11-9 玉転がしですか?
リーンは、学生服に身を包み学院に潜入していた。
「こ、これがアリア様と同じ学生服……!」
ブレザーとスカートなのだが、やはりこう言うシンプルな服の方が可愛い。
今は正門で、タイニーと共にラファニエルを待っている。
「ハンナ先生は本当にアイツなのか……?」
「そうですよ! でも体調悪そうでしたね……」
ハンスは海図を回収したあと、私たちを学院に飛ばしてハンナちゃんに変身した。
そして、学院にいるラファニエルを呼びに行った。
「なぁ、先生にとってアリアーデはどんな存在なんだ?」
タイニーは、あそこまでやるハンスが不思議で仕方ないようだった。
「婚約者……ですかね?」
「はっ!? ちょっと待て、それは……えぇ……」
タイニーが珍しく狼狽えている。
それはそう。
みんなびっくりする。
「不思議ですよね。公開告白の話だと、皇帝になるってアリア様言ってたそうですし……」
婚約しているのに皇帝同士になろうとしているなんて、もう意味がわからない。
「まぁ、そこはいいんだよ。先生が生徒に手を出すのはヤバくないか?」
「え……そこですか……」
いや、まぁたしかにそこも問題だけども。
……あ、タイニーはアリア様の精神年齢知らないんだった。
「あー、アリア様はああ見えてとても……大人ですから」
「はぁ? 子供だろ、どう見ても」
めんどくさいな……。
「いいですか? 女体化できる人物に歳が関係あると思いますか?」
「……」
タイニーが黙ったところに、ちょうどラファニエルとハンナちゃんがやってきた。
「皆さん……お疲れですね」
ラファニエルは私たちを見てそう言った。
「さっさと済ませてしまいましょう。学院の地下に向かいますよ」
ハンナちゃんは下を指差した。
ラファニエルが説明を引き継ぐ。
「学院長より、鍵を預かってきました。正門を閉じてから、この鍵で開けると地下に行けるようです」
すごい!
ちゃんとゲームしてます!
「地下には何があるんですか?」
「古い祭壇のようですが、どうも学院長も全容は把握していないようで、もしかしたら内部はかなり広いかもしれません」
準備した方が良さそう……。
「閉じ込められたり……しないですかね……」
「リーン。それは、ゲームとしての傾向ですか?」
ハンナちゃんが聞いてくる。
「だいたいのパターンはそういう感じです……」
地下の秘密の祭壇。そしてギミックを解けば広がる地下空間。玉が転がってくるかも……。
「わかりました。必要なものを教えてください。ラファニエル君は、リーンの言う物を揃えてください。私達はここで待っていますので」
ハンナちゃんはそう言って、門にもたれて目を閉じた。
「えっと、まず目印になるものです! 同じ場所ぐるぐるするかもしれないので。あと扉が閉まらないように挟むものと、軽食と水と灯り……床が抜けるかもしれないので、ロープも欲しいですね!」
「なるほど……少しお待ちください」
ラファニエルはそう言うと、魔法で必要なものを出し始めた。
「すごい……アリア様みたいです」
普通の人だと創造魔法でこれだけの物を出そうとすると、まず魔力不足になる。
「僕も一応先生の教え子ですから、これくらいは簡単ですよ」
リュックに荷物を入れて、ラファニエルが背負おうとしたら、タイニーが声を上げた。
「先輩と先生は、主戦力だ。荷物は俺が持つ」
「ありがとうございます」
ラファニエルは礼儀正しくお辞儀した。
もし、魔物が出てきたら……私は足手纏いになってしまう……。
「あの、よろしくお願いします……」
「大丈夫ですよ。先生もいますし、僕も戦えますから」
爽やかな笑顔で、少し安心できた。
アリア様がいたら絶対行きたいって言うだろうなぁ……。
「ラファニエル君。鍵を通して下さい」
ハンナちゃんが急かしている。
「はい、先生」
ラファニエルが門に鍵を入れると、勝手に扉が開いて床に四角い穴が空き、階段が迫り上がってきた。
先頭は、ラファニエル。次にタイニー、そして私。最後にハンナちゃんがついてきた。
暗い階段を降りながら、ラファニエルが光源を飛ばす。
五分くらい降りると、円形の部屋に出た。
篝火の跡のようなところに、ラファニエルは火を飛ばして明るくした。
「なんの祭壇でしょうか……」
ラファニエルが呟く。
見たところ中央には祭壇があり、何かを置く窪みがあった。
「ああ、なるほど」
