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10-13 ハンスinアリア

 自身の体と別れて最初に感じたのは、甘いと言う味覚だった。


 なんて甘美な現象だろう。

 部屋を出て、空気が、見える景色が、全てが色付いている。


 思わずスキップして走り出す。

 心が軽い。

 飛んでいきそうだ。

 ――なるほど、これがリアの世界ですか。


 ふと、立ち止まって実感する。

 もしかして、この熱は先ほどのやりとりで生じた感情だろうか。

 そう、熱い。

 燃えるような衝動が、この体を動かしている。

 この熱で、私を見ていた……。


 湧き上がるのは多幸感だ。

 これでは、抑えるのに苦労する。


 パチン、と指を鳴らして宿舎へと転移した。

 アリアーデの部屋に直接入ったことはないが、この島のほとんどの場所には転移できるようにしてある。


 扉を開けると、リーンが待っていた。


「あ、アリア様お帰りなさい! 競技見てましたよ! どうしてあそこでハンス様の名前を呼ばないんですかぁ!」


 リーンはぐらぐらと私を揺らす。

 感情に呑まれそうになる。

 ――恥ずかしいから。呼びたかったのに。悔しいから。

 吐きそうだ。

 この感情を処理しなければいけないとは……。


「だ、大丈夫ですか!? 理由があるんですよね……?」


「わからない。呼びたくなかった……?」


 リーンは盛大にため息をついている。


「本当にハンス様が可哀想ですよ! 恋愛は少しずつって言いましたけど、言うべきことは言わないと伝わらないんですからね!」


 この小娘を後でどうしてくれようか。

 悲しみの処理に時間がかかる。

 なぜアリアーデはこんなにも多くの感情を持っているのだろうか。

 ……ああ、羨ましいですね。


「わかってるよ。私は……ちゃんと好きだから」


 言葉にしたら、体が反応した。

 胸の高鳴りと高揚感。

 ――好き、大好き。


 やめてください。


「ちょっとシャワー浴びてくる」


「あ、じゃあご飯作って待ってますね!」


 服を脱いで、頭からシャワーを浴びて、少し思考を冷やす。

 何という、身も蓋もない感情だろうか。

 とめどなく溢れて、身を焼き尽くすのではないだろうか。

 これを毎日抱えて、正気でいられるとは思えない。


 ずるずるとしゃがみ込んで、頭を抱える。

 これを1日耐える……?

 最悪だ。


 ふと、右目に違和感があった。

 目を閉じると、レイがメモ用紙に何かを書いていた。


 "ハンス様、ほどほどにお願いします。姫様はあなた様を愛しておられます"


 なんというプライベートのない体だろうか。

 だが、この体は安心している。

 家族と言う温かさを感じる。


 私は鏡に文字を書いた。


 "わかっていますよ。嫌と言うほど"


 書いて、すぐに消した。

 アリアーデの姿が鏡に映る。

 鏡に手を伸ばして、顔に触れる。


 とても愛おしい、最愛のリア。

 感情を持て余して、私に立ち向かってきた唯一の人。

 少しイタズラでもしてやろうかと、体を見る。


「はぁ……」


 何を考えているのですか、私は。

 すぐに体を洗って外に出た。

 リーンが夕食を机に並べている。


「今日のメインはお魚です! あとアリア様が好きなプリンもありますよ!」


 パチンと指を鳴らして髪の毛を乾かして、椅子に座る。


「あれ? アリア様、私そんな寝巻き持って来ましたっけ?」


 そもそもアリアーデがどんな服で寝ているのかを知らない。

 そのため、まず分身を透明化してアリアーデの寝室に侵入させて、クローゼットの中を拝見した。

 それなのに、この服は違うと言うのだろうか。


「最近買った……?」


「うーん、その服……私が昔アリア様に渡した、ハンス様ルート仕様の服では……? あのルート、ほぼほぼ監禁状態だったので、同じ服しか着てなかったんですよね」


 寝巻きですらない。


「あはは……嘘だよね?」


 そんなものを大事にしまっていた……?

 あのアリアーデが?


「まぁいっか。それより、多分グリダニアン学院って、グリザイアの秘宝って言うゲームに出てくる舞台に似てるなぁって思ってたんですよ!」


 出された食事を一口食べた。


「美味しい……」


 味覚とは、こんなにも豊かなものだったとは。

 リーンは何か喋っていたが、すぐに完食した。

 明日は屋台で食べ歩こう。

 今のうちしか体験出来ないのだから。


 アリアーデの寝室は綺麗に整えられていた。

 クマのぬいぐるみや、トランプなどの玩具、そして日記。

 パラパラと捲るも、言語が違う。

 いや、とある日からこの世界の言葉になっていた。


 "どうしたら、ハンスと同じ温度になれるんだろう。私は頑張って伝えなきゃいけないのに……"


 見てはいけないものを見てしまった。

 罪悪感と共に、この体の感情――不安がよぎる。


 布団に入って寝ようとすると、布団の中に何かがあった。

 これは……香水瓶だ。

 しかも複数種類があり、メモ書きでこれは違うと書かれていたり、少し合ってるなどとよくわからないラベリングがしてあった。


「???」


 突然涙が溢れてきた。

 ああ、そういうことですか……。


 リアはいつもここで泣いている。

 私を想って――泣いている。


「……馬鹿ですね、私は」


 布団の中に丸まって、香水瓶を握りしめて、匂いを吸い込む。

 

 途端に堰が切れるように涙が止まらなくなった。


「うぅ……ひっぐ……」


 アリアーデの可愛い泣き声を聞いて、感じて――。

 

 やめてください。

 お願いですから、落ち着いてください。

 明日、きちんと謝りますから。


 ああ、苦しい。

 アリアーデの体を抱きしめて、耐える。


 ――私は、リアにちゃんと愛されていたのですね。

ちなみに、アリアーデがこっそり持ち込んでいたハンスルートの服は彼シャツです。

ハンスにとっては馴染み深いので、無意識に選んでいます。

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