさんですね……。そんなこともわかってしまうなんて……」
レイは指を口元に当てて、静かに、とリーンにジェスチャーした。
リーンはそれを見て、両手を口元でおさえて静かにする。
レイはおもむろに燕尾服に隠していた銃を取り出した。
それは、突然小さな穴から出てきた。
迷わずにレイはその人の足を銃で打ち抜く。
装填してもう片方の足を打ち抜くのも忘れない。
「べ、ベネディクトっ!」
リーンが驚いて叫ぶ。
そしてその後出てきたラビットにも驚いた。
「ラビット様!?」
レイはベネディクトに近寄って耳元で囁く。
「レイモンド枢機卿は捕まえました。報酬は払いますので、こちら側に来てください」
すると、ベネディクトは驚いた顔をして、そして頷いた。
「リーン、ベネディクトを治療してください。我々の味方になりました」
リーンがベネディクトに駆け寄って治療魔法を開始する。
足の怪我は銃弾が突き抜けていて治療しやすかった。
「貴方達、私の神はどこにおられるのですか?」
「ラビット様、そのご様子ですとまだ姫様にお会いしていないと言うことですね。あちらの水中洞窟は探しましたか?」
それを聞いたラビットは、脇目も振らずにぽっかり空いた崖へと飛び込んで行った。
「ラビット様……」
その様子を残念な人を見る目でリーンは送った。
「ニンゲンダ。マタ、ニンゲンダ」
ラビット達を追いかけてきたとみられるドワーフ達が穴から出てきた。
「ドワーフの皆様、お騒がせして申し訳ありません。少々お伺いしたいことがありますが、よろしいでしょうか?」
レイは、アリアーデがドワーフ地下帝国に辿り着いていないことに疑問を持っていた。
「オマエ、ソノブキ……」
ドワーフ達がレイの武器を見てコソコソと喋り合っている。
「オマエ、ツイテコイ」
「そこにいる女の子も一緒で大丈夫ですか?」
レイはベネディクトをあらかた治療し終えたリーンに手を向ける。
「フタリダケ、ユルス」
そうしてドワーフ達に招かれたレイとリーンは、ベネディクトにクランツェフトへ戻るように言ってからドワーフの後をついていく。
小さな穴ではなくて、人間用の隠し扉を通ってレイ達はドワーフ地下帝国へと潜っていった。
♢♢♢
やっぱり、私はじっと救助を待つのは性に合わない。
「ちょっと散歩してくる」
決してハンスと一緒に居るのが気まずいからじゃない。
これは良くある吊り橋効果ってやつだと思うんだよね。
普段から嫌味を言ってくる人を好きになるわけないじゃん。
「あ、ラビットさんだ……」
洞窟を歩いていると倒れているラビットさんがいた。
「え、食料ないんだけど……」
口減しするまでもなく、食料がない。
ハンスすら養えなかったのに。
「もしみんな来たらどうしよう……」
やっぱり出口を探さないと。
私はラビットさんを無視してまた歩き始める。
崩落したところを掘るしかない?
向こう側に人がいる事を祈って叫ぶ?
魔法が使えたらこんなことすぐ解決するのに……。
いかに普段から魔法に頼っていたのかを突きつけられてるみたい。
準備は大切だよね。
想定は多ければ多いほど非常時に備えられる。
基礎の基礎なのに、そんなことも忘れてたんだ……。
「あれ? レイの声がする気がする」
崩落の現場が見えるところに腰掛けていた私は、かすかに聞いた事のある声を感じた。
ドン!
直後に衝撃と、岩が吹き飛ぶのを見た。
「危な! ちょ、人いますから! ここにいるから!!」
急いで走って離れる。
さらにドンドンと爆発が起こる。
辺りに煙が立ち込めて悪くなった視界の中、2人の影が見えた。
「あ、リーンだ!」
「アリア様!! よかったです〜〜!!」
私はリーンと抱きしめ合って喜んだ。
レイは、自前の銃を手にドワーフと談笑していた。
「オマエ、ミコミアル。カミアイタガル」
「ありがとうございます」
ドワーフってあんなに小さかったんだ。
初めて見るけど可愛いかも。
「レイありがと。ドワーフさんも助けてくれてありがと。魔法が使えたらすぐ出れたんだけど……」
「姫様、お疲れ様でございます。事情はドワーフ達から聞いております。魔法無効化の試験運用をしていたようですね」
タイミング悪すぎだよ……。
魔法無効化って人間にとってかなり効果的なモノだよね。
これが普及したら勢力図が絶対変わる。
もう一つの道からハンスが歩いてきた。
ドワーフは、ハンスを見て手を振った。
「ニイチャン、マホウムコウカ、ヨカッタカ?」
「ええ。それなりに楽しめました。しかし、魔法で生み出した物は消えないと言うのは改善が必要ですね」
「ソウカ……。オレタチ、マダマダ」
なるほどね。
ハンスは私をドワーフの試験運用に巻き込んだのね。
……まぁ飛び込んだのは私だけどさ。
「色々言いたい事はあるけど、ひとまず魔法無効化の解除方法を教えて?」
「ワカッタ。オレタチノマチ、アンナイスル」
そうして連れてこられたのは、ドワーフ地下帝国の宿場町だった。
宿を取って今日は休むことにした。
ちなみに解除方法は、お湯に浸かるだけ。
これ絶対ハンス知ってたでしょ。
やっぱ殴ればよかった。
今は地下温泉の女湯でリーンとお風呂。
ドワーフの温泉はかなり浅いけど、半身浴って思えばそこそこいける。
「はぁ……生き返る。ねぇリーン、最近のみんなの動きってなんでこんなにおかしいの? 今までネタバレになると思って詳しくストーリー聞いてなかったけど、さすがに気になるよ」
この世界がゲームならば、攻略本を見るような行為はあんまりしたくなかった。
何が起こるかわかったらつまらないし。
だけど、さすがに驚くことが多すぎて心臓持たないよ……。
「あの……言いにくいんですが、もうストーリーあんまり関係ないです。」
「……そっか」
これが自業自得ってやつ?
フラグを踏みすぎておかしくなった者の末路。
「リーン、私を抱きしめて?ドワーフさんも一緒に……」
その時湯船にいたみんなが私を慰めてくれた。
「……アリア様! 私、レイにもう少し落ち着くように言ってみます! まだ間に合いますよ!」
「え、間に合うとか間に合わないとかあるの? 戦うのはいいんだけど、罠とかサプライズに疲れたんだよね」
「あ、なるほど……。なら正々堂々と挑むように伝えます!」
一体リーンは何を言ってるんだろ……。
誰が襲ってくる予定だったのよ……。
「はぁ。次は順番でよろしく。もう予約制にしようよ」
「相談してみます……」
ラビットさんにルヴィアにハンスに……。
最近は襲われすぎだったのよ。
……あれ?
「あ、ラビットさん忘れてた」
洞窟に置き去りにしちゃったけど……まぁいっか!




