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4-5 洞窟探検

 ドンッ!

 何かにぶつかって私は空中で停止した。


「おやおや、こんなところで奇遇ですねぇ」


 この声は……。

 どうやってここまで来たの……?

 

「……瞬間移動」


 私は洞窟目掛けて空を飛んでたし、目の前には何もなかった。

 それなのに、何もなかった空間に突然現れた。

 となれば、瞬間移動しか考えられない。


「正解ですよ。と言っても気付くのが遅かったみたいですね?」


 バッチリ目が合ってしまった。

 瞬間移動なんて魔法、使用者がいることにびっくりだわ。

 情景を鮮明に記憶して、そして自分を分解するイメージなんてそうそう出来たものじゃない。

 

 使えても、よく見たお気に入りの景色の所へしか行けないなんてザラだし、それも分解のイメージを誤れば死ぬ事だってある危険な魔法なのに、こんな何もない空中に転移とか……。


「化け物……」


 言っておいてハッとした。

 さすがに今のは失礼だったかもしれない。

 けれど、当のハンスは気にしていない素振りを見せた。


「久しぶりにその言葉を聞きましたねぇ。殿下の認識がやっと正常に戻ったことを祝うべきでしょうか?」


 レガリウスの魔眼をもってすれば、あの位置からでも私の姿は鮮明に見えたかもしれない。

 でも、私の移動中に転移してくるなんて。


「事故したら私まで巻き込まれてた」

 

「そんなことより抱き着かないでいただけませんか?」


「ちょ! これはぶつかってびっくりしただけだし! 抱き着いてなんかないよ!」


 ほんっとサイテー!

 私がセクハラするわけないじゃん!


「なるほど。では、勝負は私の勝ちと言うことで先に進みましょう」


 そう言って、ハンスは私と一緒にドワーフ地下帝国の入り口まで転移した。


「えっ他人も転移できるの!?」


 もうなんでもアリな気がしてくる。

 多分接触がトリガーなんだろうけど、もし遠隔で他人を転移できるとしたら技のレパートリーが広がって仕方ない。


「転移に慣れてしまえば比較的容易ですよ」


 ふむぅ。

 やっぱり私は一度ハンスに教えを請う必要があるみたい。

 このままでは勝てるものも勝てない。


「ハンス、私からも正式に家庭教師の件お願いしていい? ラビットさんには勝てたから大丈夫でしょ?」


「ええ。ようやくそのたわいもない自尊心を捨てることが出来ましたか」


 言い方!

 ……こんなところで意地張ってても仕方ないけどさ。

 ちょっと前世を思い出して嫌な気持ちになる。

 前世の私はプライドが高かったし、私より上位の選手に教えを求めることはなかった。


「……性格だけは絶対ハンスに負けてないと思うんだけど」


「悪い方にですか? 評価基準が曖昧なものに縋るとは、殿下も落ちましたねぇ」


「そもそもハンスは私のこと買い被りすぎ。落ちるも何も上がってないし。一流は謙虚で冷静だから」


 プロゲーマーでトップをとる人は基本的に謙虚でアンガーマネジメントもきちんと出来てる。

 どの競技でも同じようなものだろうけど、自分を真に見つめることができる人が強いんだと理解してる。

 私はゲームの主人公だから体のスペックは高いけど、ただそれだけ。

 結局は人間離れしたことは出来てないし出来ないと思ってた。


「殿下、今のお歳を考慮に入れてませんねぇ。通常、そのお歳で出来ないことをなさっていると言うのに、焦りすぎではありませんか?」


 でも、ゆっくりしてたら追いつかれて、追い越されて……。

 私はきっと恐れている。

 これ以上成長出来ないと感じる日が来ることを。

 そして、諦めて今の状況のままで満足してしまうことを。


「ハンスは……いや、なんでもない。行こ?」


 常に一番を走る人の景色はどんなものなんだろう……?

 隣にいるハンスにそれを聞くことはなぜか憚れた。

 多分それは、自分で見なきゃいけない景色だから。


♢


 洞窟の中に入ると、壁にはドワーフ用らしい移動用の小さな穴がいくつも空いていた。

 その一方で、洞窟の中央には川が流れている。

 

 ……あの穴に入るのは無理。

 子供の私ですらしゃがまないと入れないって狭すぎ。

 ちなみに棺桶に入れられて生き埋めにされたら発狂する自信があるくらいには狭いのは嫌。


「これ、あそこから行く感じ?」

 

 私は洞窟を流れる川の先を指差す。

 一縷の望みを託したのは、洞窟の中央に流れる水中洞窟だった。


「ドワーフ地下帝国に通じている道は、水中洞窟とその小さな穴だけです。どちらを選んでも構いませんが、穴でドワーフと遭遇すると正面から銃で撃たれますよ」


 まるで撃たれたことがあるかのような口ぶり。

 まぁ、私もハンスも普通に迎撃できるからね。

 

「それじゃ水中洞窟だね! べ、別に穴に入りたくないわけじゃないけど、ドワーフと遭遇すると面倒だしね!」


 危機回避!

