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転生皇女はヤンデレ達と遊びたい〜優雅な笑顔で心を折りにくる宿敵と恋仲になれると思いますか?〜  作者: 池田ショコラ
番外編 ハンスと愉快なアドベンチャーゲーム
121/122

回想 ハンスが見たもの

 頭が痛い。

 気持ちが悪い。

 寝室のベッドで横になるも、また吐きそうだった。


 アルフォルトの記憶が、リアの記憶が、とめどなく頭の奥へと流れ込んでくる。

 リアの感情が、想いが、これほどない痛みを私にもたらしている。


『――君は何を守り、何を捨てるのか。一つ一つ見ていこうじゃないか』


 リアが最初に捨てたのは、私が家庭教師としてそばにいた日々だった。

 

 案外、彼女は楽しんでいた。

 私への罵詈雑言を吐きつつ、倒したいという執着が、彼女を突き動かしていた。


『彼が私にくれたものは、生への実感そのものだから。私の愛の証明は、追いかけること』


 リアは真っ直ぐに、アルフォルトにそう告げた。

 そこまでのものを、リアに与えた覚えなどなかった。

 むしろ私の方こそ、リアに生かされていたというのに。

 

 次に薄れていったのは、何気ない日常だった。

 私と過ごした日々と、出会いの記憶。


 想い、悩み、選んだ記憶。


『愛というにはまだ遠く、しかしそれがなければ成り立たない記憶――』


 アルフォルトが見ている。

 リアと私の記憶を見て、味わっている。

 やめてくれ。

 私とリアだけの、かけがえのない記憶――。


 

 そして、私とリアの戦いの日々も、リアの中から失われた。


『どれもこれも、君はいつでも挑戦者だ』


 この頃、リアには勝ちたいという欲よりももっと違う感情が芽生え始めていた。


『恋だ。本人すら気付いていないだろう』


 アルフォルトは嬉しそうに、私の頭の中で笑う。

 淡い恋心と共に、リアは私に食らいついてきていた。

 ――それなのに。


 リアの中で、私への憧れと、強さへの渇望が消えた。


『君は一体、何を守っている? ――君の愛は、どこにある?』


 アルフォルトは困惑している。

 憧れと執着がリアの愛だとでも思っていたのだろう。

 

 私とリアは戦って、深いところで繋がっていた。

 だが、それ以上にリアが守りたいものがあった。

 

 守ってくれていた。

 私の――弱さを。


『ようやく、差し出してくれた。君の愛……いや、コレは君自身も気付いていない』


 そう、リアは気付いていなかった。

 まだ、言語化できていなかった愛が、確かにそこにあった。


 ♢


 震えが止まらない。

 あの葉巻の苦味。匂い。

 それすら忘れたら、なんのために彼が――


『君の愛は――とても美しい。彼の瞳の奥の孤独に惹かれ、そして孤独に向き合う彼の瞳を愛した』


『いや……こないで……もう私から、何も奪わないで……』


 わからない。

 ただ、この痛みと、温もりだけは手放したくなかった。

 彼の名前も、愛の理由もわからない。

 感覚でしか、もう覚えていない。


『時間だ。問おう。君は……』

 

 ――嫌だ。

 椅子から転げ落ちるように、逃げた。

 勝負なんて、どうでもいい。

 この記憶だけは、命よりも大切だから。


 足がもつれる。

 膝を擦りむく。

 それでも逃げる。

 みっともなくても、どうなったって。

 この記憶を抱えて走る。


 壁にぶつかった。

 透明な、海水と空気を隔てる壁。


 後ろから、アルフォルトが歩いて追いかけてくる。


『そうだね。君の記憶はどれも素晴らしい、愛だ。入れ替わって、君は彼の事を知った』


『何の……話?』


 わからない。覚えてない。

 そんなの、知らない。


『彼は君を深く愛しているし、君は彼のことを知りたいと願った。それで……その苦味を手放せない理由が知りたいな』


 ――この苦味は、彼が私のことを愛してくれていた、証だから。

 

 上手く息が吐けない。

 苦しくて、目の前がチカチカする。

 魂が黒く染まっている。


『大丈夫。全て手放してしまえば、絶望すらも覚えていない』


 ♢


 最悪だ。

 やめてくれ。

 もうこれ以上、私に見せないでくれ。

 あのリアが、勝負すら投げ出して、背を向けて逃げるところなど……。

 それほどの愛を――私一人に、残していかないでくれ!


 アルフォルトの視界越しに見るリアの涙が、縋る声が。

 リアの感情と共に、間に合わなかった現実を突きつけてくる。


 リアは待っていた。

 私を信じて待っていた。

 ――それなのに、守れなかった。


 胸を焼く痛みが、苦しみが、終わらない。

 

 どれほどの時間が経っただろう……。

 早く、リアに記憶を渡さなければ。

 ……どんな顔で?

 

 全ての記憶を返し終えるのに、どれほどの時間がかかるか。

 戻す順番、彼女の心の準備、全てが噛み合わなければ、ただ他人の記憶を移植されるのと、同じことになる。


 どんな顔で、彼女と向き合い続ければ良いのか。


 

 ふと、息を呑む声が聞こえた。


「……泣いてるの?」


 寝室の扉が開いていた。

 リアが、こちらを見ていた。

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