4-7 ルヴィアとおじさん
夕方になってドミニクはレイ達と合流した。
「ルヴィア様はまだお戻りにならないのですか?」
「うん。ルヴィアなら1人でどうにかできると思ったんだけど……」
ルヴィアの能力ならば、隙をついていくらでも逃げれそうなものなのにまだ帰らない。
と言うことは、何か戻れない事情があるのか、かなりの強者がいるのかどちらかになる。
「姫様の姿をされていたところを攫われたと言うことは、姫様目当ての犯行。かなり前から計画されていたことかもしれませんね……」
もともと戦争が終わりクランツェフトが3カ国を統一したものの、まだ貴族派連中の不満や軋轢などは追いきれていない。
ドミニクは、そのあたりの勢力の犯行だろうと踏んでいた。
「あの……レイさんちょっといいですか?」
リーンがレイを呼び止めて耳打ちした。
「多分これ、ドミニクルートのイベントだと思うんです」
「……姫様がいなくとも、状況が合っていれば起こりうる、と言うことですか……。困りましたね」
本来ならそれはクランツェフトで起こるイベントで、国に不満をもつ貴族達がアリアーデを攫い、ドミニクが金の流れや物資の動きを辿って、どの貴族が犯人か突き止めて助けにくると言うイベントだった。
「僕は領主のところへ行くけど、2人はどうするの?」
レイとリーンは顔を見合わせて頷いた。
「それでは、お供いたします」
レイ達は探さなければいけなかった。
ドミニクルートに出てくるボスキャラの暗殺者、ベネディクトを。
♢♢♢
とある聖堂の地下。
ルヴィアは連れ去られた最初こそ抵抗していたが、状況がわかると情報収集に徹していた。
「んー! んー!」
少し暴れてこれ以上の力がないことをアピールする。
「レイモンド様、姫様を捕えることに成功しました」
「ふん。やはりあのレガリウス辺境伯と同等という噂は嘘だったか。無駄な出費をしたものだな。ベネディクトはどこにいる?」
「それが、最後の連絡ではドワーフ地下帝国まで行くとのことでそれからは連絡が取れておりません」
「ッチ。無能めが。帰ってくるように伝えておけ」
「わかりました。して、姫様はどう致しましょうか?」
ルヴィアはレイモンドからの視線を感じて怯えるフリをした。
「よく見るとあのヒゲ親父に似ず、可愛い顔をしているじゃないか。交渉に使う前に味見をしても良さそうだな」
「では、いつもの部屋に入れておきます」
ルヴィアは腕を掴まれて別の部屋に連れて行かれた。
連れて行かれた部屋には大きなベッドが置かれており、他にもルヴィアと同じくらいの少女達が檻の中で怯えていた。
猿ぐつわと拘束を外されて、喋れるようになったルヴィアはある提案をする。
「ねぇ、おじさん。おでこにチューしていい?」
「なんだ? お前、ここがどういう場所か知ってるのか?」
「知ってるよ。だから、こういうことしなきゃダメだよね……?」
ルヴィアは自然と兵士の首に手を回しておでこにキスをした。
「うえーきも」
ルヴィアは自分の唇をゴシゴシと綺麗に拭いて、自分を連れてきた兵士に命令する。
「じゃ、おじさん。あとは偵察よろしくねー」
虚な目をした兵士が部屋の鍵もかけずに出て行った。
ひらひらと手を振って見送ると、部屋の中を見まわした。
「あのレイモンドとか言う貴族、最悪の趣味してるじゃん」
檻の中で怯えている少女達がルヴィアを見て驚いていた。
ルヴィアはひとまず少女達を檻からだしてあげることにした。
「大丈夫? 俺……あ、私が来たからにはもう安心だからね!」
「助けてくれてありがとう!!」
「ちょっ! だ、抱きつくなっ」
少女達がわらわらと、アリアーデの姿をしたルヴィアに群がる。
アリアーデの身長より高い少女ばかりで、ルヴィアは埋もれてしまっていた。
