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間話 それぞれの決意

 ラファニエル・ユーリスは、国王であり父のファムタム・ユーリスに怒られていた。


「お前は何をしている。後でいくらでも交渉できると言うのに……皇帝になるなどと言う、白き魂の世迷言に振り回されるな」


「僕は、初めて何かを得たいと心から思いました。この選択に後悔はありません」


 真っ直ぐに父の目を睨み返す。

 言い返されるとは思っていなかったらしく、父は驚いた顔をした。


「そうか……。お前も手に入れたいものができたのか」


「クランツェフトとの交渉を、僕に任せてはいただけませんか?」


 ため息と共に、父の視線が王としての厳しいものに変わった。


「いいだろう。精一杯やるといい」


 初めて、僕が選ぶ側に立てた。

 踏み出す一歩をくれた君に、少しでも追いつきたい。



 ♢♢♢



 屋上からクラスへと戻ると、みんなの視線が痛かった。


「あ、あはは……」


 変な笑い声が出てきた。

 すると、グランが私を見て立ち上がった。


「アリアーデ、かっこよかったぞ! 俺はお前の事が好きだ!」


 は?

 すぐにタイニーがグランをしばく。


「それは誤解を産むだろ。普通に心意気に惚れたとか、言いようがあるだろ?」

「ん? ああ、そういうことだ!」


 そう言うことか……。

 もうこれ以上私の色恋に関わる人が増えたらやってられない。

 レミリアが私に近付いて、そして跪いた。


「アリアーデ様、ありがとうございました。レガリウスが再び私たちの手に戻って……あのお方の心を変えていただけたのですね?」


「変えたんじゃないよ。あの人は自分で変わったんだよ」


 レミリアの手を取って、立たせた。


「レガリウスに戻るの?」


「はい。私の家族と共に」


 そっか。これから、レガリウスも人が増えていくんだろうな。


「おーい、もういいか? さっさと席に座ってくれ」


 後ろにトニー先生が立っていた。

 私とレミリアは席に座る。


「派手にやってくれやがって……。俺のクラスはどうなってるんだよ。お前ら、学年対抗戦は一年の勝利だったがなぁ、もう少し大人しくしてくれ……」


 あ、一年が勝ったんだ。

 先生ごめんなさい……。

 別に私が悪いわけじゃないと思うんだけど……。


「あとな、今日付でノアール先生は退職だ。代わりに……あれは絶対本人だと思うんだが、ハンナ・リベルタ先生に交代だ」


 ああ……なるほど。

 まぁ性別が変われば普通は別人だよね。


 トニー先生はめちゃくちゃ私を見てくる。

 そりゃあ、事情は知ってるけど。


「なぁお前、アレやるんだろ? 打ち上げ。場所決まってんのか?」


 タイニーが横からコソコソと話しかけてきた。

 

「場所だけ決まってないや……」


「じゃあ、俺の船でやろうぜ?」


 おお、いいね。

 船上パーティだ。


「最高だね。色々準備してあるから、荷物運び入れさせてね」


 あ、ハンス誘うの忘れてた。

 そういえば、今日夜一緒に寝ようと言ったものの、本当に泊まるの?

 私、平常心で寝れる?

 どうしよう、あの時はそういう雰囲気だったし、別に恥ずかしいことじゃなかったけど、冷静に考えたら普通にやばいのでは……?


 ♢


 ハンスの教員用宿舎にやってきた。


「リーンには、レミリアの部屋で泊まるって言ったけど……」


「どうして扉の前から動かないのですか?」


 だ、だめじゃないかなぁ?

 生徒が先生の部屋で寝るのは……。


「ああ、ハンナになりましょうか? どのみちこの部屋も彼女の部屋になりますし」


「そ、それでいいのか……」


 それは私の逃げじゃないのか!?

 意識すると緊張してくる!!


「今日はあの服ではないのですね」


「え? どの服?」


 今日はいつものネグリジェで来た。

 もうご飯もシャワーもしたからあとは寝るだけ。


「大事にしまっていた、私仕様の服が――」


「あああああ!! それ以上言わないで!」


 なんで知ってんの!?

 クローゼット見たの!?

 恥ずかしすぎる……!!


 パチン。

 ハンスがハンナちゃんに変身した。


「そんなところでしゃがんでいないで、早く寝ましょう?」


 メイドじゃないハンナちゃんだ……。

 足を組んで、少し偉そうなところもまたかわいい。


「はい……」


 自分が情けない。

 多分目を閉じれば、ハンスがいても緊張しないと思うんだけど……。


 ひとまず、ベッドサイドにいるハンナちゃんの隣に座った。ハンナちゃんの寝巻きはフリルの少ないシンプルな襟付きネグリジェだ。かわいい。


「戻っても大丈夫だよ、ちゃんとハンスと寝なきゃダメだと思うから……」


 ここまで来て怖気付いてはいけない。

 心臓は爆発するかもしれないけど、したらしたで蘇生したらいいだけだ。そうだ。そのはず。


 私は先に布団の中に入って目を閉じた。


「はぁ。そちらから言い出した話なのですが。何もしませんから、安心してください」


 声がハンスに戻ってる。

 ああ、布団の中にハンスが入ってきた。

 目を閉じながら、ハンスをつんつんする。

 いた。

 そりゃあ隣で寝るんだからいるけどさ。

 そもそも、私とハンスは舌を入れてキスしたり、もっと過激なことを……。

 だ、だめだめ!