ハンナちゃんがパチンと指を鳴らすと、二枚の海図がひらひらと落ちて祭壇に納まった。
「魔力を通してください」
ラファニエルが、祭壇に手を当てて魔力を通す。
すると、海図と祭壇が光始め、左右の壁が動いて道が開かれた。
「二手に分かれますか」
左右の開いた道を見ながら、ハンナちゃんは言った。
「では、もう一つ荷物を作ります」
ラファニエルがもう一セット作る。
「私が持ちます!」
戦力的にはタイニーとラファニエル、ハンナちゃんと私の組み合わせがバランスが良さそう。
「リーン。私たちは右に行きますよ」
「はい!」
ハンナちゃんが右の道を行くのに着いていく。
足を踏み入れると通路脇の燭台に勝手に火がついた。
「リアが見たら、喜びそうですね」
「はい……アリア様は多分こういうゲームの方が好きでしょうから」
恋愛よりも、よっぽど。
通路を進んでいると、何かを踏み込んでしまって躓いた。
「あ……」
罠だと思った瞬間に、床が傾いた。
「リーン、手を……」
ハンナちゃんが私に手を伸ばしているが、見ているのは上の方だった。
つられて上を見ると、開いた穴から大人の背丈ほどの大きな玉が転がってきたのが見えた。
「うわああああ!」
傾いた床の通路を、ハンナちゃんが私を肩に担ぎ上げて走り出した。
「来てます! 来てますよぉおお!!」
「少し、黙って、ください!」
緩やかにカーブを描き、通路はまだ続いているようだった。
ハンナちゃんが、ハァハァ言いながら走っている。
「壊しても、問題ない、玉ですか!?」
「えっ!? そんなの、わかりません!」
ギミックの玉なのか、罠の玉なのか、それとも中に何か入っているとか、わかるわけがない。
「失礼、揺れますよ!」
そう言って、ハンナちゃんはハンスに変わった。
さすがに女の子の体で走り続けるのは厳しかったみたいだった。
どんどん下に降っていく。
左右の壁が途切れ、あるところで開けた。
そこは、広大な地下洞窟だった。
光る鉱石が辺りを照らしている。
「あそこに玉を入れるみたいです!」
大きくカーブを描く道の先に、滝が見えた。
その滝の下には大きな窪みがある。
玉がカーブで落ちないように、ハンスは大きな氷の柱を道に設置していく。
「飛びますよ!」
「いやぁあああ!!」
ハンスが洞窟中央の祭壇まで一気に飛び降りた。
「死ぬかと思った……」
見上げると、大きな玉はきちんと窪みに嵌っていた。
滝が玉に当たり、飛び散った水飛沫が水路に流れていく。
「この体の魔力が、もうすぐ尽きます……。あとはよろしくお願いします」
ハンスはそう言って、壁に持たれて座り込んでしまった。
「は、はい……」
ここで一人にされたら、普通に帰れなくて死ぬと思います……。
水路の水が淡く光っていて、祭壇に描かれた模様がよく見える。
そこには、五線譜とメロディが書いてあった。
「レミファ、ラミ、ファレ……?」
リュックから、紙とペンを取り出して書いていく。
でも、歌詞がない。
その時、上から声が聞こえてきた。
「うわああああ!」
見上げると、別の通路口からタイニーとラファニエルが勢いよく、虎のような魔物と共に落ちてきた。
「えぇ!?」
私は急いでハンスのそばまで避難した。
「先輩、避けろ!!」
着地したと同時に、魔物の尻尾がラファニエルを襲う。
ラファニエルは転移で回避して、魔物に雷を落とす。
タイニーも、自前の剣で魔物を切り裂いていく。
「ちょ、ちょ、祭壇が!」
魔物が暴れたせいで、祭壇が崩れた。
さらに、二人の攻撃で魔物が玉の方に吹き飛ばされて、玉と魔物が奈落へと落ちていった。
「ああ……メモしておいてよかったですぅ」
「すみません、突然床が抜けてしまって……先生もリーンさんも大丈夫ですか?」
息を切らしたラファニエルがこちらに来た。
タイニーは奈落の底を覗き込んでいる。
「はい、なんとか。……こっちは歌のメロディがわかりました」
「こちらは祈りの言葉がわかりましたよ」
ラファニエルはそう言って、メモをハンスに渡した。
私もメモを渡す。
「ありがとうございます。……残念なお知らせですが、私はこのメモを会議室に送った後、消滅します。無事に脱出できることを祈っています」
「あ……」
ハンスが消えてしまった。
「すみません、僕の魔力も……残り少ないです」
ラファニエルが、申し訳なさそうに申告してきた。
そ、そんなぁ……!