 水中洞窟が奥まで続いててよかったぁー!


「なるほど。良い情報が手に入りました」


「何か言った?」


「いえ、水中洞窟の方が難易度は高いですので特に言うことはないです」


 それ、難易度低い時に言う言葉でしょ……。

 別に助言なんていらないし、準備すれば越えれると思ってはいるけど。


「ちょっと待ってね」


 まずは魔法で変装を解いていく。

 服も洞窟探検に相応しい長袖長ズボンに変えて、ヘルメットもついでに被る。

 

 創造魔法で出したリュックに、ロープと食料、タオル、魔力充電の携帯灯、着替えをそれっぽい雰囲気で詰めていく。

 なんだか、冒険って感じになってきた!

 

 あと必要な物は……その都度魔法で出せばいっか。


「準備はそれだけでよろしいのですか?」


「うん、魔法で出せばいいし。ハンスはそれでいいの?」


 ハンスはと言えば、何も変わらないいつもの服だった。


「ええ。私は今回見物に来ただけですので」


 見物って……。

 そう言えばみんなのこと忘れてた。

 洞窟に入れたことも伝えないとな。


「ハンス、分身でみんなに私がここにいることって連絡できる?」


「嫌です」


 ええ……。

 協力的じゃないなぁー。


「まぁいっか。ちゃちゃっと行って帰ってこればいいし」


 私セレクトの探検グッズが入ったリュックを背負って、今度こそ出発する。


「しゅっぱーつ! こういう洞窟探検ってちょっと憧れてたんだよねぇ」


 よくテレビとかで探検隊みたいなのやってたけど、実際やるとなるとワクワクする。


「それはよかったですねぇ。私も見物しがいがあります」


 川縁を歩いていくと、ぽっかりと水が吸い込まれていく穴があった。


「滝だね。暗くて下が見えないな……」


 ゴーっと音が鳴って、かなりの水量が落ちているのがわかる。

 滝の下は明かりも何もないので、何メートルの深さかもわからない。


 契約魔具から杖を取り出して光を先に落として、杖の先端にも光を灯す。

 空中を飛行しながらゆっくりと降りると、広い空間に出た。

 

 足下は光を反射するほど真っ暗だった。

 と言うことは、水浸しか……。

 光を飛ばして空間の距離感を測る。

 空間自体は広いけど、他に行けそうな道もなかった。

 光を残して私はこの水の中に入る判断をする。


「ハンス、これから潜るからちゃんと着いて来てね」


 私の後ろにいるハンスは本当に見物だけしてるみたいで、返事も無ければ灯りもつけてない。

 これも分身なのかな?

 つんつんしてみても反応がない。

 不気味だけど行くしかないな。

  

 濡れないように全身が入るくらいの円形の空気膜を作ってゆっくりと入水していく。


 体が全て水に入った時、異変が起こった。

 

「……なんで光が強くならないの?」


 暗闇に長くいると、人は精神に異常をきたす。

 だから私は、水に入った時点で光量を上げているはずだった。


 なのに、入水した時と同じ明るさしか保てない。

 ……いや、むしろ少しずつ小さくなっている。


「やばいかも……」


 トラップ?

 魔力が吸われている感じはしないから、魔法無効化とか……?

 

 今回ドワーフ地下帝国に行くにあたって、本で勉強してきている。

 それによると、ドワーフ地下帝国へ続く洞窟は光る植物のおかげで光量が保たれて、火山へ行くより快適な道のりだって書いてあったのに!


「水が入ってきてる……」


 空気膜が、足元から崩れ始めていた。

 水面へ上がろうともがく。

 けれど、水流に引かれて体はどんどん沈んでいく。

 

「落ち着け、私。こわくない、こわくない。」


 冷静になればなるほどハンスにハメられたとしか思えない。

 難易度が高いって、"高くした"ってことなら納得だし。

 いつもの皮肉かと思ったのに。

 あーもう! 警戒するって言ったそばからこうやって罠にかかってバカみたい。


「寒いっ!」


 下半身が冷たい水に浸かっている。

 水流が下へ下へと流れて、体が引きずり込まれている。


「ええい! こうなったら潜るしかない!」


 思いきり息を吸い込み、私はそのまま水の流れに身を任せた。

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