3-1 新しい生活
私が十二歳になる頃。
ドミニクの新しい工房が完成した。
そんな新品でまだ備品が整理されてない工房に、私は顔を出していた。
「ドミニク、いる?」
「何ー?」
声だけが聞こえてきた。
ドミニクの身長は低い。
乱雑に置かれた機材の中、しゃがんでいたら確実に見つからない。
チビって言ったら怒るんだろうな……。
「ゲーム機の進捗確認と、ソフトの企画書持ってきたよー」
早くテレビゲームがやりたい。
もうそろそろ雛形が出来てもおかしくない頃だし。
「……今僕に失礼な事言わなかった?」
機材の森の中から出てきたドミニクは、片手でベルを鳴らしながらこちらに近づいてくる。
「い、言ってない。思ったりはしたけど……。それ何?」
「盗聴防止ベルだけど。ここ最近、僕の周りで多いんだよね」
ドミニクの技術は国宝レベルなので、そういったこともあるのかもしれない。
「ふーん……」
しかし、ドミニクの身に付けている魔具は一体どういう効果の魔具なんだろうか。
まだペグロックしか見ていなかったが、よく見ると指輪や腕輪、ピアスも着けているので、これが全部魔具だとしたら、それぞれ効果があるはずだった。
「じろじろ見ないでよ。もしかして、僕の魔具が気になるの?」
「身につけてる物って全部魔具なの?」
「うん。護身用と、日常生活用。同時起動は無理だけどね」
お金にしたら一体いくらになるのだろうか。恐ろしくて聞けない。
「お金にしたら城が一つ建てれるよ」
というか、さっきから心の中の声がバレてるような……。
「あの……ドミニクさん?」
「何? 安心して。僕の魔力じゃ長時間は無理だし」
「……うあぁぁ」
私は顔を手で覆って、膝から崩れ落ちた。
「それで、ゲーム機の進捗だっけ?」
「ちょっと、時間を下さい……」
今まで私が心の中で何を思ったのか思い返す時間が必要だった。
え、まって、変な事言ってないよね?
ドミニクに対して怒る以前に、恥ずかしさしかない。
人見知りで引きこもりがちなドミニクの性格を考えれば、人の心が読める魔具を装備している可能性を考慮するべきだった。
いや、それを前提に動くとか無理すぎでは?
「面白いね」
やめてくれ。その言葉は私に効く。
帰ろうかな?
ドミニクは盗聴防止魔具を机に置いて、私が手に持っていた新しい企画書を取っていった。
「ふーん。なかなか面白そうだね」
「ありがとう……」
「あ、そうそう。アリアの契約魔具だけど、カスタマイズの準備が整ったよ」
そう言って、ドミニクがUSB端子のようなものがついたコードを渡してきた。
「これ、繋げて」
「これは?」
「魔具更新用の接続コード」
言われた通りに私はフレアスカートをたくし上げて、脚にある契約魔具に繋げた。
ドミニクはその様子を見て眉を顰めたが、もういろいろと諦めているので無視する。
ドミニクはタブレットのような板状の機械と睨めっこしていた。
この更新は有線じゃなくて無線に出来ないのだろうか、という疑問はしまっておこう。
きっと技術的に難しいに違いない。
「あ、ごめん」
心の中が読まれているのだった。
……煽りに使える事に気付くとは、私は天才かもしれない。
「ッチ。今はまだ出来ないだけだし……」
「ふふん! この輪っか、お風呂の時洗いにくいんだよね。やっぱりそれなりの機能がないと、満足できないなぁ」
この契約魔具に魔力を通すとナイフ以外にも色んな小物を収納できて、現時点でも結構楽しかったりする。
「レイの魔眼みたいな効果はできないの?」
「はぁ? あのさぁ。そもそも眼に由来する能力はそれ自体が魔具みたいなもので、眼を取り替えるぐらいしか無理。……まぁ魔力の見える眼鏡くらいなら出来るけど、戦闘じゃ使えないね」
そうなのかぁ……。
やっぱり魔眼の攻略は他の方向から攻めるしかないな。
「無理言ってごめん。今日はどんな機能をつけてくれるの?」
「認識阻害機能」
「!?」
えっ、つまりドミニクの持ってる認識阻害ローブと似たような感じ!?