 想像しちゃだめ!

 あぶない、自爆するところだった。

 

「……すぅ?」


 ……寝息が聞こえてきた。

 

 え、ちょっと待って。

 私は目を開けて隣を見た。

 寝ている。

 ハンスが寝ている!!

 なんて無防備な寝顔なんだろう。


「はぁ、良かった。やっぱり私がいた方が早く寝れるんだ」


 仰向けで寝てるハンスの脇に近寄って、ハンスの腕を掴んで目を閉じた。

 余裕が出てきたら、ハンスの匂いも、体温も、心地よく感じてきた。

 落ち着く……眠たい……。


 ――誰かが頭を撫でてくれている。

 抱きしめてくれたから、こちらも背中に手を回して、頭をすりすりと胸板にすりつけた。

 暖かくて、幸せで、夢みたい。


 ♢

 

 朝、目を開けるとハンスがベッドにいなかった。


「うにゃ……ハンスがいないよぉ……」


 あんなに心地よかったのに、どうして朝になってしまったんだ……。

 暖かさが足りない……。


 二度寝しようと目を閉じる。

 ベッドが軋む音が聞こえてきた。


「おやおや、朝の方が弱いのですね」


「もう少し寝……ん?」


 再び目を開けたら、頬杖して私を覗き込んでいるハンスがいた。

 

「私ならここにいますよ」

 

「ち、近い!?」


 飛び起きた。

 鼻をくすぐる良い匂いがする。


「朝ご飯作ってくれてたの?」


「食べますか?」


「うん、ありがとう……私なんか変なこと呟いてた?」

 

 寝ぼけてた気がする。


「いえ、何も」


 ハンスはニヤニヤしている。

 怪しい。


 とりあえず、パチンと服を着替えて椅子に座る。

 今日の朝ごはんは、トーストとふわふわスクランブルエッグ、サラダとポタージュ。そして香りの良い紅茶が出てきた。

 いただきますと、言って食べた。美味しい。

 ハンスも一緒に食べ始める。

 もう薬草は必要ない。


「あ、そういえば今日の夜に打ち上げがあるんだけど、ハンスも来る?」


 やっと誘えた。

 なんでこんな簡単なことができなかったんだろ……。


「そうですねぇ……ハンナで参加しましょうか」


 ハンスは人差し指をくるくるしながら、魔法で私の髪を整えて、編み込んでいく。

 ……器用だな。遠隔で髪を結ぶのって、さくらんぼの茎を舌で結ぶくらい難しいのに。


「ありがと」


 来てくれて嬉しいな。

 私とハンスで、これからも色んなことを共有していけたらいいなぁ。

 そしたらきっと、毎日楽しいから……。

 

「そのような顔は……私だけに見せてください」


 言われて頬に手を当てる。

 ニマニマしていたみたい。

 なんとなく、あの時みたいだなと思った。


「……ハンス、格闘術の本買ってたでしょ。ラファに聞いた時、すごく……嬉しかったから。だから……あの日正門でしゃがんでたの」


 ハンスはきっと、私がラファにあの顔をしたんだって勘違いしてたんだと思う。

 ハンスの中に入って初めて気付けた。

 ほんと、私だめだめじゃん……。


「ああ……失礼。ちょっと……」


 ハンスが魔法で編んでいた髪がぱらぱらと解けていく。

 目に手を当てて上を向いている。

 深く息を吐く、その耳がうっすらと赤い。


「えっ! あ、そんなに!?」


「……あなたはいつもそうですね。人を散々振り回しておいて、いざ言葉にする時は何でもない顔をする」


 どうしよう、言った私も恥ずかしくなってきた!!


「な、何でもない顔なんてしてないよ!」


「していますよ。少なくとも、私から見れば」


 ハンスは手を下ろして、私を困ったように見つめた。


「ご、ごめん……」


 思わず目を伏せてしまう。

 そんな目で見つめられるとドキドキしてくる。

 なんだか無防備で、困った顔なんて見たことないから。


「ハンスだって……そんな顔は私だけにしてよ……」


 ぴたりと空気が止まった。

 あれ……?

 もしかして、私死んだ?


「……リア」


 低い声で呼ばれて顔を上げると――あれはだめな笑顔だ!

 私は勢いよく立ち上がって逃げに入る。

 が、腕を掴まれて阻止された。


「あなたがそれを望むのなら、もう少し私の望みも叶えていただきたいのですが」


「な、何をすれば……いいの?」


 ハンスは掴んでいた手を、私の手のひらにスライドさせて握った。


「今日一日、私から逃げないでください」


「具体的には……?」


「目を逸らさない。話を逸らさない。恥ずかしくなっても、誤魔化して逃げない」


 そ、そんなの……無理じゃ……。


「できませんか?」


 ニヤリとハンスは微笑む。

 これは挑発だ。私に対する、挑戦だ。


「できるよ! そのくらい、お茶の子さいさ……」


 ハンスは私の手の甲にキスをした。


「頑張ってくださいね?」


 もう目を逸らしそうになる。

 ハンスは清々しい笑顔だった。絶対に、今日一日ろくなことにならない。

 ……誰か助けて!!

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