3-10 鍛錬
今日はなぜかラビットさんに鍛錬をつけてもらえることになった。
ちなみにハンスは家庭教師をやらないので、それぞれ外部の講師が日替わりで来ている状況だったりする。
「おはよ、リーン。調子どう?」
「おはようございますアリア様!」
リーンは目を輝かせて周りをキョロキョロしてる。
今日は最推しらしいラビットさんに会えるからか、とてもテンションが高い。
「それは良かった。それじゃ、いこっか!」
天気は晴れ。
鍛錬するにはちょうどいい日和。
今日は午前中だけ修練場を借りているから、午後には返さないといけない。
まぁ、元々騎士達の修練場だからしょうがないね。
「姫様、ようこそお越しくださりました。本日も素晴らしい女神の如きお姿を拝見でき大変嬉しく思います」
ラビットさんが出迎えてくれた。
少し堅苦しい……と言うか大袈裟では?
「今日はよろしくお願いします」
後ろでレイがうんうんと頷いているけど、きっとラビットさんの言葉に共感してるんだろうな……。
ちらっと周りを見渡すと、数人の騎士たちがこちらを微笑ましい様子で見てた。
そりゃあまだ私はまだ子供だけどさ。
私の実力を見せつけて驚かせてやるんだから!
「人払いはしているのですが完璧にとはいかず、不躾な視線をお詫びいたします」
ラビットさんが丁寧に腰を曲げた。
「え? そんなの全然大丈夫だよ。時間がもったいないし、早くやろうよ」
「はい。今日は木刀で練習しましょう」
ラビットさんの得意武器は剣だから、剣術を教えてくれるみたい。
お土産の木刀以外で初めて木刀を握るけど、少し重い。
「魔法は使っていいの?」
「ええ。まずは私に打ち込んできてください。姫様に神の御加護を」
ラビットさんが綺麗に木刀を構える。
やっぱりイケメンと剣は様になるなぁ。
身体強化魔法を自身にかけていく。
イメージはゲームでよく使ってた剣士キャラでいこう。
まず一合目は正面から挑んだ。
力が足りなければ振り払われるけど、まずは私の強化魔法でどれだけ通用するか確かめよう。
木刀が激しくぶつかる。
押し込むけど、びくともしない。
力をずらされて、腰に1撃うける。
「姫様、力任せではいけません。4属性魔法も使いつつ隙をつくらせるのです」
木刀痛いな……。
ただ剣だけじゃダメって事だね。
魔法剣士のイメージの方がいいかも。
氷玉を複数作ってファンネルとして追従させながらラビットさんの周りを走って時々氷玉を打ち出す。
氷玉は剣で易々と叩き落とされるけど、その隙に後ろを取って全部の氷玉をラビットさんに打ち込みながら私も近づく。
切り込む直前、ラビットさんの真下の地面から土の槍を出現させて足元に注意を向けた。
「雷撃!」
氷玉を剣で叩き落とした後に真下の槍と真上からの電撃。
眩しくてラビットさんの姿は見えないけど、そのまま私も切り込みに行った。
「お見事、ですが」
「わっ!」
私の木刀は空振っていた。
そして、勢いで転げそうになったところを後ろから支えられていた。
「連携攻撃の後、避けられた時のことも考えて動かねばなりません」
電撃当てられたと思ったのに……。
まだ、2つ以上の魔法を打つ時はイメージを叫ばないと威力が出ないから、やっぱバレちゃうかな。
一応この世界じゃない言葉で叫んでるんだけどなぁ。
「みんなラビットさんみたいに早いの……?」
「先ほどの一撃を避けれる者は、近衛騎士の中では私ぐらいでしょう。自信をお持ちください」
ざわざわと、野次馬達が動揺している。
微笑ましい空気から、青ざめた騎士たちの顔が見える。
「そっか……。焦っちゃだめだね。もう一回お願いします!」
そのあとも何度も挑んで時間になった。
「いたたた……」
「アリア様! お怪我を治します!」
リーンは私に駆け寄って、治療魔法をかけてくれた。
「いつのまに治療魔法を覚えたの?」
この世界の人の治療魔法は信仰が必要みたいなのだが、実際には現代の医療知識があれば魔法は発動する。
「実は、皇宮の医務室で時々教えてもらってるんです」
リーンはまだ骨折とか重症の処置はできないらしいが、打ち身擦り身くらいは回復できる実力だった。
「リーンありがとね」
「いえ、そんな。アリア様と比べたら私なんてまだまだです……」
「私の戦い、どうだった?」
「あの神速のラビット様にここまで迫れるなんて、凄すぎます!」
へぇ、ラビットさんって神速の渾名があるんだね。
と言うことは、この人を超えれたら速さは申し分ないってことだね!
「お疲れ様でした姫様。神はいつでも私達を見守っておられます。姫様の鍛錬もじき実を結ぶでしょう」
ラビットさんは、そう言って手を差し伸べてくれた。
「今日はありがと。またよろしくね!」
「はい。いつでもお待ちしております」
♢
「あの娘はなぜ殿下と共におられるのか気になりますねぇ」
控え室に戻ると、ハンスが足を組んで窓の外を眺めていた。
「見ておられるなら、直接指導してあげてはいかがですか?」
「ラビット君。君は育つ前の実をかじって美味しいと思いますか? 私は彼女を気に入ってるんですよ。どうでもいい相手なら家庭教師でもなんでもしますし、味わおうなんて思いませんよ」
「あなたの言うことはよくわかりません……」
「わからなくとも良いですよ。君は壊し甲斐がありませんし。私は好きな物は最後に食べるタイプなんです」
「そうですか……」
「少しずつ頂き、最後は……。あぁ、楽しみですねぇ」
ハンスはもう自分の世界に入っていた。
自室に戻って、姫様との戦闘を思い出す。
あの普通なら回避不可能な連携は、魔力感知がなければ回避できなかった。
あの歳でこの実力ならば、大人になれば私など軽く凌駕するでしょう。
それでこそ、私の神になられるお方。
ハンスは私の事をつまらないと吐き捨てましたが、姫様は私の願いを叶えてくださるでしょうか……?
「待っていてください、母上、父上、レオナ。罪深い私は神に裁かれなくてはいけないのです」