それなら、誰にもバレずに市民街に外出できる!!
「そうだね。多分、今欲してるのはそれかなって」
神か? 神様か?
やはり持つべきものは仲のいい魔具師だね!
ゲームも楽しみだし、高笑いが止まらないよ!
「そのキモイ笑いやめて」
グフグフという笑い声が漏れていたようだ。
更新を待っている間手持ち無沙汰となり、せわしなく動いているペグロックを見ていると工房の扉を叩く音がした。
扉が開き、タイミング良くレイがお茶とお茶菓子を運んでくる。
「姫様。こちらをどうぞ」
「ありがと」
それにしてもタイミングが良すぎる。
……扉の前で待機していた?
「ありがとう、レイ。いつもタイミングが良いね。どうしてだろうね……」
「姫様の要望はいつでも承ります」
いつでもというのは、きっと24時間365日なんだろうな……。
年中無休だね。えらいね。
♢
次の日の朝、早速私は認識阻害を発動させて市民街へと繰り出していた。
一応レイにも許可は取ってある。
……すごく嫌そうな顔をされたけど。
市民街にやってきたのは、遊ぶためではない。
最近発売された、私の作ったカードゲームの実態調査をするためだ!
トレーディングカードゲームが、市井の人に受け入れられているか、ちゃんと確かめないとね!
おもちゃ屋さんにルンルンで入店した。
「アリア様が作ったカードゲーム!? またしてもあり得ないですぅ! こんなの、誰が遊ぶんですか!?」
……茶髪の同い年ぐらいの女の子が、顔に手を当てて叫んでいた。
ごめん……。
「あの、そのカードゲームどこがダメでしたか?」
後ろから声を掛けてみたら、女の子は目を細めてこちらを見てきた。
「誰ですか……?」
製作者です。
とは言えない……。
「通りすがりのゲーマーです」
「あー、ゲームがダメなわけじゃないですよ? アリア様が……はぁ」
露骨にため息を吐かれた。
私がなんだってんだ?
「アリアーデ様が、どうしたんですか?」
「こんなこと、あなたに言っても仕方ないですけど、アリア様はこんなことしてる暇なんて、ないはずなんです!」
こんな女の子にまで、私の遊び癖がバレているのか……。
くっ……。ちょっと胸にぐさっときた。
「そうですよね……」
「ほんとに。どうしたら、アリア様に会えるか考えてたのに、次から次へと問題が起きるし!」
うん?
私に会いたかった……?
「どうしてわた……アリアーデ様に会いたいんですか?」
「そりゃあもちろん、このままだと大変なことになるからですよ!」
女の子は腕を組んで怒ってるのに、その目は本気で私を心配してる。
……正体をバラす?
何が大変になるのか気になるし。
「ちょっと、一緒にお茶しませんか?」
怪しさ満点の私を、少女はじろじろと見ている。
「まぁ、いいですけど……」
渋々了承してくれた。
警戒されるかもしれないからお店に入るのはやめて、時計塔の屋外展望スペースで、買ってきた果実水を飲むことにした。
「奢ってくれてありがとうございます……」
手すりにもたれて、女の子を見る。
「話が聞きたかったからね。名前聞いてもいい?」
「私の名前はリーン・ラベロテです。あなたは?」
私は認識阻害を解くことにした。
ここなら人も少ない。
変装もしているし、顔さえ知られていなければ騒ぎにはならないと思う。
「私はアリアーデ・クランツェフト。それで……さっきの話を聞かせて?」
「ひぃっ!」
そう言うと、女の子は……白目を剥いて倒れてしまった。
「ちょっ!?」
とっさに支えて椅子に座らせる。
青空の下、気絶した女の子と、眺めのいい景色がとてもミスマッチだった。
「えぇ……」