「まだ助かるって決まったわけじゃないから!」
ここは地下で、出入り口は恐らくルヴィアが連れてこられた時に見た1つしかない。
10人いる少女達を連れて、その1つの入り口から逃げるのは現実的じゃない。
「お、私に考えがあるから、みんな檻の中で怯えるフリをしてて。私がレイモンドをやっつけるから!」
少女達は顔を見合わせて喜び合った。
先ほどの兵士とのやりとりを見て、ルヴィアの能力を信頼したようだった。
「じゃ、よろしくね」
ルヴィアは待っている間、先ほど支配した兵士と視覚を共有していた。
他の人間に不自然さを感じさせないように、兵士の支配は限定的にしてある。
兵士は、聖堂の外へと出て他の兵士にベネディクトを連れてくるように指示した。
その後、兵士にこの聖堂含む屋敷の位置を探らせる。
そしてわかったのは、ここは大聖堂からあまり離れていない場所だと言うこと。
しかし、少女達を連れて逃げれるような道はなかった。
小一時間経過したところに、廊下からレイモンドの声がした。
少女達の緊張が伝わってくる。
「おい、鍵が掛かってないじゃないか! 逃げてないだろうな!?」
レイモンドは乱暴に扉を開けると中の様子を見て安堵した。
「まぁここから逃げれるわけもないか。さて、姫様。残念ながら助けはこないようだ。恨むなら護衛をつけずに旅行させたあのヒゲ親父を恨め」
「ねぇ、おじさん。アリア、楽しいことがしたいなぁ?」
ルヴィアは上目遣いでレイモンドを見つめ、ベッドの上で体育座りをして近づくのを待った。
「おお。ガタガタ震えるしか脳のない小娘と違って、一国の姫は肝が座っているな。これはいい」
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらレイモンドが近づいてくる。
ルヴィアは心底うんざりしながらベッドに上がってくるレイモンドを見つめた。
「どうした? そんな顔せずともすぐに良くしてやろう」
「おじさん、それ、私がしてあげるよ?」
ルヴィアは両手を広げてレイモンドの頭を掴んで無理やりおでこにキスをした。
「あー2回もするとかほんと今日ついてないなぁ……」
ぺっぺと唾を吐いて顔をゴシゴシ拭く。
「それじゃあ、おじさん。他におじさんの仲間はいる?全部紙に書いてね」
レイモンドは機械のようにベッド脇の机で名前を書き始めた。
「みんな、もう大丈夫だよ。コイツのこと蹴ったりしても壊れたりしないから、殴ってみたら?」
そうルヴィアが提案すると、少女達は嬉しそうにそのハゲた頭をぺちんと殴り始める。
1番年長の少女がルヴィアに話しかけてきた。
「あの……アリア、さん? 私たち……これから行くところがないんです。もし良かったら、アリアさんについて行きたいです……」
「えっ、うーん……俺、本当はアリアじゃないんだ。魔法で変身してるだけだし、本物のアリアに聞いてみなきゃわからないよ」
ルヴィアは少女達を怖がらせるといけないので、アリアに変身したまま素直に打ち明けた。
「本当のお名前を聞いてもいいですか……?」
「俺はルヴィア。リンルード出身だからここからはだいぶ遠いよ?」
「ルヴィア様……私達はルヴィア様に助けていただきました。ですから、私達はルヴィア様についていきたいです」
どうしたものかルヴィアが困っていると、レイモンドが名前を書き終えた。
「ちょっと考えさせてほしいなー」
「わかりました。……良い返事を待っています」
ルヴィアはレイモンドから紙を受け取って次の命令をする。
「おじさん、綺麗な服とあったかい食事。あとここよりもっと上質な部屋に案内して?」
ルヴィアが言うと、レイモンドは立ち上がって部屋から出て行った。
「みんな、ここから出よっか」




