3-1 大型の魔物
1年半が経ち、ドミニクに頼んでいたゲームの試作品が出来上がってきた。
私が依頼したのは据え置き型ゲーム機で、ソフトはもちろんFPS。
「ゲーム機の名前はどうする?」
ドミニクに聞かれて、何も考えてなかったことに気がついた。
「アリアーデゲーミング……略してAG……」
我ながら安直すぎる。
うーん、うーんと悩んでいたら、レイが息を切らして魔具工房に入ってきた。
「姫様、大変です。皇都のすぐそばの森に大型の魔物が現れました」
「お、大型の魔物?? ここから見える?」
皇宮は皇都の1番高いところに位置している。大型と言うことは、見える可能性が高い。
「はい。現在カイネル皇太子殿下が対応にあたっております」
お兄さまか。
今まで関わった事は無かったけど、討伐するなら私も参加したい。
「どんな魔物なの?」
レイがすでに用意していたようで、魔物辞典を渡された。
「名前はウルヴァでございます」
さすレイ。
何も言わなくても教えてくれる。
「どれどれ……」
机に辞典を置いてぺらぺらとめくって探す。
「あった!」
なになに? 100年に1度、深き森より這い出て数年かけて魔王への供物を集める魔物?
厚い毛皮に覆われて、特に噛みつく攻撃が危険。
剣や槍の物理攻撃は効かないので魔法で倒すって、かなり凶悪だね……。
「まだ主力の皇宮魔道士達は遠征から帰ってないんじゃ……?」
「もうそろそろ帰還する時期のはずですので、現状の戦力で倒せない場合は遅延戦闘になるかと思います」
街に被害が出ないといいけど……。
「むー! 私は何もできないの?」
正直戦いに行きたい……。私が子供じゃなかったらよかったのに。
「そう仰るかと思いまして、姫様が作戦に参加できないか確認しております」
「確認?」
普通に考えたら許可出ないだろうな。
いつものレイなら確約を持ってくるはずだし、息を切らして走ってきたのも気になるし……。
「やっぱり、私が直接お兄様にかけあってくる」
私の魔法も役に立つかもしれないし、お兄さまに私の本気を見せたらきっと戦力になるってわかってくれるでしょ。
「い、いえ……私がもう一度行って参ります」
くるっと踵を返してレイが行こうとしたところを、私は後ろをついていく。
「あの……姫様?」
「うん? ついでに外で魔物の姿を見ようかな〜って」
困っているレイにニコッと微笑む。
「あのさぁ。君も危ないから来るなって言ったらどうなの? アリアだって実戦は初めてでしょ?」
話を聞いていたドミニクが口を挟む。
レイを見ると、右手で眉間を摘んで言いたいことを選んでいる。
ここまで困っているのはなかなか見たことがない。
「……姫様が望むなら、危険があろうとも私が支えます。私も参加することになっておりますから。問題は、カイネル皇太子殿下です」
「お兄様が?」
レイが戦力として数えられていることに驚いたけど、それだけ人員が不足していると言うことかな。
それにしても問題はお兄さまってどう言うこと?
「カイネル皇太子殿下は……危険です。特に姫様に対して悪質な……感情を持っておられます」
「レイの悪い癖。いつも抱え込まないでって言ってるじゃん。私なら大丈夫だよ!」
めっちゃ口を濁してるからきっと相当なのかもしれない。
けど、そんなの見てみないとわからないし。
「あぁ、そう言うことか。アークリガリットのお得意様だったけど……アハハハッ。兄姉揃ってストーカー?」
爆笑してるドミニク。
え、私だけ何の話をしてるのかわからないんだけど……。
「……行きましょうか」
覚悟が決まったレイに連れられて皇城へと向かうことになった。
道中、大型の魔物のいる森の方向を見ると、何かを探すように犬のような顔を動かすウルヴァが見えた。
そして兵士たちが準備やら報告やらで駆け回ってるなか、私たちはお兄さまの執務室の前に来た。
「レイは待ってて」
「ですが……」
「いいから。私1人でも大丈夫だよ」
「かしこまりました」
本当に過保護なんだから……。
コンコン。
「どうぞ」
お兄さまの声がして、扉を開くと忙しそうに写真を眺めるお兄さまがいた。
「カイネル兄様、アリアーデです。お話があって参りました」
「ア、アリア!? どど、どうしたんだい?」
お兄さま、かなり動揺してるけど大丈夫か?
机の上に写真の束が見えないようにしまわれた。
「あの……大型の魔物の件ですが、私も作戦に参加したいのですが……」
「あぁ、その件か。立ち話もなんだから、近くにおいで」
客用ソファに座ろうとすると、お兄さまが咳払いをして膝をポンポンと叩いた。
もしかして、膝の上が御所望か?
レイが悪質って言ってたけど、金髪の優しそうな王子様で全然大丈夫そうだよ?
とりあえず、ご機嫌をとるために膝の上に座ってみた。
「あの……カイネル兄様?」
見上げると、兄様が泣いていた。
「いや、なんでもないんだ。食事の時だって、食べたらすぐにどこかへ行ってしまうし、遊びに誘おうと思ったら部屋にいない……。ずっと嫌われていたのかと思っていたよ……」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりでは……あれ? これは?」
引き出しの中から、写真がはみ出ていた。
するりと抜き取ると、そこには私が写っていた。
しかも、寝ているところ。
もしかして昔、夜中に入ってきてたのはレイじゃなくてお兄さま?
「……カイネル兄様? こ、これは何ですか?」
「ああ、それは俺の宝物……じゃなくて! 天使の……でもなくて! そ、それは見ての通りアリアの写真だ」
「ふーん?」
これはあれだ。
シスコン野郎だ……。
レイの言っていた意味がわかった。
「純粋で可愛いアリアを守れるのは実の兄しかいないからね。……あの執事は邪魔だ」
ボソッと言ったのも聞こえたよ!
「カイネル兄様、気遣いは結構です」
普通に気持ち悪いな……。
コンコン。
「誰だ? 今忙しいんだが」
いや、全然忙しくなさそうだけど。
なんなら私の腰から手を離してくれませんかね? 降りれないんだけど。
「お兄さま! アリアちゃんを返してくださいな!」
入って来たお姉さまが私を見てフリーズした。
こそっと後ろの扉の隙間からレイが覗いているのが見えた。
「アリアちゃん大丈夫!?」
「アリアがここにいたらまずいことでも? ほら、こんなに仲良しなのに」
ぐぎぎ……。抜け出せない……!
身体強化魔法ですら動かない……だとッ!?
「アリアちゃん、嫌なことは嫌って言わないと!」
「どこに嫌なことがあるんだい? 俺はアリアの為ならなんでもできるんだけど」
「そんなこと、私だってそうだわぁ!」
あーもう!
「私は大型の魔物と戦いたいのー!!」
思わず大きな声で言ってしまった。
お兄さま達がびっくりしている。
「アリア、本気かい?」
手が緩まった隙に抜け出る。
「もし無理なら戦ってるところを見るだけでいいの! できれば作戦も聞いておきたいんです!」
「俺が戦ってるところが見たいんだね。そういうことならば、特等席を用意しよう」
「!? それなら私も行くわぁ!!」
と、言うことで。
私は今、カイネルお兄さまとサンクタお姉さまに挟まれて、前線にいます。




